'00/09/19 書き手:本日晴天

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「あ、そこで止めてくれないかな」
「あん!?何!?そこってどこだ!!」
 ベンジャミンは車を運転したことのない男である。要領を運転の支持に、ヘイマーは声を荒らげた。そう言いながらもアクセルを緩め、エンジンの負荷でスピードを緩やかに落とす。突然止まって、後続車に追突されないためだ。
「そのイタリアン・レストランですよ」
 とベンジャミンが言ったときには、パトカーは彼が指さすレストランを通り過ぎつつあった。
 止まる場所の100メートル前には言ってくれ、と言いつつ、ヘイマーは左折を繰り返して道を戻り、ようやくベンジャミン氏ご所望のイタリアン・レストランに車を止めた。
「で、このメシ屋がどうしたんだ?よもや、夕食にパスタでも喰っていくというのではあるまいな」
 道を遠回りさせられ、少し苛立っているヘイマーに対して、ベンジャミンは平然と応える。
「僕は夕食がまだなんです。貴方達もいかがですか?代金は、クライアントのシーマ氏に経費として請求しますよ」
 ヘイマーは、怒りはしなかった。
 重要な話というのは、レストランや喫茶店のような、不特定の人間が容易に出入りできる場所の方が返って落ち着いてできる。何者かが尾行していて、近くに席をとって話に聞き耳を立てるなどということは、まず考えられない。
 カサハラも異存はなく、3人はイタリアン・レストランにて軽い食事をとることにした。

「で、貴殿はこの件について、他に何を知っているのかね」
 食事を終えて、タバコに火を点けながら、ヘイマーは尋ねた。
 ヘイマーの問いに対してベンジャミンは応えず、口元をナプキンで拭った。ヘイマーはベンジャミンが口を開くのを待つ。
「あの報告書と車の中で話したことで、だいたいすべてですね」
「では、依頼者のシーマ氏と甥のルーとの関係はどのような感じなんだ?」
「さて・・・」
 ヘイマーは息を大きく吸ってから、緩やかに吐き出した。
「話す気はないということか。では、ここのメシ屋に来たのはなぜだ?」
 ここのパスタが美味しいんですよ、と言いかけヘイマーの表情が変わったのを見て、というのは冗談で、と付け加える。
「実は、ここの店の上役が、例の薬をさばき始めたんですよ・・・」 


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