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月下の花 −器−

いつか、戻る想い

 数日経った。
 セラが居て、ガルイグが居る。前と何も変わっていない。ただ、少し横柄に思えたガルイグの態度が、良くなったくらいか。
「王子さま」
 セラがナティセルに向かって言った。
「生まれ変わりって、信じます?」
「え?」
「ほら、このお話、生まれた子供が、亡くなった方と同じところに傷を――」
 他愛のない作り話だった。
「そうだな。そうだと、いいな」
 ナティセルはそう言って、ガルイグに目をやった。
「……もしかして、ナティがディティールの……」
 ガルイグが言った。
「ほう、そうですよね。きっとそうですよ!」
 嬉しそうにガルイグは言った。
「ちょっと待て。おまえの妹が死んだのは、オレが生まれた後だろうが。」
「あ、そうですね。」
 残念そうだ。
「あら、ガルイグには妹さんがいらっしゃったの? あ、でも、もうお亡くなりに……。ごめんなさいね。そう、きっと、生まれ変わってますわ。」
 セラが言った。作り話を心から信じている。純粋な心で。
 ナティセルは、ガルイグを近くに呼んだ。
「なんですか」
「セラ姫かもしれないぞ?」
 ナティセルは、そう耳打ちした。
「そうかも、しれませんね。」
 ガルイグは力なく言った。ナティセルが、自分を元気付けようとして言ったのだと思ったからだ。
「ナティセル様」
 扉を叩く音がして、ナティセルの従者が入ってきた。
「遺跡のことですが」
「ああ。ここで言ってくれ」
「宝物は見つかりませんでした。中に居た男達がこの宝を奪ったものとして、只今取り調べ中です」
 それだけ言って、男は部屋を出た。
「いい気味ですね」
 ガルイグが言った。あの後、洞穴にそのまま置いてきた男達のことだ。
「精霊魔法使いの協会を作りたいというだけで、ナティを利用しようとした罰ですよ」
「おまえも一緒に取り調べを受けるか?」
「めっそうもございません。いや、ナティセル様には感謝しておりますよ」
 ガルイグがわざとらしく揉み手をしながら言った。
「一体、何のことを話しているんです? 私にも教えてください」
 セラが言った。
「気が向いたら、話しますよ」
 ガルイグが、セラにそう言った。
「なんだか、けちですわ」
 セラが言った。
 年若い姫君は、妹のように可愛らしい笑みを作った。

End  

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