「大正時事異聞録」このお話のアイディアを閃いたのは、退屈な何かの授業中だったように記憶しています。
お話のモチーフとなったものは、一番にあげられるのが、陣内孝則主演の明智小五郎!あれは演出と言い、キャスティングと言い、まさにたまんねっすの一言につきます。そこで私もあの様な(良い意味で)オチが見え見え、犯人がバレバレな痛快な作品を書いてみたいと思ったわけです。
後は京極夏彦先生の諸作品や、「サクラ大戦」の世界観などにも影響を受けたのではないかと思います。
時代を大正に設定したのには、やはり怪盗や猟奇事件が起きて、しかもそこに、ロマンの香りが漂うのはやはりこの時代だと思ったからでしょう。ただ、国名の設定など、実際の大正時代そのものではないので、ご注意を。この時代に設定したお陰で、文明の利器が使えなくて助かっています。たとえば「強聴者」事件なんて、隠しカメラと盗聴器さえあれば、何の変哲もない事件になっちゃいますからね。
連載第一回・強聴者
このお話は、実は、自分の実体験が元になっています。と、言っても盗聴したとかされたとかではなくて、いちいち小さな音でも五月蠅いと文句を言われたことにたいして、腹を立てた経験が元になっているのです。・・・大人げないですね、私も。
最初の1ページ位は、1年半ぐらい前に書いたもので、その時は、キーボード操作が面倒臭くて、止めてしまいました。しかし、プレイステーションの、「御神楽少女探偵団」をやったことがきっかけで、執筆意欲が再燃して、無事、書き上げられる運びと相成りました。
この話において、迷流藍花の特殊能力の顔見せが行われるのですが、迷流の”ノベリング”は、その性質上、「フーダニット」(誰がやったのか?)ではなく、「ホワイダニット」(何故やったのか?)を解き明かすものである為、殺人事件ではなく、こういった事件が、第一話に抜擢されました。
迷流藍花と美鈴のキャラクターは、私の漫画、「パーフェクト・イリュージョン」などにレギュラー出演しているキャラをベースとして作られています。ただ、現在ではそれを離れて、無事に一個のキャラクターとして、独立してきたようにも思えます。
最初は、石田はただただ異常なキャラクターとして設定されていた筈なのですが、お話の流れ上、そうとも言えなくなってしまいました。迷流や静音のことも併せて、実はこの作品のテーマは、「家族愛」(笑)だったのかもしれません。
また、作品の後半に登場した、石田の新しい住居、「箱屋敷」は、京極夏彦先生の「もうりょうのはこ」←(変換できなかった)へのオマージュになっています。
何にせよ、このお話で、”ノベリング”による、モノローグで始まり、同じく、”ノベリング”によるエピローグで終わるというスタイルが確立されたと言えます。
連載第二回・追跡者
このお話のアイディアは、「ストーカー」関連のドラマがやたらと流行っていた時期に思いついたもので、単純に言えば、追われていた方が追っていた、と言うオチの変形バージョンです。
実はこのお話で一番書きたかったのは、序盤の迷流と美鈴の、まったりとした日常なのかもしれなかったりします。まあ、そこら辺が、薄野深舞香の悲恋との対比になってくれれば良いんですが。
今回初登場する、中山義之輔警部と、いきなり刺されて入院した、佐藤剛尚巡査は、昔私が書いていた、「吉村景助探偵シリーズ」に登場していた、中山義人警部と、佐藤正巡査の祖先(?)に当たる人物です。
「強聴者」が、私にしては珍しく、一応オチまで考えていたのに対して、この話は、何時もの様にオチは何も考えていませんでした。途中のエピソードを考えた時点で、あの様なエンディングになることが決定したというわけです。依って、この作品のテーマは、恋人達の愛憎、と言ったところでしょうか。
ラストシーンで、薄野深舞香は、何故、出刃を取り寄せることが出来たのか?そこら辺の謎も、後に解決できればいいな、と思っております。
連載第三回・物臭男の犯罪
全く何でこのような、エグい話を書いてしまったんでしょうか?実は、この作品のテーマは、伊佐坂版「ヒカリゴケ洞窟」です。あれは、モラルと生命と、どちらが大切かをケンケンガクガクする話だったそうですが←(読んでいない)、この、「物臭男の犯罪」では、モラル云々を言いたいのではなくて、「価値観」と言うものが、人によってはまるで違うものだ、と言うことを、苦手なグロい描写と共に表現してみたのですが、いかがでしょうか。
なお、今回が初登場となる、里中明良巡査と、吉崎英樹医師も、「吉村景助探偵シリーズ」のキャラのご先祖様です。
また、ラストでどこかへと行方をくらました、鏑木史彦についても、いつか別のエピソードで決着をつける予定でいます。
連載第四回・伝えて、マイハート
初めて迷流以外の人物を主人公に据えたお話です。そしてまたこのお話は、「追跡者」における、不明瞭だった冷夢と迷流の会話の答えを示したものでもあります。
元々は連載第六回の原稿として考えられていたのですが、当初の予定よりも話が「バカ」の方に流れていかなかったのと、「追跡者」で、これまた予想外ながら、槍下冷夢を登場させてしまったため、繰り上がって第四回のお話になりました。
折良くと言うべきか、折悪しくと言うべきか、丁度このお話を執筆している最中に、日本初の脳死患者からの臓器移植が行われて、何となく妙な心持ちになったことを記憶しております。
一体どうして宇都宮瑞穂と清洲川水穂の人格が融合したのかについては、明確な答えは実はありません。あ、あと友人の某H氏に、
「ただロリロリした美少女と、同棲したあげくにエッチする話書きたかっただけだろ。」
と、言われましたが、そんな事は・・・無いと思います、多分。
連載第五回・群衆
お風呂場で唐突に思いついて、構想から執筆までが殆ど時間のかからなかった作品です。
この作品は、今までの作品と比較しても、より「漫画的」な物を目指してみました。群集心理を映像化してみたらこんな感じかなあ、と思ったわけです。
ただ、空いっぱいに浮かんだ吹き出しが、人の上に落ちていくイメージはあったものの、具体的な話の進め方や、オチについてはなにも考えていなかったので、例によって行き当たりばったりで話を進めていった結果、伊佐坂キャラ史上最も人気のあった(?)名前を持つ、野次馬男さんが登場する運びと相成りました。
するとどう言うことでしょう、筆(ワープロだけど)がすいすいと運んであっと言う間に完成を見ることが出来ました。
また、このお話では、東都の地名を幾つか設定できたことと、迷流の”ノベリング”についての少し詳しい説明が出来たことも収穫だったと思います。
連載第六回・完全な私の為に
友人の某H氏に捧げるこの作品は、元々は、連載第四回目の作品として設定されていたものでした。この、「大正時事異聞録」は、元々は異常性欲を各話の根底を流れるテーマに据えて、それをメインとしたバカ話だったのですが、(だから「強聴者」は元々盗聴願望のお話だったんです)いざ書き出してみると、それほどバカな話にならなかったので、当初に予定していた作品群は、大幅な修正が必要とされたり、お蔵入りの憂き目を見たりするはめになりました。
さて、このお話も元々は、娘に精気を吸い尽くされてしまうと言う、お笑いのような一発ネタだったのですが、こういった事態になってしまったため、いろいろと話を膨らませなければならなくなりました。
その結果として、迷流の過去の話や、また、葬式場に静音を再登場させてみたりするなど、どうにか話を膨らまそうと苦労しました。しかしそれにしても、今回の話はオチが弱いと作者本人も悔やんでいたりするわけです。
でもまあ、この先のお話に続くためのネタ振りは結構出来たので、その点に於いては満足なのですが。
連載第七回・舞踏病
シリーズ二作目の番外編にして、初の(総て)一人称の作品です。しかも書いて(?)いるのが鏑木史彦君とあって、文体をどうしたものかと悩んでいるうちに、何か何時もと変わり映えがしないようなしているような微妙な文体に落ち着いてしまいましたね。
今回のお話の前半部分は、実家の骨董品のパソコンで、wordでも一太郎でもなく、「ライト」と言う怪しげなソフトを使って書いたもので、後で変換できなかった漢字を変換しなおすのが地味に大変でした。
さて、当の鏑木君は、「物臭男の犯罪」で登場したときに比べると、だいぶ落ち着いたようで、意外と良い奴になっていたりしてます。
元々この話は、良くある道に迷って辿り着いた館に住んでいるのが実は妖怪、と言うパターンの話をただ書く予定だったんですが、(舞踏病というモチーフが最初はメインでした)どうせ喰われるなら、丁度良い行方不明者がいた、と、言う事で鏑木君に白羽の矢が立ちました。そのお陰で、ただ喰われるのではなく、それ相応の宿命を背後に持ってくることが出来たと思います。
鵜堂小町という名前は、確か「蜘蛛」という意味のある「ウィドゥ」と言う言葉と、子供を産んだ後で、自分の体を子供に喰わせるという「カバキコマチ蜘蛛」という蜘蛛の名前の一部と、「美人」を意味する「小町」を掛けて有ります。多楽と由良は、二人併せて「タランチュラ」です。
ちなみに、「舞踏病」というのは、何かの映画か何かで本当に実在します。
連載第八回・鈴の音は魔の調べ
連載第六回でコンサートに行く話を出してしまったうえに、連載第一回の時点から「鈴の音は魔の調べ」がどうも気になって仕方がなかったので、このお話を書いてしまいました。
たまには一寸名探偵コナンのような普通の探偵物にしてみようかなあ、と思ったのは良いのですが・・・何処が普通なのでしょうか。
シャルルの声を凶器として使うことはすぐに思いついたのですが、そうなってくると犯人を誰にしようかと悩んで、結果としてちりんこさんはでてくるわ、エピソードは未消化だわとさんざんな目に遭いました。
ただ例によって次回以降のお話の前振りはいろいろとできたんですけどね。
今回のお話は、「お話」として読んで下さい。ミステリーにしては説明不足だし、作者本人も場面場面の小ネタに燃えていましたので。
丹沢静音は果たしてこの後どういう行動にでるのかなあ・・・考えなきゃ。
連載第九回・吸血石
怪盗魔韻羅銘は、二年前に書いたノートのプロット集の段階でも、既に登場人物の一人として設定されていました。こういったお話には、やっぱりライバルとして立ちはだかる怪盗が必要不可欠だと勝手に判断したわけです。
しかし、いざ書き始めてみると、迷流が迷流だけに、どうも怪盗相手に立ち回るキャラではないので、登場の機会を逸してしまっていました。
探偵と戦わせるのでなければ、一体何のために怪盗を出すのか?しかもただ何かを盗んで終わりじゃあ芸がない、私は悩みました。
そこで、まずは助手に愛鈴というキャラクターを付けて、依頼人の感情を一つ貰って宝石に変える、と言うネタを思いつきました。そして盗むものとして、「吸血石」を思いついたので、取り敢えず見切り発車ながら書いてみることにしました。
今回のお話を書くうえでは、まず、もうベタベタにアニメっぽい事を目標としました。思いつきをほぼそのまま書いていったので、魔韻の過去めいた物を書いてみたり、野次さんが出張ってきたりして、ほんとにベタベタになりました。
魔韻のキャラクターはどちらかというと女性読者(いるのか?)をターゲットに据えてみたのですけどどうでしょうかねえ。(何故か予告の葉書を出した時点から、草刈部氏が大変良い反応を返してくれているのですが。)
まあ、とにかくこの怪盗が本編のほうにどのように絡んでくるのかは、先のお楽しみと言う事で。(考えてるのか、俺?)
連載第十、十一回・密航者
連載第一回を終えた当初から、作者自身もずっと疑問に思っていることがありました。それは、迷流の助手をしている中華人少女、美鈴の存在です。一体この子は何故ここにいるのか?迷流は果たしてロリコンなのか?(笑)二年前の設定ノートにも、その事については、謎、そのうち考える、としか書いておらず、過去の自分を呪った物です。
しかし、「追跡者」、「物臭男の犯罪」と書き進めていくうちに、閃きました。この二作品のオチ、どうしてこいつらいきなり特殊能力なんて使えるようになったのか?それを説明する上手い方法を思いついて、私はしめしめとほくそ笑みました。
従って、このお話は、かなり初めのほうから、連載第十回でやることが決定しておりました。
さて、いよいよ連載第十回がやってきました。魔韻羅銘のお話も、無事に十回に行く前に一つ挟むことができていい感じです。私は、今回のお話は、ジュブナイル風味を意識して書いていくことにしました。その結果、青流だの花燃だの怪しげなキャラクターがほいほい出てくることになりました。
迷流と美鈴の出会いについては、友人某H氏に送った予告編の葉書で、美鈴が裸で胸を隠しながら涙ぐんでいるシーンを描いてしまっていたので、あの様な感じになりました。また、美鈴の過去が少々悲惨になったのも、この男のお陰と言って差し支えないでしょう。
今まで短編と言う事を意識して、無駄をなるべく省いて書いていくことにしていた(努力している割には実っていないかも)のですが、今回は無駄なシーンこそ大事かも知れない、と思い、お風呂やお食事とだらだらと書いております。その結果として、前後編になってしまったのは少々予想外でしたが。
まあ、何にせよ、これで迷流と美鈴が一緒にいる意味も分かったことだし、めでたしめでたし・・・なのですが、この手のお話の次回作の予定がまだ何もないので、そのうち考えなければいけなくなってしまったかもしれません。
しまった、大風呂敷を広げすぎた。
連載第十二回・盗作者
連載第二回で花葉田土呂井について、『かつて迷流が事件を解決してあげたことのある』人物だと言うことを書いてしまっていたので、このお話はいずれやらなければいけない宿題の一つでした。
当初の予定では、花葉田土呂井は一人の人間であって、他のある作家のテレパス能力によって頭の中を覗かれ、盗作されると言うストーリーの予定だったのですが、ある作家のある作品とものの見事にネタが被ってしまったので、急遽お話の練り直しが要求され、それで完成したのが今の作品です。
個人的には正録の中でも最も纏まりが良い作品だと思います。最初の案よりはこっちの形の方が綺麗だし。
また、『樫の宮の姫君』を作品内に挿入し、入籠(いれこ)構造にしたことも、結果として作品に深みを持たせられたかなあ・・・と(自己満足)。
あ、よく考えたら正録には珍しいハッピーエンドかも。
連載第十三、四回・鳥目男の犯罪
これもよく考えてみたらあまりにあまりな話ではあるのですが、要するに、首をねじ切る、それだけの話です。
と、言ってしまってはあんまりなので補足しておきますと、今回の話は正録史上初めて最低限度の資料を調べてから書いています・・・つまり普段は何も調べずに書いていると言うことなのですが(汗)。
横溝正史ふうのおどろおどろしい『ムラ』と言う閉鎖社会の中での『ヨソモノ』の葛藤と逆襲を描いてみたかったのですが、うーむ、結局いつもながらのベタベタですねえ・・・。顔隠した奴はいるし、地蔵の首は飛ぶし。
あ、何でも映画『死国』でやはり五つ地蔵の首がもぎ取られていたらしいけど、私が参考にしたのは実際に起きた事件の方です。何県の事件かは忘れましたが。
連載第十五回・裸の王様
この裸の王様と前作鳥目男の犯罪に共通して流れていたテーマ、その一つに実は、迷流の“ノベリング”封じがありました。
鳥巣と鳥目男の二重人格(?)による、記憶の個別化。鳥目男の持つ神の思考対系によって、あてられる迷流。盲目であるという唐花の健常人とは違うと類推されるイメージや思考の形態。
・・・どうも迷流のノベリングがあまりにも便利すぎる能力なので、それに対抗する手段を模索してみた結果がこれです。
鳥目男から続く影葵三部作は、プロットの変更も頻繁に発生し、本当に難産でした。それでいて、次作以降の伏線も張らなければいけなかったので、結局半年ぐらいをこの三部作を書くために費やしたのではないでしょうか。
そのわりには・・・と言うのは言いっこなしって事で(笑)。
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