index>作品目次>竜の剣シリーズ>竜の剣の物語>5-5

5.竜の洞窟 5

「なんで俺だと分かったんだ」
 イーメルに聞く。
「すぐに分かった。体格とか……動作とか?」
 最後が疑問系だ。
 イーメルにもはっきりとした確証は無かったのかもしれない。
「なあお姫さん、一緒に来てもらうけど、これから起こることや見ること、誰にも言うなよ」
「わかった」
 イーメルが短く答えた。
 三日かかって、ルカ達は竜の洞窟がある山に辿り着いた。北へ随分来たから、砂漠地帯も抜けた。テリグラン−テリに近いのかと言われるとそうでもない。テリグラン−テリは山脈の中だから、まだかなり遠いのだ。
 竜の洞窟は鍾乳洞だそうだ。今や観光名所となっている為、付近には小規模な集落が出来ていた。とは言え、この冬の寒い季節にわざわざ北方のこの辺りに来る観光客は居ないようで、誰ともすれ違っていない。
「ここは……ダイゴラス・トーチスか」
 イーメルが言う。
「ああ」
 ソルバーユと別れてから、イーメルは一度も『どこへ行くのか』とルカに聞いていない。
 今更隠しても仕様がないので、ルカは素直に答えた。
「では、そなたはディガー・ソードを探しておるのだな」
「そうだ」
 以前ソルバーユに言われたことが頭を過ぎる。イーメルが王に付くと言ったらどうするのだ、と。
 まだわからなかった。考えたくなかった。
「ディガー・ソード、竜の剣か……。確か、竜の牙だか鱗だかで出来ているとかいう。普通の剣では歯が立たぬから、それを手に入れようというのだな」
「そうだ」
 イーメルは反対するだろうか。もしはっきりと反対されたら、ルカはイーメルを敵とみなすしかなくなってしまう。
 反対される前に、イーメルを追い返してしまおう。
 思って、ルカはイーメルを振り返った。
「お姫さ――」
「わらわも行くぞ」
 ルカの言葉は言い出しで遮られた。
 イーメルが笑う。
「竜の剣、妖精族は触れるだけで死ぬという。危険な物であるが故に、それを造った賢者はこの鍾乳洞の奥にそれを隠し、その前に『真実を試す鏡』を置いて侵入者を阻むと聞く。面白いではないか。そなたがかの剣を手にすることができるかどうか」
 『真実を試す鏡』? そんな話は聞いていない。
 ソルバーユが、道を間違えると戻れないと言っていたが、それと何か関係があるのだろうか。
「なんだ、その鏡って」
「なんじゃ、知らぬのか。それも含めて観光名所だというのに」
「いや、今そんな観光とかほのぼのした話してるわけじゃないから」
「見れば分かる」
 イーメルが言って、ルカの腕を引き、洞窟に入った。
「見るがよい」
 洞窟の中に入ったというのに、外に居るのと変わらず明るい。
 ルカは辺りを見渡して、言葉を失った。
 壁一面に、ルカ達の姿が映っている。それはお互いに反射し合って、幾重にも重なって見えた。
「鏡?」
 明るいのは、外の光を反射している部分がどこかにあるからなのだろう。
「の、ような物じゃ。岩壁の表面を流れる水分に、こういう効果があるらしい。毒らしいからな。妖精族なら長いこと居ても良いが、人族なら半日も持たぬであろう」
 イーメルの話を聞きながら、ルカは天井を見上げた。鏡は天井までアーチ状に埋め尽くしていた。
 地面を見ると、所々に反射する水が流れて糸のような水路を作ってはいるが、基本的には普通の土のようだった。
 ルカはソルバーユに描いてもらった地図を広げた。自分の先に繋がる道と地図を見比べようとするが、自分達の姿を映す鏡が見えるだけで何も分からなかった。
 そういう場合は片手を壁に付けて歩けば良いのだろうが、先程イーメルから毒だと言われたばかりだ。触ることはできない。
 地面は分かるから、それを頼りに進むことにした。
「お姫さん、ついて来てくれ」
 ルカは歩き出した。

 地図を頼りに、足元を見ながら進む。壁を見ると惑わされそうだった。現に、何度かイーメルとはぐれ掛けたのだ。声を出せばなんとなく位置が分かって合流することができたが、狭い通路では反響も凄い。いつもうまくいくとは思えなかった。
 何度目かの角を曲がった後だ。
「ルカ、どこじゃ?」
 イーメルの声が聞こえてきた。
 またはぐれたのか。
 思って、後ろを振り返る。先程まで鏡に映っていたはずのイーメルの姿が、どこにも映っていなかった。
「お姫さん、こっちだ」
 鏡の隅にイーメルが映る。
 ホッとしたのも束の間、イーメルの姿は鏡から消えた。
「お姫さん?」
「ルカ」
 イーメルの声が先程より遠くから聞こえる。
 何やってんだ。
 ルカは道を戻った。だがイーメルの姿は見当たらない。
 別の道に行ったのか?
 地図を見る。だがソルバーユの地図は、通るべき道しか示されておらず、他の道については分岐点が分かるだけでその先までは分からなかった。
「お姫さん、もしどうしても道が分からなくなったら、壁に手を付いてずっと歩くんだ。それで駄目なら逆の手で同じことをやれ。いいな!」
「わかっておる」
 ルカが迷っても同じことはできない。
 ルカは元の道へ戻って先に進むことにした。
「ルカ」
「なんだ」
 随分遠い。
「今水を止める」
 そう聞こえた気がした。
 水を止めるというのが何のことか分からず、ルカは黙っていた。
 暫くすると、鏡のようになっていた壁面が次第に普通の岩肌を見せ始めた。暗くなり始めて、ルカは急いで持ってきたランプに火を灯した。
「さっきの道まで戻ってくれぬか。わらわも一緒に行く」
「わかった。今行く」
 イーメルが一緒に行くと言っているのだ。ここまで付いて来たくらいなのだから、この先も駄目だと行っても来るだろう。迷われたら大変だ。
 地図を確認しながら、先程イーメルとはぐれた場所まで戻った。
「どうじゃ。わらわを連れてきて良かったであろ?」
 イーメルがルカを見て言った。
 とりあえず無事だったのでほっとする。
「無事でよかったよ。鏡って止められるんだ?」
 すっかり普通の岩肌になった壁を見ながら、ルカがイーメルに言った。
「でなければ、危険すぎて観光名所にならぬであろ? 最初はそのような仕掛けは無かったのだが、竜の剣を探す輩が後を絶たぬのでな、五十年程前に取り付けたそうじゃ」
 ああ知ってたのか。だったら先に言ってくれ。
 自分の調べ方が足りなかったのだとは思うが、イーメルをかなり心配してしまった分、頭が痛くなった。
「行こう」
 気持ちを切り替えて、ルカはまた歩き出した。
 壁が鏡面でなければ、歩く速度にだけ気をつけていればはぐれる可能性は低い。
「つうか、なんであれが『真実を試す鏡』なんだ? 鏡には違いないけど」
「さあな。わらわも聞いただけで、実際に見るのは初めてだったし」
 見るのが初めてということは、ここに来るのも初めてということだろうか。それで聞いたことを頼りに水を止めに行くとは、危険だと思わなかったのだろうか。
 まあ俺も似たようなもんか。
 竜の剣のことをほとんど知らずに、ソルバーユから聞いた話だけを頼りに取りに行こうとしているのだから。
「こっちだ」
 地図が描かれている一番端に着いた。
 が、その先には何もなかった。地面も。
「うわああぁああ」
「ルカ!」
 イーメルが自分に向かって手を伸ばしているのが見えた。既に落ちているルカに手が届く訳が無い。
 大きな音がして、イーメルは目を閉じた。
 ルカが穴の底に落ちたのだ。時間としてはルカが落ちてから一瞬だったが、音は遠くから聞こえて来た。
「ルカ、大丈夫か?」
 声を掛けるが、返事がない。
 イーメルは穴の淵に手を掛けて、降り始めた。
 だが、少し降りた所で手を掛けていた部分が欠け、イーメルも下へ落ちていった。

next

表紙へ戻る 作品目次へ 作品紹介へ

index>作品目次>竜の剣シリーズ>竜の剣の物語>5-5