ルカは一瞬気を失っていたようであった。
気付いてすぐに辺りを見渡すが、暗闇が広がるばかりだった。手に持っていたランプは落ちた時に割れてしまったようだ。油の臭いがした。
「お姫さん」
上を見上げて声を掛ける。
返事は無かった。
それほど高いところから落ちたとは思えなかった。背中は痛いがそれだけで、怪我はしていない。
ソルバーユが描いた地図はここが終点だった。であれば、竜の剣はここのどこかにあるはずだった。
鏡の水を止めなければここも明るかったのかもしれないが、それをとやかく考えていても仕方ない。
地面にランプが割れたガラスの破片が散らばっているのが僅かに見えた。
ルカは両手で壁を確かめながら立ち上がり、壁に沿って歩き出した。
――よくここまで来たな、半妖精族〔ハーフエルフ〕の若者よ。
唐突に声が聞こえて来た。
何だ? どこから聞こえてる?
周りを見ても闇が広がるばかりだ。それに、声はどこかから聞こえたというより、直接ルカの中に聞こえて来た、と表現した方がしっくりくるような声だった。
――我が名はクレイシステレス。若者よ、汝の名は?
危険か? それとも助けか?
判断が付かなかった。姿は見えないし、声も直接心に響いているようで不気味だ。
名前くらいは言っても害もないだろう。相手は俺が半妖精族だってことも知ってるみたいだしな。
ルカは思って言った。
「俺はルカだ」
――ではルカ、汝に問おう。汝は竜の剣を求める者か。
どう答える? ただの観光客だと言った方がいいのか? でもこいつは、俺の正体を既に知っている。誤魔化しても意味がないか。
「そうだ」
――ルカよ、汝はこれから起こる試練に打ち勝たねばならぬ。
何を言ってるんだ?
ルカを試すというのだろうか。どうやって?
「は? どういう意味だよ、おっさん」
――『おっさん』ではない。クレイシステレスじゃ。
怒った声で言われて、ルカは驚いた。
今までの厳格な雰囲気はなんだったんだ。『おっさん』呼ばわりされて怒るなんて、まるで普通のひとじゃねえか。
「試練って何だ」
――そなたが竜の剣を持つにふさわしいものか、試させてもらう。
「そういうのは試練じゃなくて試験って言うんだ」
――……。
クレイシステレスが黙ってしまった。
|