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最後の戦士達

第八章

最後の闘い

「う……」
 小さく呻いて、セイは目を覚ました。
 皮膚が服と擦れてヒリヒリする感じがあった。
 ここはどこなの?
 口は開いたが、起きたばかりなせいか、声は出なかった。
 辺りは真っ暗で、何も見えなかった。手を伸ばすと、右手が石の壁にすぐにぶつかった。左手側には何もない。地面を触ってみると、これもやはり、石の感触がした。
 耳を澄ますと、天井の上を、風が流れる音がした。
 立ち上がって、もっと良く辺りを調べようとしたときだ。突然部屋に明かりが点いた。白いその光りに、セイは一瞬何も見えなくなった。時間をおいて、セイはゆっくり目を開けた。
 天井はそんなに高くなく、眩しいと感じた光源の電灯は、背伸びをすれば手が届くくらいの所にあった。
 セイは正方形の部屋の壁際に居たのだ。前方には、金属でできた格子戸の向こうに、木戸が見えた。
 セイはもう一度天井を見上げた。
 天井の一角に、金網の付いた丸い小さな穴が見える。通風孔のようだった。
 外に通じているのは、その二か所だけのようだった。後は全て石の壁に埋め尽くされている。
 ここは地下?
 セイは耳を澄ました。だが、風の音以外は何も聞こえなかった。
 ユメたちはどうしたのかしら。
 セイは前方の扉を見た。扉の大きさは、人が腰をかがめて入れるくらいである。格子を触ってみると、冷たく、手触りはすべすべしていた。黒く光っているところからみても、それは頑丈な金属でできているようだった。
 格子の間から手が入ったが、その向こうの木戸までは届かなかった。
 セイは『気』を使って、扉を壊そうとした。が、それを実行する前に、セイは右手側の壁に引き寄せられるように歩み寄った。声がするのだ。
「ム・ザヘン」
 声はそう聞こえた。それと共に、隣の部屋を風が吹く音がした。
「カム、カム!」
 セイは叫んだ。その声は、紛れも無いカムの物だったのだ。
「カム」
 呼びながら、石の壁を叩いた。壁を叩くことは、手が痛くなるだけで無駄だった。なぜなら、石の壁は大きな音を立てることが無かったからだ。
「カム!」
 何度か呼んだところで、やっと返事が返って来た。
「セイ、セイか?」
「ええ、そうよ、カム。カム、一体ここはどこなの?」
 カムも壁際にいるらしかった。
「宮の真下だ。セイたちが出て行ってすぐってぐらいにいきなりここに連れてこられたんだ」
 カムが言う。
「そう。トライはどうしたの?」
「分からない。俺とは別の所に連れて行かれたようだが、セイがここに居るってことは、案外トライも近くに居るのかもしれない」
「そうね。ねえ、カム、さっき魔法を使ってたみたいだけど、どうだったの?」
「駄目だ。ビクともしない」
 カムの魔法で駄目なら、セイの『気』でも無理だろう。
「セイ、俺からも聞かなきゃならない事がある。ナティとユメはどうした? 一緒に捕まったのか?」
「いいえ。大丈夫だと思うわ。……ところで今って、朝なのかしら。明かりが付いたけど」
「いや、まだ俺がここに入れられてからそんなに経ってないと思うけどな」
 はっきりしたことは、カムにも分からなかった。
 一人で部屋に居る間、時間は非常に長く感じられたのだが、セイの声を聞いてから、それまでの時間が短かったことに気づいたのだから、不思議なものだ。
「ねえ、カム、ここの、この壁を壊せないかしら」
 セイが突拍子もないことを言った。あれだけの魔法でも扉さえ壊れなかったのだ。壁など壊せるはずもない。
「だから、一人じゃ無理でも、二人ならなんとかなるかもしれないじゃない」
「しかし、一つ間違えば、魔法でお前もやられるぞ」
「何よ、その言い方。まるでわたしばっかり力が無いみたいじゃない。ま、いいわ。分かってる。だから、炎系の魔法を使うのよ」
 二人はディナイから、炎魔法防御の魔具を貰っている。炎系の魔法であれば、お互いの身に相手の魔法がかかることは無いと言って良かった。
「分かった。だが、いいな。お互い、なるべくここから離れるんだ。万が一、崩れた瓦礫の下敷きになるといけないからな」
 カムがそう言って、その場を離れるのが分かった。
 セイも壁から離れる。
「いいか、セイ」
「ええ。いいわよ」
 カムの問いに大声で答えて、セイは壁を見つめた。
「チヌ・ペハチ!」
 炎はセイの目には見えなかった。だが魔法が効いていることは、目の前の壁が音を立てて崩れたことで分かった。
 恐ろしいほどの爆発音に、セイは遅れながらも耳を覆った。爆発という言い方はおかしいかもしれない。しかし、今二人の前に広がる風景は、爆発したのと同じだったのだ。
 細かな石のかけらが辺りに散らばり、もっと細かくなった物は、煙のようにもうもうと両部屋に立ち込めている。
 目を開けても、お互いの姿が確認できないほどだった。
 ようやく砂煙が消えて、カムは瓦礫の向こうに立つセイを見た。セイもカムを見て何か言おうとしたが、その前に細かな埃[ほこり]を吸って咳き込んでしまった。
「セイ、大丈夫か?」
 カムが笑いながら、瓦礫を越えてセイへと近付く。
 セイは何とか咳を落ち着かせると、咳と一緒に出た涙を拭ってカムを見た。
「ええ、もう平気。こんなに上手くいくとは思わなかったわ」
 カムの後ろの崩れた壁を見て、セイは言った。平気そうに話してはいるが、あまり体力も回復しない内に大きな魔法を使ったせいで、話すのも嫌なくらいだった。
「セイ、大丈夫か? お前、ちょっと前にも魔法使っただろ。あの火事騒ぎ、セイが起こしたんだろ?」
 カムが言う。
「ええ、そうよ。ちょっとカム、ごめんなさい。今、話しかけないで。こんなに疲れるものとは、思わなかったから……」
 セイは言って、座り込んだ。
 カムは近くに立ったまま、セイの体力が回復するのを待った。傷を塞ぐ魔法ならあるが、体力を回復させる魔法は無いのだ。
「なあ、セイ、答えたくなかったら答えなくていいぞ。ディナイのことどう思う?」
 一時はセイに言われた通り、何も話そうとしなかったカムが、不意にそんな事を言った。
「そうね……。優しい、とても良い人だと思うわ。でもそれだけ。まだ友達かどうかだって怪しいものよ」
 セイがゆっくり言った。
「そうか」
 カムは、ほっとしたような、そうでないような、変な感じがした。
「わたしからも聞いていい?」
 セイがカムを見て言った。
「ああ。……どうぞ」
 何を聞かれるかは分からなかった。だが、何を聞かれても正直に答えようと思った。
「答えたくなかったら……いいえ、答えたくなくても、答えて貰わなきゃ困るわ。わたし、このことが気になって、そのせいで火事にのまれても死ななかったんじゃないかって思えるくらいだもの。……カムは、シュラインのことどう思ってるの?」
 セイは言ってから、視線を床に投げた。
 どんなに辛いことを言われても、それがカムの答えなら、最後まで聞くわ。
 セイは覚悟して、カムの答えを待った。
 カムは黙って、セイの唇に軽く口付けをした。
「今はシュラインよりもセイが好きだ」
 そう言ってから、カムはセイに向かって微笑んだ。
 セイもつられて微笑んだ。

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