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宮の人間と戦闘していたことは何人にも目撃されていて、そのうちの数名は死亡していたから、キフリの宮付近に残るわけにはいかなかった。
ユメ達は動けないナティを連れて、ピンが住む村に行くことにした。
ピンの居る村はキフリの宮と関係が深いが、ここ最近は連絡が無いという話だったから、下手に大きな町へ行くよりも身を隠せると判断したのだ。
結界が張られていて入れないと聞いていた村はあっさりと見つかり、また中に入ることができた。
ピンが五人を彼女の家に招き入れる。
「ようこそ。あなた方はこの町の英雄よ。誰も追い返したりしないから」
事情をかいつまんで話すと、ピンはそう言って微笑んだ。
村の医者にナティを診て貰う。外傷は軽い打撲や擦り傷程度のものしかなく、ただ眠っているだけの状態だということだった。医者は、自分にできることは何もないと、弱った顔を見せて自宅に戻った。
症状に変化があったらすぐに連絡するようにと医者は言っていたが、数日経っても何も変わらなかった。
「ユメ」
ナティが眠る寝台の横の小さな椅子に座ったままのユメに、セイは声を掛けた。
「もうずっとここに居るでしょ。ちょっと外の空気吸ってくるといいわ」
ユメは頷いて立ち上がり、ナティの病室として使われている部屋から出て行った。
言われなければ動かないのだ。ずっと、ナティの側に居る。本当に眠くなって勝手に眠ってしまうまでずっと起きているから、睡眠時間も食事の時間も滅茶苦茶だった。あまりにも、不健康な生活だ。病人の介護をするのであれば、それなりに体力や気力が必要なものなのに、今のユメは気力だけでもっているようなものだった。
「まるで別人ね。前会った時は、もっと凛とした人だったのに」
声に気づいてセイが部屋の入口を振り返ると、ピンが立っていた。
「ユメのこと?」
「ええ」
「うん、……そうね。でも、ユメじゃなくても、大好きな人がこんな状態になったら、誰だって」
セイは答えた。
「ここまで思われてるんだから、ナティも早く目覚めればいいのに」
眠ったままのナティにセイは毒つきながら、花瓶の花を変えようと窓際へ歩み寄った。
「……セイ」
ピンが言う。
「何?」
振り返ると、ピンがナティを指差していた。
「今、ナティが動いた気がしたの」
ピンが言うのと、ナティが目を開けるのがほとんど同じだった。
「ん……。なんだ? 一体、どうなったんだ」
今まで眠っていたナティが、声を出した。
「ナティ……気づいたのね」
セイは呟く。
「わたし、先生を呼んでくるわ」
ピンが部屋を出る。
セイも病室から飛び出した。
ユメを呼んでこなきゃ。
家の玄関近くでユメを見つけ、セイはつい大声でユメを呼んだ。
「ユメ、ナティが……!」
ユメがセイを見る。
セイの明るい表情を見れば、何が起こったのかはわかった。
ユメはセイと一緒に、病室に駆け込んだ。
ナティは寝台に身を起こしていた。医者が居て、眠っている間に取り付けられていた色々な器具ももう外してあった。
「ナティ」
ユメが声を掛ける。
ナティはユメの方に顔を向けた。
医者は用が終わったのか、病室から出て行った。セイとピンも彼らを見送ることにした。
「ユメ。心配掛けたな」
ナティの声。
ユメの頬を涙がつたう。
ずっと、聞きたかった。
「良かった」
声が震えた。
「泣くなよ。俺はもう大丈夫だから」
ナティがユメを見つめて微笑む。
本当に良かった。
以前と何も変わらない笑顔を見て、ユメは心からそう思った。
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