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『Eden』番外編〜シーファ 1
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 わたしはシーファです。年は今年十五歳になったばかり。ネリグマから来ました。
 これは、最初の授業の自己紹介の時に、わたしが言ったこと。
 巫女になるための夏期講座のようなものが、ここモルスで毎年開かれていて、わたしはこの年、初参加だった。
 五泊六日の合宿で、わたしは大きな荷物を抱えて、バスと汽車を乗り継ぎ、やっとモルスまで来たのだ。
 ある駅から、合宿が行われる神社までの直行バスに乗るために、前もって買っておいた乗車券をわたしは探した。
 荷物の中に紛れ込んでしまったのだ。
 バスが来るまで時間がなかったので、わたしは焦ってしまって、乗車券はなかなか見つからなかった。
 立ち止まって探せばよかったんだけど、時間がないから、歩きながらカバンを探った。
 と、突然障害物が!!
 ドカッ
 わたしとその障害物がぶつかった音。
 カバンの中身が少々地面にばらまかれてしまった。
 わたしが拾っていると、障害物も手伝ってくれた。……あれ? この障害物、人間だったんだ。
「すいません。すいません。」
 何度もそう言いながら、その人は辺りに散らばった物を拾ってくれた。
(悪いのは、よそ見をしながら歩いていたわたしなのに、何でこの人はこんなに謝ってくれるのかしら。)
 そう思った。
 その人が拾ってわたしの手に乗せた物の中には、その人が落とした物まであった。
「これ、わたしのではありません。あなたのではありませんか?」
「ああ、すいません。確かにそうです。どうもありがとう。」
 笑いながら、その人は言った。
(お礼を言われるようなことじゃないわ。)
 わたしは思った。本当は、わたしが謝ってお礼を言わなくてはならないのだ。けれど、その人の勢いに押されて、わたしは何も言えなかった。
 バスに間に合って、ちゃんと神社に着いたわたしは、そこで、またその人と会ったのだ。
 その人は、名前をクレヴァスと言って、年は十九歳、職業は学生だった。
 なぜそんなことが分かったのか、と言うと、その人は夏期講座の先生だったからだ。
 夏期講座の先生には、若いのもいれば、年取ったのもいる。クレヴァス先生のように、学生が実習のような形で来たり、また、ベテランの先生が来たりするからだ。
 わたしたちのクラスは、偶然若い先生だったわけだ。
 そして、最初の自己紹介に戻る。
 クレヴァス先生は、わたしの第一印象(ぶつかった時)では、ちょっと間抜けな人、だったけど、思ったより本当は真面目な人だった。
 最初の一時間っていうものは、大体自己紹介とかして、授業はしないものだ。先生は授業をしたがっていたけど、みんながそうはさせなかった。
「先生の年は?」
 から始まって、くだらない質問が次から次へと。
 男の子が居るクラスなら、こういう状況もありかもしれないけど、ここは巫女のクラス、女ばっかりなのよ!? こんなに騒がしいとは、全然思ってなかった。
「先生、彼女は居ますか?」
 誰かがそう聞いたとき、わたしはその答えを聞きたい、と思った。だって、居そうになかったから。……本当の理由は違ったのかもしれない。「居ません。」
「あー、やっぱりぃ!」
 みんなが騒ぐ。『やっぱり』って、みんな思ってたんだ。
「彼女居ない暦、何年――あ、何ヶ月くらい?」「十九年と一ヶ月。そんなこと聞くんじゃない。」
 みんなが笑った。わたしも、一緒に笑った。
「さー、授業を始めるぞ。」
「待って、先生。先生の家って、親も神社関係なんですか?」
 授業はさせないつもりだ。
 先生も先生で、無視して進めればいいのに、いちいち答えてやるのだ。
「うちは漁師だ。実はオレも少し漁をしていたことがある。」
「えーっ。」
 みんながざわめく。
 確かに、この答えはわたしにとっても意外だったけど。
(あーあ、こんなことなら、うちで勉強している方がマシ。)
 わたしはそう思った。
 みんな勉強しに来てるんじゃなくて、遊びに来ているように思えた。

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