大正時事異聞録 |
伊佐坂 眠井
連載第十四回・鳥目男の犯罪(後編)
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翌日は打って代わった晴天だった。山中の涼やかな初夏の風に吹かれながら、迷流達は今日こそ鳥目男の住む山奥へと足を踏み入れていた。
「・・・話に聞いてた以上ですねえ・・・」
文字通りの道無き道を、喘ぎながら迷流は進んでいく。その一方で、普段から元気な美鈴はともかく、咲耶までもがすいすいと山道を登っていくので、迷流は都会者の体力の無さを痛感した。
迷流がその旨を伝えると、咲耶は少しだけ悪戯っぽい表情になると、
「小さな頃からよく、こっそりとお屋敷を抜け出していましたから。」
そう言って笑った。
どうやら、このお嬢様は外見とは裏腹に、結構なお転婆らしい。初めて会った時こそ沈んでいたものの、元気を取り戻してゆくに連れ、その片鱗が垣間見える。一般に下の兄弟ほど活発な性格になると言うが、彼女の兄である咲間の頼りない青白い顔を思い出して、迷流は何となく一人納得した。
「探偵さん、しっかりはぐれないでついてきて下さいね、この山では幾人もの子供が行方知れずになっているんですから。」
そんな迷流の感慨を知ってか知らでか、咲耶は少しだけ怖い声を作るとそう言った。迷流は声ではなく、その内容の方に反応する。
「え?それって・・・いわゆる・・・」
「そう、神隠し、と言うやつです。」
「亀隠しって何ね?」
答えた咲耶に向かって、お約束のように美鈴が即座に尋ねる。迷流は笑って、神隠しだよ、美鈴、と言った。
「子供なんかに多いんだけど、突然行方不明になってしまうことを言うんだ。後には履いていた靴だけを残したりしてね。」
「それって・・・誘拐のことか?」
美鈴の質問に、迷流はうーん、と少しだけ唸る。
「それとはちょっと違うんだよ。いなくなった子供は二度と見つからなかったり、見つかっても断崖絶壁の中腹とか、人の力では到底行くことが出来ないようなところで発見される。だから「神隠し」、つまり人の力によるものではない失踪と呼んで区別するんだよ。」
美鈴は成程ね、と言った後で、少しだけ首を捻った。
「あれ?でもまた何で神様がそんな悪戯をするね?鬼とか狐とか他にも悪い事しそうなのは幾らでもいる筈ね?」
迷流はその言葉を聞いて、ほう、と声をあげた。
「そうだね、美鈴の疑問はもっともだよ。うーん、なんて言ったらいいのかなあ・・・そうだ、ここの人達はヤマに行くときは、山の神様を恐れていて、それから守ってくれるものとして、例の五つ地蔵があったわけだろう?一概に神様と言っても良い神様や悪い神様がいるし、それに神様って奴はどうも縄張り意識が強いらしいんだよ。だから自分のテリトリーに侵入した奴がいると・・・」
「神隠しね!」
そう言うこと、と迷流は笑う。それにね、と言いながら前を歩いていた咲耶が振り返った。
「鬼にしてみても元をただせば神様だったりすることもあるし、お稲荷さんはそのものずばり狐さんでしょ?きっと昔の人にとって得体の知れないもの、人間の力を越えたものはみんな神様だったのでしょう。山とか、川とか、嵐とか。」
美鈴がなるほどー、と目を輝かせる。迷流が頭を掻きながら、やっぱり私のような聞きかじりと違って、本家は説得力がありますねえ、と言うと、咲耶は、
「私だって昔を見てきたわけではありませんよ。」
そう言いながら笑った。
「しかしそれにしても神隠しとはまた物騒な話ですね。」
迷流がそう言うと、咲耶は少しだけ目を伏せて、幸い、私は鳥巣さんに助けてもらえましたが、と言った。迷流はそっと彼女の横顔を盗み見る。複雑な表情だった。気を取り直すように迷流は言う。
「じゃあ、我々も神隠しにあわないうちに、鳥巣さんの元を目指すことにしましょうか。一応懐中電灯は持ってきましたが、なるべくなら夜の山道は御免こうむりたいですからね。」
「・・・御免なさい、私の所為で・・・」
申し訳なさそうに咲耶は言った。どうやら逆効果だったらしい。
咲耶が謝るのには訳がある。それは、日が傾きかけたこの時間に三人が山登りをしているのと無関係ではない。
咲耶は鳥巣にお土産を持っていこうと考えていたらしく、その事を美鈴に相談すると、彼女は、それなら手料理が良いだろう、と答えたらしく、既に山登りの準備を済ませていた迷流を置き去りに、二人で仲良く弁当を作り始めたのだった。
それだけならここまで遅くなることもなかったのだろうが、お嬢様である咲耶は、今までに一度も料理をした経験がなかったらしく、弁当の完成を見るまでの間に、数多くの時間と食材が費やされたのだ。
「良いじゃないですか、時間をかけただけのものが出来たんですから。」
大きな漆塗りの重箱に入ったそれは、そう言っている迷流の背負ったリュックサックに入っていて、彼の肩を締め付けていた。
「御免なさいね、私の所為で・・・」
その大荷物を見て、もう一度すまなそうに咲耶は言った。そのやりとりを聞いて、美鈴がクスリ、と笑った。
道を急いだ甲斐もあって、どうにか西の空が赤く染まり始めた頃には、鳥巣の住む、小さな庵に辿り着くことが出来た。
「ここから先へ行くと、もう村外れです。例の五つ地蔵もこの先にあります。」
咲耶は、そう言って道の先を指さして見せる。迷流は腕を組んで頷いて、後で行ってみる必要があるかも知れませんね、と言った。
三人は、ゆっくりと鳥巣の家に近づくと、代表するように咲耶がそのみすぼらしい木の扉を叩いた。
「鳥巣さん、いらっしゃいますか?咲耶、縁澤咲耶です。」
囁くように咲耶がそう言うと、暫しの沈黙の後、扉が薄く開かれた。そして中から微かに声がする。
「咲耶・・・?え、縁澤のお嬢さんが何故この様なところに?」
「いつかのお礼を言いに来ました。」
咲耶は、優しい声でそう言うと、そして、お詫びを言いに来ました、と付け足した。
「そ、そんな、お詫びなんて!あ、あれはこの俺が悪いんです。」
「いいえ、そんな事はありません。」
言いながら、咲耶はゆっくりと扉を開いた。西日が鳥巣の庵の中に赤く射し込み、鳥目男の異形の姿を照らし出した。
不自然なほど顔の外側についている、大きく見開かれた菱形の目。まるで鳥の嘴のように尖っている口元。まさに鳥そのものだ。鳥の顔の下に人間の体がついている。あらかじめ咲耶から聞いてはいたものの、こうして実物を前にすると、迷流は息を飲まずにはいられなかった。美鈴は、はえ〜、とよく分からない歓声を漏らしていた。
「お、お嬢さん・・・」
困ったようにそれだけ呟く鳥巣に向かって、咲耶は御免なさい、と言いながら頭を下げた。
「御免なさい、鳥巣さん。私の父が貴方に酷いことをしてしまって。貴方は幼い私を助けて下さっただけだというのに・・・そして今も、五つ地蔵の首をもぎ取った犯人として貴方を・・・」
言いかけたまま、咲耶は声を詰まらせる。どうして良いか解らずに、異相のため今一つ解りがたいが、恐らく呆然とした表情をしていた鳥巣は、その姿を見て、意を決したように咲耶に歩み寄ると、少女の肩を優しく叩いた。
「その事でしたら構わないです。それが・・・それが私の役割なのですから。」
・
朝は日の出と共に起きだして、猫の額ほどの畑を耕します。
そしてあの恐ろしい夜が来るまで、額に汗して働くのです。
物心ついたときからそうでした。両親もその様にして生活していた筈です。筈です、と言うのは、どうもその辺りの記憶が俺は曖昧だからです。
村の人々は、俺のことを鳥目男と呼んで恐れているようでした。
いや、それとも忌み嫌っているのでしょうか。
しかし時々俺への物だと思われる供え物があることも事実です。
少し寂しいような気もしますが、それで村の秩序が守られているというなら、それで良いのでしょう。俺が関わらない事で、村が平穏であるならば。
もし俺が村に無断で侵入することで、村人に石で打たれるようなことが有れば、それは全て俺が悪いのです。
ああ、それよりも。
今日も夜が来ます。恐ろしい暗闇が来ます。俺は夜が恐ろしい、何もかも全てを包み込んでしまう暗闇が怖いのです。俺の意識も記憶も全てを飲み込んでしまう暗闇。
ああ、鳥が来る。
・
最近、何かと下界が騒がしいようです。なんでも、俺の家からほど近いところにある五つ地蔵の首が、何者かによってもぎ取られてしまっていたのだそうです。
村の人々の中には、俺が犯人だと思っている人も少なからずいるようで、この前農作業をしていたときに、幾人かの若い男の人達に、俺は石で打たれました。
しかし、やはり俺のことを恐れているのか、他には何もせずに男の人達は立ち去っていきました。俺を疑っているのなら、俺の家なり納屋なりを調べればいいようなものですが。
でも、それで良いのです。恨み言を言ったりなどはしません。それが俺の役割です、・・・だったはずです。
・・・なんだか、それもよく分からなくなってきました。
こんな時、俺は何故かあの出来事を思い出します。縁澤のお嬢さんを助けてあげたあの出来事を。あのとき、俺は村に侵入するという禁を犯したことによって、縁澤の旦那様に殴られることになりました。
しかし、あの後何人かの子供がこの山の中で神隠しにあったことを考えると、お嬢様が助かって本当に良かったと思います。殴られたことぐらいどうと言うことはありません。
毎日忌まわしい夜が来る度に、日々の記憶は朧気になっていきますが、何故でしょう、その事だけは妙にしっかりと覚えているんです。
・
「迷流様、咲耶さん連れてこなくて本当に良かったか?」
五つ地蔵に向かう山道を歩きながら、美鈴は迷流の顔を覗き込むようにしてそう言った。辺りはもう、夕暮れと言うよりは夕闇に近く、覗き込んだ迷流の顔も、半ば以上は赤黒い影の中にある。その所為か、美鈴には迷流の表情を伺い知ることは出来ない。
「二人だけにしてあげた方が良いと思ってね。どうせ五つ地蔵の所に行ったところで、ノベリングを行うのは私だけな訳だし。」
暫しの沈黙の後、迷流はそう言った。
結局あれから鳥巣の家でノベリングを行ってみた結果、どうやら鳥巣は五つ地蔵の首を
持ち去った犯人ではないことが証明された。
少々引っかかることがないでもなかったが、鳥巣の無実に喜ぶ咲耶を彼の家に残して、迷流と美鈴は真犯人を暴くためにこうして五つ地蔵を目指しているのである。
「じゃあ・・・どうして私は連れてきたね?」
美鈴の言葉に迷流は少しだけ驚いた顔をした。しかし、恐らくはその表情も彼女の目には映っていない。迷流が口ごもっていると、美鈴はぽつり、と言った。
「鳥巣さんへの、咲耶さんの気持ち。あれは同情ね。だって咲耶さんは隆文さんと・・・」
「そうだろうね。」
思っていたよりも鋭い少女の言葉に驚きながらも、迷流は少し遠くを見るようにしながら言った。
「鳥巣さんへの咲耶さんの気持ちは・・・恐らくは正義感から来ているものであって、愛情ではないんだろうね。・・・それが同情なのかどうかまでは解らないけど。」
何処か遠くで山鳥が鳴いている。西の空の色は紅から藍へと変わり始めており、迷流は懐中電灯のスイッチを入れた。ねえ、迷流様、と美鈴は問いかける。
「迷流様の・・・私への気持ち。・・・同情なのかな・・・」
彼女の思い詰めたようなそんな言葉に、迷流は思わずえっ、と小さく声を漏らした。
「私が、一人異国の地で泣いていた私が、可哀想だったからこうして良くしてくれてるのかな?」
「美鈴・・・」
暗がりの所為で、迷流にも傍らを歩く少女の表情を伺い知ることは出来ない。不意に、愛おしさがこみ上げて来て、迷流は美鈴の頭を撫でた。
「同情なんかじゃないよ、美鈴。同情だったらこうして、君に助手をして貰っている訳無いだろう?私は・・・その、美鈴が必要なんだよ。」
迷流は照れたように、それに美鈴がいなかったら、今頃私は真っ当な生活を送れていなかっただろうね、と続けて言った。
「必要・・・か。」
美鈴は口の中で噛み締めるようにそう言うと、やがてにっこりと笑った。
「うん。良かった。少なくとも迷流様の気持ちが同情でないって分かって!」
少しずるい答えだったかな、と迷流は思った。そして、唐突に目の前の少女が、自分にとってどういう存在なのか瞬間的に迷流は、頭の中ではっきりさせてみようとした。
答えは出ない。
もしかすると出さないようにしているのかも知れない。
美鈴が自分のことをどう思っているかは、幾ら迷流が色恋沙汰に疎いとは言っても分かっているつもりだった。なのにその事について、迷流はいつも明言を避けているような気がする。少女が成長していくさまに気づかない振りをしていたような気がする。
美鈴、とその先に続ける言葉も良く考えないままに迷流が少女にに呼びかけようとしたとき、美鈴が、あっ、と小さく叫び声をあげた。
「迷流様、あれ・・・」
美鈴の指さす方に目を向けると、薄闇の中に、ぼうっと小さな人影のようなものが並んで立っているのが見えた。しかし、その人影にはことごとく首がない。五つ地蔵だ。
「なんか、頭がないって不気味ね・・・」
言いながら美鈴がしがみついてくる。迷流はうん、と頷きながら彼女の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
五つ地蔵のすぐ側まで歩いてきた迷流は、首の切断面を調べてみた。一見すっぱり切断されたようにも見えるが、よく見てみると、円を描くように切断面に高さの違いがある。佐乃の言っていたように梃子の原理でもぎ取ったと言うよりは、まるで抱え込んだ首をねじ切った、と言ったような感じだ。
しかし、と迷流は考え込む。
果たして人間の力でその様なことは可能なのだろうか?
「取り敢えず、ノベリングしてみるよ。」
迷流はそう言って、地蔵に向かって手をかざした。ゆっくりと迷流の瞳が水色に輝き出す。美鈴はその横顔を眺めながら大人しく迷流のノベリングが終わるのを待った。
やがて迷流はゆっくりと目を開くと、
「そんな、何だって・・・?」
荒い息の中、途切れ途切れにそう呟いた。迷流の額には脂汗が浮かんでいる。『場所』のノベリングには普通以上に精神力を使うと言っても、この疲れ方は異常だ。
「迷流様、どうしたね!」
美鈴は驚いて迷流に詰め寄った。迷流はびくん、と肩を揺らして血走った目で彼女に向かって振り返った。追いつめられたようなその表情に、美鈴が今度はびくん、と肩を振るわせた。
「こうしちゃいられない、行くよ、美鈴!!」
「ど、どうしたね迷流様、突然!」
突然走り出した迷流につられるようにして駆け出しながら、美鈴はそう尋ねた。
「咲耶さんが危ないんだ!夜が、夜が来る前に!!」
「危ないってどういう事ね!?やっぱり鳥巣さんが犯人だったか?」
続く美鈴の質問には、迷流は答えなかった。鳥巣の家を目指し、ただ、がむしゃらに駆ける。懐中電灯の頼りない光の中で、迷流達は幾度も躓き、小枝が服を裂き、皮膚に赤い筋が幾本もできる。しかし、迷流達はそんな事には構わず駆けた。
やがて、闇の中にぼんやりと鳥巣の家が浮かび上がる。迷流は、伺いも立てないまま、建物の中に転がり込んだ。しかし、懐中電灯によって照らし出された室内には、咲耶はおろか、鳥巣の姿すらない。狭苦しい室内には、ただ、床の上に空になった弁当箱がおかれているだけである。
「迷流様、向こうの納屋に明かりがついているね!」
戸口の辺りで、美鈴がそう叫んだ。迷流は頷いて、そちらに向かう。納屋は鳥巣の家の畑の先にひっそりと建っていた。明かり取りの窓からぼんやりとした明かりが、外に漏れだしている。
迷流は慎重に納屋に近付いて、一息にその扉を開けた。
「あっ・・・!!!」
迷流の後ろで、美鈴が声にならない声を漏らした。
納屋の壁際には、うずたかく農作業に使う道具が積み上げられていた。そして、部屋の真ん中に鳥巣が咲耶を抱えてしゃがみ込んでいる。
いや、違う。
恐怖と驚きが綯い交ぜになって、大きく見開かれた目。よく見てみると、鳥巣が抱え込んでいるのは咲耶の首だけだった。それに気づいた後で、もう一度見返してみると、咲耶の首を抱えた鳥巣の腕は、流れ出る血潮によって真っ赤に染まっているではないか。床にも赤い血溜まりが出来ていて、その中に無造作に首を失った人体が転がっている。まるでつい先程見てきた五つ地蔵のように。
そう言えば、部屋の隅の藁が積まれているところに、何やら丸いものが見える。石で作られた柔和な顔、胴体から切り離されてもなお微笑み続ける石菩薩だ。それが一つ、二つ、・・・五つ。その他にも藁の中に白くて丸いものが幾つか見える。それは、迷流達に何かを訴えるかのように、虚空となってしまった眼窩を向けていた。
髑髏だ。
恐らくは、この山で神隠しにあったという子供達のものだろう。
カラカラ。
からから。
乾いた音を立てて、壁際に積まれていた人骨が前触れもなく崩れ落ちた。
鳥巣は―――
ゆっくりと迷流達の方に向き直った。目が合う。鳥のように顔の両端に別れた目。そこには、瞳がなかった。ただ真っ白な金壺眼が、音もなく迷流を見据えている。
やがて鳥巣の、鳥目男の口元がゆっくりと開いていく。信じがたい事に、その口は耳の下辺りまで裂けた。
迷流の後ろで、美鈴がひっ、と声をあげてしゃがみ込んだ。どうやら腰を抜かしたらしい。
「あっ、あ・・・」
声にならない声をあげながら小刻みに震えている。
そして、鳥目男は、
「くえええええええええええーっ!!!!」
まるで山じゅうに響き渡りそうな大声で叫んだ。いや、啼いた。
その途端、迷流の頭の中に、凄まじく強靱な意志が流れ込んできた。迷流は抗おうとしたが、とても抗えるものではなかった。迷流の頭の中に膨大な量の歴史が再生されてゆく、膨大な量の理が渦を巻いてゆく。決して自身で『ノベリング』を行ったわけではないと言うにもかかわらず。
迷流は頭を押さえて蹲る。その迷流をあざ笑うかのように、
「くえええええええええええーっ!!!」
鳥目男はもう一度高らかに啼くと、咲耶の首を藁の中において、腕を羽のように伸ばすと戸口の迷流を跳ね飛ばして夜の闇の中に消えていった。
暫くの間、山には鳥目男の啼き声が木霊していたが、やがてそれも収まり、後には――
暗闇だけが残った。
鳥目男の犯罪(後編)・完 |
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