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クレイスは今日もリリーの部屋で例のゲームをしていた。
次第にクレイスは腕を上げてはいるが、まだまだ子どもを相手にしているようなものだ。
クレイスも途中で飽きて、駒を積み上げて別の遊びをしようとしている。
「今日は良い天気ね」
「ん、そうだな」
外を見もせずに、クレイスが答える。
積み上げていた駒が崩れた。また積み上げる。
横で見ていても、何がおもしろいのか分からない。駒の形はいびつで、積み上げるのには向いていない。
また崩れる。
「つまらん」
クレイスが言った。
「他にやることないの?」
「剣の柄に付ける飾り紐が、」
「は?」
「いや、その紐が切れてしまったので、今朝方新しい紐を探してみたのだが」
「船の中じゃ見つからないわよね」
「うむ」
クレイスが腰に下げていた剣を目の前に持ってきてじっと見つめている。
確かに、飾り紐が根元の辺りで切れてしまっている。
「旦那様、フリード様がお呼びです」
レナが入ってきた。
「フリードが? 今日は生きてるのか。珍しいな。ああ、レナはリリーと遊んでればいいよ」
言いながら、クレイスは部屋から出て行った。
レナが代わりに部屋に入ってくる。
「今日は良いお天気ね」
レナが言った。
「波も静かで、フリード様も今日は少し気分が良いみたいなの」
気分が良いと言っても、船を見ただけで調子が悪くなるような男だから、やはり酷い状態には変わり無いだろう。
レナはお茶を入れてくると言って部屋から出て行った。
しばらくして、お茶のポットを持って帰ってきた。クレイスの屋敷から、一番気に入っていたティーセットを許可を貰って持ってきたのだそうだ。
「フリードの具合はどうなの? 気分が良いって言っても、昨日よりはってことでしょ?」
リリーが聞くと、レナは笑って頷いた。
「昨日は何も食べなかったんだけど、今朝はわたしが作ったお粥を全部食べてたわ。まあ、何となく苦しそうに見えたけど……」
それは、レナの料理が下手で不味かったということなのか、無理やり食べていたのかのどっちかだろう。レナが淹れた茶はおいしいので、後者だろうか。
「弱っている時のフリード様はとてもかわいいの」
レナが嬉しそうに言う。
リリーは飲みかけのお茶を噴出しそうになった。
「かわいい?」
フリードはリリーと目が合うと、いつも嫌そうな顔をする。嫌われているのだから仕様が無い。だからこそ、フリードに良い印象はあまり無い。とてもじゃないが、かわいいなどという言葉は思いつかない。
「ごめん、ちょっとそれには同意できないと言うか何と言うか。その、レナはもしかして、フリードのことを……」
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