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翌朝、リードラはファーシィを起こすとテントを片付けた。
腹が減ったとファーシィに言うと、彼女は自分の食料をリードラに分けてくれた。
「屋根があるところで寝られたのは久し振り。ぐっすり眠れたの。この食べ物はお礼よ」
そう言って笑っていた。
その日も一日歩いたが、昨日より山から離れたように思えた。
地元の人に道を聞こうと近くの家の扉を叩いても、誰も出てこない。扉を押すと簡単に開くので、少し中を覗いて見たが、綺麗に整頓された部屋が見えただけで、人影は見えなかった。
テントを張って、ファーシィがテントに、リードラは外で寝る。
しかしあまりにも風が強かったので、半時もしないうちにリードラは音を上げた。小柄なファーシィとは違い、リードラは全身外套に包まってしまうということができないのだ。
仕方なくテントに入ると、ファーシィはテントの隅っこの方で寝ていた。リードラが来ることを予測していたのかもしれない。
ぐっすり眠っているようだったので、その頬にそっと口付けてみた。
その途端、ファーシィの平手がリードラの頬を叩いた。
ファーシィが目を覚まして、赤くなった頬を押さえているリードラを見ておたおたしている。
「あー。びっくりした。虫が止まったのかと思って」
「え、そうだったの? でもさ、俺だったら何かわからない虫をいきなり平手打ちにしたりはしないけど」
「あぁぁ、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
土下座でもしそうな勢いで謝る。
「まさか、そんな近くにリードラが居るとは思わなくて」
「ん、まあ良いよ。気にしてない。ファーシィも気にしないで、もう寝よう。今日は風が強いから、俺もこっちで寝るよ。何もしないから、安心して」
何かしたからファーシィに平手打ちを食らったわけだが、ファーシィは気付いていないようなので、追求される前に会話を終了させようとした。
「うん。ごめんね。じゃあ、おやすみなさい」
ファーシィが横になる。
リードラもその隣で横になった。
ファーシィはすぐに寝息になった。やはり、眠らないのは自分だけかと思うと、少し寂しい気もした。
竜の山を目指して歩く。
ファーシィと会ってからもう三日目だ。山は未だに遠く、一日ごとに、見える角度だけが変わっている。
近くの家の扉を叩くが、やはり誰も出てこない。
おかしいと思い始めたのはこの頃からだ。そもそも、この町に人が住んでいるのだろうか。一日中町の中を歩き回っていて、人に会った事がないし、例えば夕食の匂いだとかもしたことがない。ただ、家の手入れは十分にされているし、家財道具もちゃんと入っていて、その上で家の扉が開いていたりして、ちょっと出かけたくらいに見える。
「もし、明日も誰にも会えなかったら、ちょっと別な道を行ってみようと思う」
リードラはファーシィに言った。
ファーシィが頷く。
「わかったわ。わたし、迷子になる才能があるみたいだから、リードラに任せる」
その日は、最初から二人ともテントで寝た。
翌日も一日、付近の家を確認しながら歩いたが、やはり誰も居なかった。当然、山は遠いままだ。
「明日から、まっすぐ山を目指す」
リードラが言った。
「まっすぐ?」
「そう、まっすぐ」
民家には人は居ない。だから、道を無視して、家の中を突っ切ってしまえば良い。
翌日はその方針で山を目指した。
塀を越えたり、中に入れない建物を迂回したりと大変なこともあったが、昼過ぎには山の麓に着いた。
「最初からこうすれば良かったんだな」
「そうね」
本物の迷路ではないのだから、わざわざ道に沿って行くことはなかったのだ。
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