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最後の戦士達

第七章

キフリの宮

 馬で進んだので、予定より早くトルースに着いた。トルースの町は、宮に続く大きな道の両側に商店が立ち並び、その向こうは民家という感じだった。城の前に商人たちの町ができているフライディーと似ていた。
「ここは元々何もない場所だったんだ。だが、キフリの宮がここに移されて、その参拝客目当ての商売人たちがここに集まって町を作った」
 馬を降りて、ディナイが説明する。
「俺たちはこれから仕事に移るが、お前たちはどうするんだ?」
「俺たちはキフリの宮に用があるんだ」
 カムが答える。
「そうか。では今夜の泊まりは? 俺たちは一週間ばかりこの町にいるつもりだが、良かったら宿を紹介するけど」
 ディナイが言う。
 カムは皆を見て、どうするかを決めようとした。
 ナティがそうして貰えと言わんばかりに頷く。ユメも頷いた。セイとトライもそれで良いようだ。勿論、カムもそれに文句はない。
「ありがたい」
 カムがそう言うと、ディナイは何かを書いた紙をカムに渡した。
「これは宿の住所。お前も良く知っている人がその宿で働いているんだ。俺もそこに泊まるから」
 ディナイはそう言うと、手を振ってどこかへ行った。
「優しい人だね」
 トライが言う。
「悪い奴じゃないんだがな」
 カムはそう言って腕を組んだ。
 キフリの宮へと歩き出す。一本道だから迷うことはなさそうだ。
「どういう知り合いなんだ?」
 ナティが聞く。
「俺のおふくろの友達の息子さ。一緒に魔法習い始めたんだが、性に合わないとか言って先にやめちまった。ディナイの家は両親とも商人じゃないんだが、母親が買い物好きでその影響だと本人も言っていた」
 カムが言った。
 両側は店で埋め付くされている。店先に並ぶ商品に少しでも目を引かれようものなら、すぐに店の人にあれはいかが、これはいかがと勧められてしまうので、なるべく見ないように歩いた。
 半時程歩くと、キフリの宮らしき建物の門が見えてきた。
 実際に一本道の先にはその門があった。門は開いていた。しかし、それにしても、宮とそれに付いている建物全体を囲った塀に付いた門だから、門をくぐっても建物までが遠い。宮まで歩いたが、港からコヒの宮へ行ったのと同じくらいの距離があった。
「ってさあ、ここまで来たのはいいが、キフリの神子はどこに居るんだ?」
 前方に建つ、何棟にも別れた建物を見てカムが言う。
 大体はコヒの宮と同じ作りだったが、棟を数えるとコヒに比べて断然多かった。
「コヒの宮の方ですね」
 突然後ろから、念を押すようにそう言われて五人は振り返った。
「私はメイカと申します。神子よりあなたがたを案内するよう、言い付かりました。どうぞこちらへ」
 メイカと名乗った女は、ユメたちの先頭に立って歩き始めた。
 石造りの宮とは別の建物に入る。コヒとは違い、宮を中心に建物が建っている訳ではない。
 ある部屋の扉をメイカが開ける。その部屋はコヒの宮にあった広間を小さくしたような作りになっていた。
 ユメたちの入った扉の正面に、キフリの神子が椅子に掛けていた。
 皆が部屋に入ると、メイカは扉を閉じた。
「お待ちしておりました。コヒの使いの方々」
 銀髪の青年、といってもユメたちより少し年上くらいだ、が言った。
「手紙で、コヒの神子よりあなたがたが来ることをつい数日前に知らされました。どうぞ、顔を上げて下さい」
 コヒの宮に行った時と同じように膝を付いて頭を下げていたユメたちは、神子にそう言われて頭を上げた。
「私がキフリの神子をしている、ツイゼン=ウィリエスフィです。あなたがたは、女性の方は、髪を長く伸ばしていらっしゃるのがホイ=セイウィヴァエル、短く切っていらっしゃるのがユメルシェル、そして金髪の方がヤラフ=トライファリスですね。それから、黒髪のあなたがモカウ=カムスティン。そしてコヒの神子の兄様、ビョウシャ=ナティセルですね」
 ウィリエスフィが確認するように言う。
「それで一体、どのような用があっていらしたのですか? コヒからの手紙には詳しい事が書かれていなかったのです」
「はい。自分たちは『魔』と呼ばれる敵を倒すためにコヒに集まったのですが、何分、資料がありません。コヒの神子より、キフリの神子も『魔』について調べているので『力[テレパス]』の通じない今、自分たちで行って聞いてこいと言われたのです」
 ナティが言う。
「そうだったのですか。しかし、……それでは無駄な苦労でしたね。確かに私はコヒの神子の言われた通り、それについての資料を集めようと試みました。ですがこれといったものは何一つ見つからなかったのです」
 ウィリエスフィがそう言い終わると、セイは是非聞かなければならないことを聞こうとした。
「すいません、神子。話は変わるのですが、アブソンスという少年を御存じですか? コウユウ=アブソンスです」
「ああ、あの少年のことでしょうか。何カ月か前に祝として働きに来た。しかし彼はひどく元居た家を恋しがり始めたのでね、すぐに帰すことに決めました。……それから後の事? いえ、知りません。私もそこまで責任は取れませんから」
 ウィリエスフィはセイの問いにそう答えた。
「そのアブソンスが、わたしたちが敵と考えているあの大蜘蛛に家族諸共殺されたのです。……本当に、何も知らないんですか? 何の資料も見つからなかったのですか? アブソンスはあんな惨[むご]い殺され方をしたのよ。何も知らない、で済むことじゃないわ」
「セイ!」
 今にもウィリエスフィに食って掛かろうとするセイを、隣に居るトライが窘[たしな]める。
「あなた方はすぐに帰られるのですか?」
「いえ。取り敢えず今日はこの町に泊まろうと思っておりますが」
 ナティが答える。
「それなら、私にもう暫くの時間を下さい。もう少し調べてみましょう。私の調べ方も完璧だったとは言えませんから」
 ウィリエスフィが言った。
 セイが笑顔になる。
「本当ですか? ありがとうございます」
 セイはそう言うと、ウィリエスフィに向かって頭を下げた。
「キフリの宮へいらっしゃったのは初めてでしょう。どうぞ中を御覧になって下さい」
 部屋を出る際に、ウィリエスフィにそう言われた。
 キフリの宮とコヒの宮の大きな違いは人の出入りだ。孤島にあるコヒの宮と違い、キフリのは華やいだ感じがあった。
「ねえ、ナティ。もし、この壁画が神を描いた物なら、どれが神様なの?」
 セイが壁画を見て言う。
「あれがコヒ神だ。人型の、頭に盆を乗せたようなのがそうだ。頭にあるのは、多分月なんだろうな。下弦の三日月。それから、ずっと左に行った所に、鎌を持った骸骨が居るだろう、あれがキフリ神、大地の神だ。キフリ神が骸骨で描かれるのは、死体は土に帰るからだとか、生死のない大地そのものだからだとか言われている。あの鎌は死に神を連想するかもしれないが、そう考えるより穀物を刈り取るための物と考えた方が良さそうだな。植物はコヒ神の物だが、大地の力を借りているから」
 ナティの説明に、他の参拝客から感心の声が上がる。
「おい、ナティ、このまま説明し続ける気か? いつまで経っても出られなくなる」
 カムがナティに耳打ちする。
 ナティとしてはもっと壁画を見ていたかったが、カムが言うことももっともなので、四人を追うように宮を出た。
「カム、ディナイから貰った紙は?」
 トライが言う。
 カムは紙を取り出した。住所を書いてあるが、それが何処なのかは分からない。いつものように、近くに居た人に尋ねた。
 その人の行った方へ歩いて行く。
「ユメ、気分でも悪いのか?」
 ナティがユメに尋ねる。
「何でだ?」
 逆にユメに尋ねられた。別にユメは気分が悪い訳ではない。
「いや、キフリの宮に行ってから一言も話してないような気がして」
 何だ、そういうことか。
 ユメは思った。
「違うんだ。そうじゃなくて、何か引っ掛かる事があるんだ。自分でも何に引っ掛かっているのか分からな……」
 話している途中で、不意にユメは何に引っ掛かっているのか分かった。
「キフリの神子だ。あいつを見たことがある」
 銀髪の青年に、ユメは見覚えがあった。

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