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最後の戦士達

「ロウクの奴、ありゃ絶対ナティのこと敵視してんな」
 道を歩きながらカムが言う。
 荷物や鎧類は置いてきて、今持っているのは財布だけ、という軽装だった。
「だな。しかしなんでカムじゃなくて俺なんだ? 人のことを弱いとか言いやがって」
 風が強すぎて、ナティの束ねた髪が乱れる。結び直そうかとも考えたが、この風では余計に大変なことになりそうだった。
 その様子を見てカムは、
 なぜ髪を伸ばすんだろう。
 と、思った。前にも一度言ってみたが、あの時のナティの答えは、答えになっていなかった。
「切っちまえばいいのに」
 カムが後ろからナティの髪を軽く引っ張って言う。
「この髪をか? うん、切ってもいいんだが、別に切らなくてもいいから」
 つまり、邪魔にはならないから、切る必要がないと言うのだ。十分邪魔そうに見えるのだが。
 それくらいの理由なら、俺だったら絶対切るな。
 カムは思った。
 ナティは道行く男が立ち止まって見るほどの美人(?)だ。そんなナティと瓜二つのシュラインに好かれたカムは、幸せというべきなのだろうか。
「分かんねぇな」
 カムはわざとらしく大声で言った。
 二人は服を見に店に入った。エクシビシュンとは流行っているものが違うのだろうか、少し型が違っている。どちらが良いという訳でもないが、やはり黒髪の多いデイにはカムに似合うものが多く、色彩の無くなっていくエクシビシュンの物はナティの方が似合う。
 二人はそれぞれに買い物を済ませるとユメたちの家、別邸の方へ帰った。
 もう夕方になっていたのに、庭ではまだ男たちが稽古をしていた。その様子を縁に座ってユメ、セイ、トライが見ている。セイがカムたちを見つけて、手を振った。
 二人は稽古の邪魔にならないように、庭の隅を通って縁まで行った。
 ユメが、ここにきて初めに話した男、つまりマイキエラを呼ぶ。このときセイたちは、やっとこの男の名を知った。ただし、略された方の名だが。
「この二人に部屋を案内してくれ」
 ユメがマイに言う。
「ユメは?」
 マイが尋ねた。ユメは二人の部屋を知らなくて良いのか、という意味なのだ。
 ユメは少し間を取って、それから立ち上がった。
「俺も行こう」
 マイが靴を脱いで縁に上がる。ナティとカムもそうした。
 セイが、わたしたちはどうするの? という顔でユメを見る。
「どうせすぐ戻って来る。ここで待ってろ」
 ユメはそう言って、先を歩くマイたちの後を追った。
 マイは二人にそれぞれ別の部屋を案内した。隣の部屋という訳ではない。ここに寝泊まりする者が、好き勝手に部屋を選んでいくので、空いている部屋がまちまちなのだ。
 マイがナティの部屋になる部屋の扉を開けようとしたとき、ユメはマイを睨みつけた。そして言う。
「ここは……!」
 それ以上は言わなかったが、マイはユメが何を言おうとしたのか分かった。というより、知っていた。
「そうだ。それがどうかしたのか? ここしかもう空いてないんだ。仕方ないだろう」
 マイがからかうような調子で言う。
 マイがさっき言ったことは嘘だった。全部の部屋が一杯になるほどの人が、ここに居る訳がないのだ。
 ユメはかっとなって、扉を開けようとするマイの手を払いのけた。
「どうしたんだ、ユメ?」
 知っている。マイは理由を知っている。それなのに、わざとそんなことを聞くのだ。
 マイの隣で、ナティが一体どうしたのかと二人を見ている。
 ユメは唇を噛んだ。
「何でもない」
 低く押し殺した声でユメが言う。
 マイは扉を開けた。
 ナティの部屋として使われることになったのは、数年前までウィンクが使っていた部屋だった。ウィンクが死んでから今まで、ずっと空き部屋だったのだ。
 この部屋に今まで人を入らせなかったのはマイだった。マイがやっと、ウィンク以外の人間に部屋を使わせたのだ。……というと聞こえが良いが、本当は嫌がらせだった。ユメがウィンクを殺してしまってから以来ずっと、マイの陰険な嫌がらせは続いていた。遠回しにウィンクのことでユメを責めようとする。ウィンクのことを持ち出して、ユメが辛い思いでいるのを、喜んでいる。親友を殺したユメへの、これはマイのささやかな復讐だった。
 三人は縁に戻った。マイは他に用があるから、と途中廊下を別の方へ行った。
「すごいね、ユメ。こんなとこで訓練できるなんて、ユメが羨ましいよ」
 トライがユメを見て言う。稽古を見るトライの目は輝いていた。
 ユメがトライの側へ腰を下ろそうとしたとき、マイが『夕食』を知らせに来た。
「セイウィヴァエルとトライファリスに、ルーティーンとファロウからの伝言だ。ついでだから、夕食はこっちで食べろ、と」
 マイはそう言ってから、外に出た。
 マイは、外でそれまで稽古していた者たちを集めて何かを話している。
「こっちだ」
 ユメがそう言って、廊下を奥に行く。ナティとカムに靴を持って行くように言って。靴は途中の玄関に置いた。
 ユメたちの食事の為に用意された部屋には、既に食事の準備が整っていた。
 それぞれが適当に席に着く。五人が五人、別の席をしっかり選ぶのだから不思議だ。
「ねえ、ユメ。ロウクって、もしかして、マイって人の子供?」
 セイが言う。
 ユメは頷いた。
「ほら、やっぱりそうだったじゃない」
 セイがトライに向かって言う。二人で縁に居たとき、ロウクとマイが親子かどうか、話していたらしい。
「ロウクって、そういやあいつ、今何歳なんだ?」
 カムが誰に、という訳でもなく聞く。
「俺たちよりは年下だよな」
 ナティが、主食である飯を皿に盛りながら言う。
「確か、俺より五つ下だったから、……十一歳のはずだ」
 ユメが言う。
「十一歳 いくらなんでも、それは年下過ぎない? 見えないわよ」
 セイが食事する手を止めて、少し大きな声で言った。
 言いこそしなかったが、トライも途中で手が止まっている。
 ユメが顔を上げた。扉の方を見る。つられて、何かと、セイとトライも扉を見た。しかし、特別に何か見つけられた訳ではなかった。
「なあ、ロウクは――」
「待て。その話は後にしろ。今は別の話にしないか」
 言いかけたカムを、ユメが止める。
「どうして?」
 トライが尋ねる。
「別にいけない訳でもないんだが……」
 ユメが扉の方を見ながら言う。
 セイも何となく分かってきた。ユメが話を止めた理由。
 セイは席を立つと、無言で扉を開けた。扉の横に隠れたロウクに声を掛ける。
「構わないから入って」
 しぶしぶ、というか閥が悪そうに、ロウクが部屋に入って来た。
 ナティたちが何か言おうと考えている時に、ロウクがユメに向かって言った。
「言っとくがな、俺は今年で十三だ。お前と五つも離れている分けないだろ」
「四つ違いだろ? そんなに違わないじゃないか」
 ユメが言う。ユメは今十六歳だ。今年で十七歳になる。
 ユメが席を立って、どこからか椅子を一つ持って来た。セイも考えていたのだが、この家のどこに何があるのか、ほとんど知らないのだから、仕方が無い。
 その椅子にロウクが座る。何の用で来たのか知らないが、椅子に座ったということは長い話になるのだろう。
「それで、何の用なんだ?」
 ナティがロウクに言う。
「お前なんかに用はねぇよ」
 友好的なナティに対して、ロウクは全くの突慳貪[つっけどん]である。ナティにそう言い放つと、ロウクはユメに向き直った。
「なあ、ユメ、あしたもまだ出発しないよな?」
 ユメが頷くと、ロウクは続けた。
「だったらあした、練習相手になってくれよ」
「いいぞ。だが、最近武術はしていないからな。お前の方が強くなっているかもしれん」
 ユメは軽く言った。
 ロウクが笑顔になる。
「あっ、そうだ。おじさんが、みんなの武器や防具を修理に出すって言ってた。それでかなりひどいことになっているから、少なくても五日はかかるだろう、って」
 ロウクが、今度は皆に向かって言った。
「なんだ。それならあした出発できないってこと、聞くまでもなかったんじゃないのか?」
 カムが言う。
 ロウクは『まあね』とでも言うように笑った。ナティには突慳貪でも、カムにはそうでもない。誰とでもすぐ意気投合してしまうのは、カムの良いところか。
「ねぇ、ロウク。少し食べていかない?」
 セイが言う。
「いいのか?」
 ロウクは聞きながらも既に、セイが渡そうとした皿を受け取っている。
「すげえな。こんなご馳走[ごちそう]、見たことないや」
 ロウクたちの方にも夕食は用意されているはずだが、食事が豪勢なのはユメたちだけらしい。
 この料理はおそらく、ユメとセイの母親、ファロウが作ったものだろう。ユメには分からなかったが、セイには分かった。

「御馳走様」
 ロウクの協力もあって、机の上の料理を平らげたのは、あれから三十分後のことだった。
 料理は、宮でのように一人分ずつ分けられているのではなく、大皿から取るものだったので、『自分の分』を運ぶ訳にもいかず、皆そのまま部屋を出た。
 いつもの習慣で、残された食器を台所まで持って行ったのはユメとロウクだった。
 台所に行く行く途中、ロウクはユメに話しかけた。
「なぁ、何であいつを仲間に選んだんだ?」
 ナティのことか。
 ユメは思った。が、すぐに答えは出せなかった。答え方を一つ間違えれば、自分はウィンクの二の舞いだ。そんな感じがした。
「似た者同士がいたっておもしろくないだろう? ナティのように、強くはなくても、思慮深い奴が必要だったんだ」
 ユメは天井に点いている電灯を見ながら言った。

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