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最後の戦士達

第二章

信頼できる者

 ユメたちはアブソンスを連れて、デイとエクシビシュンの境にある橋まで来ていた。アブソンスはウォーアの入った小さな箱を抱えて立っている。トライが「持とうか」と言っても首を横に振って渡そうとしなかった。
「アブソンスのおばさんが住んで居る所はどこなの?」
 セイが尋ねる。エクシビシュンで一番にしなければならないことは、アブソンスの父親の妹であるスパアロウの家を探すことだった。
「よく覚えてないんだ。ここに来るときはいつも何か乗り物に乗るだろ。で、眠ってるんだ」
「町の名前は知っているか?」
 ユメが尋ねる。エクシビシュンはデイと違っていくつもの町がある。せめて町の名前が分からなければ叔母を探すことはできないだろう。
「フライディーっていうんだ」
「フライディーだって?」
 突然カムが叫んだ。
「どうしたんだ」
 ユメの質問にカムが答える。
「言わなかったけど俺、フライディー出身なんだ。それに、アブソンス、」
 アブソンスの方を見る。
「フライディーはエクシビシュンの首都で城があるんだ。見たことあるだろ?」
「うん、知ってる」
 アブソンスが笑顔になる。一週間前の夕食の時以来、久しぶりに見る笑顔だった。
「それで、俺、王に呼ばれてんだ。アブソンスは俺がついでに送るから、ナティたちは別に行けよ」
「別に行ったって、意味ないと思うけど。だから俺たちもフライディーに行くよ。な、ユメ」
 ナティがユメに言う。
「そうだな。カムに案内してもらおう」
 町や森には道がある。なまじ道があるばかりに、砂漠を歩くよりも迷いやすい。カムが居る方がいいということはユメにも分かった。
 アブソンスが居るから夜遅くにも進んだり、という事ができない。夜は早目に宿に入って休んだ。
 そんなことを十日程繰り返した次の日、ユメたちはフライディーに入った。カムの言っていた城は町のどこからでも見えるような高い所に建っていた。
 カムは城へ、ユメたちはアブソンスの叔母の家へ向かった。

 カムは城へ続く長い坂を登った。城に行くのは普通、城で働く者たちか政治家ぐらいのものた。今カムが城に行こうとするのは城で働くためでも、また政治家である訳でもない。
 カムは以前にも一度、この坂を今日と同じように王に呼ばれて登ったことがあった。
 前ここに来たのは試合に行こうとした日だったな。あの日はなぜ俺が呼ばれたのか不思議だったが、今日はよく分かる。試合の結果は王の耳にも入っているだろうからな。
 カムは門の前まで来た。
 昔風の兵士の格好をした二人の門番が門を開ける。門に入ると、また長い一本道が庭園を突っ切っていた。道の両側には立派な、といってもカムにはその価値など分からないが、彫刻が並んでいる。おそらく、千年前の文化・科学の最高期よりも遥か昔の芸術家たちの作品だろう。だかカムはそんな物には目もくれず、城に入り、広間を抜け、階段を昇り、見張りの居る扉を幾つも通り、そして王の待つ部屋に行った。

 ユメたちがアブソンスの案内で町を歩いていると、いつの間にか前を歩いていたはずのアブソンスが居なくなった。ごった返す人の中で、背の低いアブソンスは追いかけるのが大変だった。だからいつか見失うだろうとは思っていたが、本当に見失ってしまうとどうするべきかすぐには思いつかなかった。
「手分けして捜しましょう」
 セイが立ち止まって言う。
「別々になったら駄目だ。アブソンスはこの町を知っているから迷いはしないだろうが、俺たちの方が迷うぞ」
 ユメが反対する。ナティとトライもユメと同じ意見だった。

「アブソンス」
 ユメたちとはぐれたアブソンスが皆を捜してうろうろしていると、突然声を掛けられた。
 聞き覚えのある声に、アブソンスは声の主を探す。
 声の主はハーリーという名のアブソンスの従姉妹[いとこ]だった。
「ハーリー」
「久しぶり、アブソンス。こんなところで何してるの?」
「スパアロウ叔母さんはどこ? 僕、叔母さんに会いに来たんだ」
「お母さんなら家に居るよ」
「そっか。じゃあ、後でハーリーの家に行くから」
 アブソンスの視界にトライが入る。
「どうして、今からわたしと一緒に行こうよ」
「人と一緒に来たんだけど、その人達とはぐれて……」
 早くこの従姉妹との話を終えなければまた見失うだろう。
「わたしもその人達と行く」
 ハーリーはそう言うと進み始めた。
「待って、ハーリー。そっちじゃないよ。逆に居るんだ。ほら、あの背の高い人だよ」
「目立っていいわね」
 ハーリーは向き直ってトライへ向いてどんどん歩いた。後をアブソンスが追う。
 あと二、三歩でトライというときに、ハーリーは誰かにぶつかった。
「ごめんなさい」
 そう言って通り過ぎようとすると、またしてもアブソンスに呼び止められた。
「その人も僕と一緒に来たんだ」
 六人は人込みから抜けて、小さな横道に入った。アブソンスも知らなかったのだが、ハーリーが言うにはここから彼女の家に行けるらしかった。
「従姉妹のハーリーだよ」
 アブソンスがハーリーを紹介する。
「始めまして」
 ハーリーはそう言うと首を傾げて微笑んだ。
 ハーリーは髪を二つに分けて、頭の横で丸くまとめている。横には長い髪をわざと少し残している。エクシビシュンに入ってからよく見かける髪形だった。髪の色も黒よりは茶や金が多い。ハーリーの髪も茶色だった。目の色も茶が多いようだ。デイの住民はほとんど黒い髪と目をしている。トライは親が死んで孤児だったが、両親ともエクシビシュンの出身であることが分かっている。トライの髪が金に近いのはそれだからだ。ナティも、多分この辺りの出身なのだろう。
「わたしはトライファリス」
「わたしはセイウィヴァエル。そしてこの人がユメルシェル。残りの一人がナティセル」
 セイが、ユメとナティの紹介もした。
「ねえ、その箱何?」
 ハーリーがアブソンスに尋ねた。アブソンスは答えたくなかった。
「アブソンス、ウォーア姉さんはどうしたの?」
 答えようとしないアブソンスに、ハーリーは次の質問を投げかけた。ハーリーはウォーアのことをウォーア姉さんと呼んでいた。アブソンスと同い年のハーリーにとって、ウォーアは姉と呼ぶのに丁度だったのだ。
 アブソンスはまたしても答えない。セイは代わりに答えようか迷った。
「ねえ、ウォーア姉さんは? どうして今日は一緒じゃないのよ」
「今日も一緒だよ!」
 アブソンスは叫んで、自分が抱えていた箱を突き出した。
ハーリーも死んだ人がどうやって墓に埋められるのか、知らない訳ではない。アブソンスが持てるぐらいの箱に入っているのだから、ウォーアがそのまま入っている訳はなかった。その箱に入るのは……
「ウォーア姉さん、死んじゃったの? ……お母さんに知らせなきゃ」
 ハーリーはそう言うとにわかに走り出した。その後をアブソンスとユメたちが何も言わずに追いかける。
「お母さん! アブソンスとウォーア姉さんが来たよ」
 ハーリーは庭に居た母に向かって叫んだ。
 スパアロウがアブソンスの方を見る。ウォーアは居ない。アブソンスが大事そうに抱えている箱。スパアロウにはウォーアがその箱に居ることが直ぐに分かった。
 アブソンスの後ろに居るユメたちに声を掛ける。
「アブソンスを連れて来てくれたんですね。ありがとうございました」
 そう言って頭を下げた。
「それでは、わたしたちはこれで」
 セイがスパアロウに言って、四人は来た道を戻り始めた。

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