鐘ヶ嶽
2009年11月21日(土)


 去年12月の大山参り以来、久々に学部時代の連中との低山ハイクの機会を得た。今回の標的は鐘ヶ嶽。厚木市に位置する標高561メートルの低山である。日頃運動をしていなくともそう無理なく登れる、手頃な高さである。今回の参加者は、何度か登っているTem氏、Ф氏、О氏(いずれも仮名)の他、学部時代の宅飲みの王・課長(仮名)も参加することとなった。ちなみに課長は、歩くのを何よりも嫌う男(ついでに湯船に浸かるのも)として知られていたが、知らぬうちに沢登りやビバークなど難易度の高い経験をしたツワモノになっていた。学部卒業から何年も経つと、いろいろと変わるものである。




 小田急線本厚木駅に集合し、バスにておよそ20分強。今回のメンバーの1人が若き日を過ごした土地とのことで、神殿のような分譲マンションや、坂の上という漫画等でも多い立地の高校などについて話す。しかし気がついたら数年に1度は思い出したように決闘罪が適用されるとか、立ち会った人間全員を取りあえず引っ張れるから便利だとか、DSのすれ違い通信は都市の文化だとか、近年は「ラブプラス」とかいう話しかけたり触れたりできる驚愕のゲームが(局地的に)流行っているとか、そんなものが学部時代にあったら部の留年率は数倍になったろうとか、そんな話になっていたような……。




 「広沢寺温泉入口」にてバスを降りて、取りあえずバス停前のコンビニ風個人商店で用意を調える。「朝食がまだ」としてパンやサンドウィッチを買って食らう者(腹に未消化の食い物を入れて登るのはキツい気が)、さらには「昨夜、映画『八甲田山』を2回観たので寝不足だ」として栄養ドリンクを買って飲む者までいる有様。というか、低山と言えども、О氏はなぜ山に登る前夜にそのような不吉な映画を……。気合いを入れていたのだろうか。
 ちなみに地図を見るとトイレは見あたらないので、挨拶代わりに携帯食料の1つでも買ってトイレを借りて、ここで身軽になっておいた方が吉。




 しばらくは、地域の生活道路を歩く。道は細く、地形のせいか住宅の軒先をかすめるような道であった。ある民家の前では犬にやたらと吠えられ、「不審者の襲来を知らせているのか!」とオノノいたものであったが、飼い主によるとハイキング客が来るといつも吠えたてるという。番犬として優秀というべきか、人が来る度に吠えているので本当の不審者が来たときに誰も注意しないようになるというべきか……。まあ「人が来た」ということを家人に知らせ、来訪者が自分の接近を知られた(可能性がある)と思うだけでも効果はあるかな。
 まあ弁護士になった後輩が、最近は性犯罪の案件を取り扱っているらしい、という話なぞしていたので十分我々は不審であったが。いや消息話&世間話ですよ。




 そして唐突に道は急な坂となる。いよいよはじまりましたわい。




 山が神域扱いなのだろうか、山に分け入るルートは鳥居をくぐることになる。
 ちなみにお神籤が大量に結びつけられた枝を数本見つけたが(周囲の木々に分散しているのではなく、あくまで特定の枝に結ばれている)、どこでお神籤を販売しているのだろうか?正月など特定の日にはこのあたりでお神籤が売られるのか、それとも昔の名残なのか……。

 


 鳥居をくぐるともう、そこはハイキングに相応しい道。木々が生い茂り、日は余り差さない。




 ちなみにこの指ぬき手袋、往年の格闘ゲームマニアみたいだ。という話から1990年代格ゲー話、さらにはファミコンなどのクラシックゲーム話へと、話題は発展していった。しかしそれも気がつくと、「テロ2000年集中治療室」「ユナイテッドトラッシュ」などのクズ映画の話になっていた気がするが。どこか遠くからチェーンソーらしい音が響いてきたので、「バイオハザード4」のアレが迫ってきたのか!という話からその方面に行ったのだったか。




 ちょっと開けた場所で一休み。平均年齢が30台前半で、普段特に運動をやっているわけでもないので、無理をしないのが鉄則。ただ、何だかんだで20前後の頃は運動部で汗を流し、そして今でもハイク好きの集まりなので、呼吸を整える程度である。ちなみに課長は、山のベテランに誘われてよく丹沢へ行くらしいが、その面々が直進行軍さながらのスピードで立ち止まらないので、なかなかツラかったとか。それに比べると561メートルの低山をゆっくりと登るのは、適度にヌルくてちょうどいいかも。
 体温が上がってきて汗もかいたので、ここで上着を脱いで腰に巻くなどし始めた。
「パージするか」
と突然言われて、私は「すわ追放されるのか!」としか思わなかったが、追加装甲を放棄して身軽になろう、というような用法であった。
 



 鐘ヶ嶽は山頂での見晴らしが悪く、下界を見下ろせるスポットは途中にしかない。ここがその1つ。




 何やら山が削られていたが、はたして何の工事なのだろうか。
 要塞でも築城しているのか……。

 


 木々が倒れ、石が砕けて転がるなど、荒れ地っぽい塩梅になってきた。




 この岩には、何かプレートでもはまっていたのだろうか?




 植生保護のための、動物よけのフェンスだろうか。
 確かに道には鹿の糞がいたるところに落ちていた。
 こういう鉄線を見ると、気分は「メタルギア」になる。




 侵入の痕跡が!
 人間が出入りするために開けたのか、それとも動物がこじ開けたのかフェンスには穴が開いていた……。ちなみにこの日は、地元で清掃を行っていたらしく、麓からスピーカーで何かを呼びかける声が時々響いてきた。さすがに遠くてよくは聞こえなかったが、「これはくせ者の侵入を知らせ、武器と松明を持って山狩りを呼びかける放送ではないか!」と、地元住民に対して大変失礼なことなど話したり。




 561メートルの低山として侮っていたら、長い石段の登場である。坂道はあんまり足を上げなくてもよいが、石段は常に一定の高さまで膝を持ち上げなければならず、しかも石は体重を跳ね返すので足の保護に気を使う。普段着とちょいとした靴で出かけられる低山ハイクにおいては、石段は一番キツいスポットなんですよ。
 とりあえず、存分に呼吸を整えて、気合いを入れてから上り始める。あくまでゆっくりと、しかし上り切るまで立ち止まらずに。急いでも途中でへばったり膝や足底筋膜を痛めたりするので、ゆっくり一気に上るのが一番合理的である。
 「階段を上り切ったらまた階段があることを覚悟しましょう。稽古と同じです」と最悪の事態への備えを述べなどして、上る。




 角度が急なだけでなく、靴の長さよりも段の奥行きが短い……。
 



 そして予想通り、上り終えた先にはまた階段の影が!




 第2の階段を上りきろうとしたとき、鳥居が目に入った。
 山頂近くには神社があるというので、そろそろゴールか……などと気を抜いてはならない。
 



 案の定、また階段である。




 そして第3の階段(これは短い)を登り切ると……




 ようやく神社であった。
 賽銭を入れ、挨拶などをする。






 そして神社の裏手はすぐ山頂であった。
 60過ぎのおっさん方が酒を飲んでいたので、地元町内会による間伐か清掃が終わって休んでいるのかと思ったが、彼らも同じハイカーであった。ハイカーは頂上で弁当など開き、人によっては酒など飲むのだが、飲み食いしている様を見て「近所の人」としか認識しなかったのは、それだけ頂上っぽくなかったからである。
 周囲は木々で囲まれ、見晴らしどころかまったく見通しが利かず、まだ「頂上への途中」にしか見えない。ただよく見ると、ここで上り坂は終了し、この先の目をやると緩やかな下り坂となっている。つまりここが一番高いのである。取りあえず頂上についたということで、我々も設営をする。




 О氏は今回、コーヒー・調理用に水を4リットルも背負ってきてくれた。もちろん自分が途中で口にする水は別である。「八甲田山」の見過ぎで寝不足だというのに、なんというデッドウエイト!本厚木駅で「4リットルも用意してくれたのか!これは麓で分担しよう」と言っていたのに、てっきり忘れていた。いやはやご苦労様です。




 私の着ていたシャツ。こういうときじゃないとなかなか動員できない。
 ポケットからはみ出ている携帯ストラップについている銀色の物体はホイッスル。崖から滑落したときは、笛の音で知らせるのだ。人間の声ってのはあんまり届かないし、声を出すのは非常に体力を消耗するのでホイッスルは有用である。課長もホイッスルを持っていたが、中学校で先生が使っていそうな音を出した。




 今回バーナーは2つ。Tem氏のものと課長のものである。
 これで迅速にカップ麺を食える!




 課長は耐熱コップ、豚汁、カフェオレなど大量のものを用意してくれた。




 Tem氏のバーナーは、油断しているとガスボンベが冷えて火が消えてしまう。そのため手の体温で温め、つまり体温をタンクに奪われながらお湯を沸かさねばならない。暖を取るために体温を奪われるとは!




 一方、課長のバーナーき寒冷地仕様で火勢も強く、手で温める必要もない。だが、その音はジェットエンジンのように猛烈。1人で使うと目立って恥ずかしいとか。ただお湯もすぐに湧いた。
 ちなみにクッカーを持つ手が手袋をはめているのは、取っ手が熱くて素手では持てないため。薄手の手袋1枚ではまだ熱く、二重にしてようやく持てた。そして今度は注ぎ口がないのでカップ麺に注ぐには細心の注意が必要……!だが、この不自由さがいい!




 そして食後はコーヒーの配給を。
 コーヒーにお湯を注ぐのは、Tem氏の注ぎ口のついたクッカーである。




 ちなみに麓には民家があり、標高はたかだか561メートルの山ではあるが、auは圏外であった。




 そしてカップ麺とコーヒーのみならず、豚汁までありつけるありがたさ!

 




 シートを畳み、スパッツを再装着など。スパッツといっても、足首を覆う方である。ズボンの裾の汚れを防ぎ、靴への小石の侵入を防ぎ、そして蛭の侵入をもある程度防げる有用な装備である。厚木近辺においては、鹿に寄生して街にまで蛭が降りてきているので、蛭対策をして損はない。蛭は血を吸うだけではあるが、血が止まらなくなるので服が派手に汚れ、街を歩いただけで注目を浴びるようになる。




 そして下り。まずは緩やかな坂が続くが、どこが道なのかやや迷うかも。いや、歩ける場所を降りていったら、自然と道なりになるのだが。




 だがところどころ注意しないと滑落しそうな狭い道、鎖を使う岩場なども。低山といえども崖から落ちたら、最低でも足を痛めて自力帰還が困難になり、場所によっては容易く酷い重傷を負ってしまいかねない。油断禁物である。




 そしてようやく道路があるところまで降りた。
 561メートルだから大したことがないと思いきや、3段構えの石段、鎖の張られた岩場など飽きさせない、よい山であった。




 出発地点のコンビニ風個人商店以来、はじめてのトイレ。
 太陽電池がついている。




 そして奥の方には狭いトンネルが。
 直線らしく、出口の光も見えるが電灯などは点されておらず、なかなかに暗い。






 車一台がやっと入れる程度の幅だろうか。崩れそうな岩、ヒビが走り、水が滴る入り口。ルートとは関係がないが、これはもう入らないわけにはいかない!




 暗い。出入り口からの光が差し込んでくるので、辛うじてぼんやりと近くの人間が見えなくもないが、距離感が掴めず肩を当てたり足を踏んだりしそう。真っ暗闇ではないが、目をよく凝らさないと自分の足もよく見えない。
 ちなみにこの写真を撮影したのは入り口を入ってすぐなので、中程に行けば行くほど暗くなる。出口の光がなければどっちに進んでいるのかさえわからなくなりそうな暗さだった。「ヨコハマ買い出し紀行」でトンネルを歩くエピソードがあったが、方向感覚を失ってどっちに進んでいるのかわからなくなる、というのが少しわかった。まっすぐ進んでいるかどうかも、ちょっと自信がなかった。




 ちなみにストロボを焚いてはじめて気づいたが、このトンネル、壁一面が落書きだらけだった。一瞬の閃光で、予想も付かなかった宇宙文字や図画が視界一面に広がっているのを知るだなんて!
 こんな昼でも互いの顔さえわからないような場所で、よく落書きが出来るなという気もしたが、まあ車かバイクで来て、ヘッドライトの光の下で落書きをしたのだろうな。




 そして久々に日の光を浴びる。




 トンネルを出た先は、別段なんてことのない道だったが別の山に繋がっているのは間違いない。
 もちろんもう1回別の山に登るわけもない。引き返す。




 警笛鳴らせの標識。まあ車がすれ違えるような道ではないが、トンネルの入り口でクラクションを鳴らして、反対側の出口まで聞こえるものだろうか?




 見れば見るほど小さいトンネルである。普通乗用車が1台通るのがやっとではなかろうか。




 ちなみにトンネル脇の木には、なぜかクリスマスツリーに使う電飾がぶら下がっていた。電化されているのか!いやそういう問題じゃないが……。




 トンネルを戻り、道を下っていくとゲートで車両の通行が出来なくなっていた。あのトンネルを車が通ることは現在はないということか。トンネルの落書きは、原付でゲート脇を突破して来たのか、それともゲートが開放される時期にやってきたのか……。まさかここに車を置いて、懐中電灯とラッカーを持ってわざわざ落書きに登るほど根性のある連中でもあるまい。




 ゲートの前にはソーラーパネルを備えた監視カメラがあったが、あの程度の太陽電池の電力でカメラを作動させ続けることが出来るのだろうか。カメラはダミーなのか、太陽電池は補助なのか……。




 アスファルトの下り道は足腰に堪える。




 何やら警察の封鎖テープが。
 下に積まれている袋には何が入っているのか、と戦慄したが、まあゴミの不法投棄だろうか。




 朽ち果てた民家。1階建てだが、煙を逃がすためか、窓が高いところにもある。
 傘のついた外灯が郷愁を誘う。




 こんなところにも、エスペーデーの支持者が……?




 何やら工事が行われている。棚田だったところを壊して、砂防堤を作る工事らしい。土石流は恐ろしいので下流住民にとっては重要な工事である。
 ちなみにここの道、ゲートからここまでの間には例の朽ちた民家一軒以外は何もない。しかし工事関係者ではない、明らかに一般の乗用車が時折坂を登っていった。「介護サービス」と書かれた車、宅配の軽自動車……上には家一軒なく、通り抜けも出来ないのに、何をしにいくのだろうか。「『世にも奇妙な物語』のテーマが聞こえてきた!」などと叫ぶ者もあり。「山に**を捨てに言ったのだろう」などという邪悪な声も……。
 



 打ち棄てられたわさび田。




 廃屋に廃田と、哀愁を覚える景色が広がっていたが、もう少し歩くと、急に人々が暮らす田園風景に。




 ここそこに無人販売が。
 ゆずと梅干しが多かった。




 飲料の補給も可能!
 しかも100円!
 山岳料金でも観光地料金でもなく!
 ……まあ、普通の日常生活の場に降りてきたということなのだろうけど。
 



 神仏習合的な寺院。




 現役で管理されているわさび田。




 わさびの栽培には良質の水が必要だというが、これは集落を貫く細い川から引いているのだろうか。だとしたら、上流の不法投棄は深刻な問題です。




 よく見たら魚が一匹注水口のところを泳いでいた。
 川からここまで流れ着いたのだろうか?




 そして次の目的地、広沢寺温泉へ。
 どこで道を曲がるのかわかりにくいが、ちょうどよく温泉行きのバスが。
 細い道なので見逃すところだった。




 ここの宿で入浴。
 強アルカリの温泉は、なかなか独特の感触であった。
 歩き通して疲労した筋肉をほぐしつつ、風呂では四方山話などする。
 部の面々と温泉に入ると、アホな後輩が合宿中に間違って女湯の戸を開けた(本人は男湯と間違えたと主張)エピソードを思い出す。もう10年も前の話なのに、誰も忘れない!なんという重い十字架だ……!




 風呂を上がり、雰囲気のある休憩室で熱された身体を冷ます。




 そして宿を後にする。
 ちなみにこの砂利が敷かれた広場はバス停でもあり、バスがここで展開して戻っていく。
 ここのバス停に、次にバスが訪れるのは3時間後であった。




 出発地点のコンビニ風個人商店のバス停まで戻る。
 辿り着いたときにはもうすでにバスが到着しようとしていた。




 そして本厚木の焼き肉屋で肉を焼いて食らう。この店は、2004年11月21日の大山参りの帰りにも来た店である。今回はもうそれなりの年齢になり、普段は脂を避けている人も少なくないと思われるが、山に登った後は身体が潤滑油を求めているのか、エネルギーを欲しているのか、ベーコンなど脂っこいものを立て続けに注文した。
 写真は11月生まれの人物に進呈した、NHK教育の某番組のCD+DVD。もう1人の11月生まれの人物には「ハッピーツリーフレンズ」の日本版DVDを。楽しんで貰えればよいが。気に入って貰えると確信しているが。

 メシ屋での話題は、「ウィザードリィ」から「ソードオブソダン」、はてはスーパー32X版「バーチャファイター」に至るまでゲームの話題がやや多かったかも。もちろん「いっき」「キン肉マン マッスルタッグマッチ」「ゾンビハンター」などのファミコントークもだ!「六三四の剣」と「ハイドライドスペシャル」を用いた裏技など、今時誰が覚えていようか。
 東京近郊の各地から集まっているので、帰りが遅くなると電車の接続に難が生じるため、食らい話した後、やや早めに解散となった。アホな話をすれば、ほぼ間違いなく反応が来るという得難い場であった。学部時代がいかに貴重な時間であったことか!
 また、こういう場はもちたいものである。


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