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6.それぞれの理由 4

 家に帰ると、台所にセイロンが居た。マギーは居る様子がない。
「ただいま。マギーは帰ったのか?」
「さあ。居ないんなら、帰ったんじゃない?」
 ぶっきら棒に答える。
 まだ喧嘩継続中か。
 サラの存在は二人にとって大きかったのだ。泣いてお互いに暗くなっていくよりは、喧嘩して発散した方が良いだろう。
 普段なら、まだ日は高いし、マギーが帰る時刻ではない。相当酷い喧嘩だったのか、セイロンの顔に青あざも見えた。
「セイロンは手を上げてないだろうな」
 マギーに。小さい子ども同士なら大した怪我にはならないかもしれないが、十五歳にもなる男が同じことをやれば相手の女の子は大怪我だ。
「知らない」
 本当は知らないわけではないだろうが、ルカともあまり話したくないのだろう。
「俺、ちょっと昼寝する。誰か来たら起こしてくれ。誰も来ないとは思うけど」
 欠伸をして見せて、ルカは寝室に入った。
 今のセイロンには、何を言っても駄目だろう。言わなければいけないことは全部言ったし、多分マギーも言ってくれているだろう。後は落ち着くのを待つしかない。
 夜になって、腹が空いて目が覚めたルカは、台所の机に突っ伏して寝ているセイロンを見つけた。
 巻物状だった羊皮紙が広げられている。内容を見ると、サラの名前に線が引かれ、今日の日付が書かれていた。
 今の時刻はよく分からない。
 セイロンが寝ているから、もう随分遅い時間なのだろう、と思いながら、乾燥肉を一切れ切り取る。
 突然、家の扉がドンドンと叩かれた。
 普通に家に来る客は、こんな扉が壊れそうな勢いで叩いたりしないはずだ。何か急ぎの用だろう。
 ルカは扉を開けた。
 外に立っていたのは中年の女性だった。
「マギー、来てない?」
 誰だろう?
 マギーの知り合いなのだ、ということだけは分かる。
「昼に来てたけど、もう帰ったよ」
「何時ごろ? マギー、まだ帰ってこないの」
「え」
 急いでセイロンを起こす。
 泣いていたせいで半分くらいしか開かない目を擦っていたセイロンは、マギーがまだ帰っていないことを聞いて、急いで冷水で顔を洗って、女性を出迎えた。
「おばさん、マギーがまだ帰ってないって本当? マギーがここを出たのは昼過ぎだよ」
「昼過ぎ……いいえ、午前中に出かけてから一度も帰って来ていないの。どうしたのかしら。最近人攫いも多いって聞くし、心配だわ」
 この女性が、マギーが世話になっている『おばさん』なのだろう。実際に二人の叔母なのか、それとも近所のおばさんという意味なのかは分からないが。
「俺、探してくる」
 ルカは言って、家を出た。
 振り返って、女性とセイロンに向かって言う。
「二人はここで待ってろ。こんな時間に外を出歩くのは危ない」
 女性はよく一人でここまで来たものだ。マギーを本当に愛しているのかもしれない。
 ここから羊飼いの村まで、道は複雑ではない。最短距離を行くなら選ぶ道は一本しかなく、他の道というと単に畑の畦道を通るかどうかくらいのものだ。
「マギー」
 名前を呼びながら道を走る。
 時刻も遅く、道を歩く人は誰も居ない。王の結婚式の日の夜、遅くまで明かりが付いていた人族の集落も、今日は真っ暗でどこにあるのかもよく分からないくらいだった。
 集落に差し掛かる。
 もう皆寝ている時刻だろう。明かりは全て消えているし、外には人の気配もない。
「マギー」
 少し声の音量を下げて呼ぶ。
 集落は道よりも複雑だ。だが、あまり集落の中で留まっている可能性は考えられない。集落の中なら、既に誰かが見つけているはずだ。友達の家に泊まっているのかもしれない。
 だがセイロンの家を出たのが昼過ぎなら、おばさんに連絡する時間はいつでもあったはずだ。
 集落を抜けて、少し離れたところにある羊飼いの村を目指す。
 マギーが住んでいる家の前まで行ったが、マギーは見付からなかった。
「マギー」
 羊飼いの村に響く声で呼ぶ。
 誰かは起きてしまったかもしれないが、マギーが見付からなかったらそれどころではない。
 道を戻る。
 やはり、見付からなかった。
 少し別の道へ入ってみる。特に何もない。
 駄目だ。これじゃあ、見付からない。
 山が見えた。
 ひとりで山に入るはずがない。また引き返す。
 朝になっても、マギーは見付からなかった。一度家に戻ったが、やはりマギーは立ち寄っていない。
 おばさんと一緒に、マギーが住む家にまた向かう。
「セイロンが、マギーが居なくなったのは自分のせいだって言うの。喧嘩したからだって」
 おばさんが言った。
「家出だと?」
「セイロンはそう言うけれど……セイロンと一緒に暮らしているなら喧嘩して家出もあるかもしれないわ。でも、マギーはわたしたちと一緒に暮らしているのに」
 その通りだ。
 マギーが家出をする理由はない。
 一睡もせずに疲れ果てた様子のおばさんを家に入れると、ルカはまたマギーを探しに歩き出した。
「お兄ちゃん」
 聞きなれた声が聞こえて来た。マギーではなく、以前イーメルと一緒に遊んでいた子どもの一人だ。
「マギーを探してるの?」
「ああ。……知ってるのか?」
「アリルが見たって」
 指差す。
 アリルは初めて見る顔だった。まだひとりで歩くのも危ないくらいの小さな男の子だった。
「マギーを見たのか?」
 ルカが聞くと、アリルが頷いた。
 言葉はもう喋れるのか?
 疑問が浮かぶ。この年齢なら喋れるはずだが、成長速度はみなが横並びなわけではない。まだ自分が言いたいことをきちんと纏められない子どもも多いだろう。
「おっきな くるまにね」
 アリルがたどたどしい口調で言った。
「いっぱいのってた。おねえちゃんも、おにいちゃんも」
「知らない人も乗ってた?」
 先にルカに声を掛けた、アリルよりは年上の女の子が言う。
 アリルは少し考えてから言った。
「うん。しらないおじさんもいっぱいいた。しらないひとには ついていっちゃだめって、ぼく言ったんだけど、おねえちゃん くびをよこにふって、だめだめしてた」
「その車は、どっちへ行った」
「んとね、あっち」
 指差す。
 そちらへ行っても山しかない。
 山を越えれば、隣国イリアンルゥルだ。
 人攫いだ。若い男女を攫って、他国で奴隷として売る。
「教えてくれてありがとな」
 ルカはアリルに言ってから、城へ向かって走った。

 途中、家に寄ってセイロンに一部始終を話す。
「俺は城に行って、保安隊に動いてもらうよう頼んでくる。まだ国境を越えていなければ対処もできるだろうし」
 セイロンの返事を聞く前に、もうルカは走り出していた。
 しかしルカは城に入ることができなかった。元々、城で働く者でもなければ城へそう簡単に出入りはできない。
 仕方がないので、門番に訴える。
「俺の友達の妹が、奴隷商人に攫われたみたいなんだ。目撃者も居る。だから、保安隊を出して探してくれ」
 門番は互いに顔を見合わせて、それからルカに視線を戻した。
「奴隷が何を言うか。主人と一緒に出直して来い」
「主人って……俺らの主人はカザートだろ? 個人の奴隷じゃない」
「だったら、自分達の問題は自分達で解決するんだな。別に奴隷のひとりやふたり、居なくなっても困らないからな。お前もそんな汚い格好でここをうろつくな。神聖な城が汚れる」
 よくもそこまで言えたものだ。
 門番を殴りたくなった気持ちを抑えて、ルカはもう一度頼んだ。
「奴隷の売り買いをしてるのは他国の人間だぞ。奴隷が連れて行かれるってことは、この国の財産を持っていかれてるのと同じことだ。それを放置するような国ではいけないんじゃないか?」
 ルカの言葉に、また門番は顔を見合わせた。
 そして、ルカを見て笑う。
「わはは。お前がそんな心配してどうするんだよ」
「じゃあ、オーヴィアは? オーヴィアを呼んでくれ」
 オーヴィアは今、セイロンの上司だ。主人ではないが、それに近い。
「オーヴィア? 誰だそれ」
「つい最近まで王女の護衛をしていた妖精族の男だ。知らないわけないだろ」
「……ああ、何かあって辞任したとかいう」
 やっとオーヴィアと繋いでくれるかと思ったら、門番達は二人で雑談を始めた。
「あいつの妹のサビアが美人なんだよな」
「そうそう。でもオーヴィアと兄弟になるのはちょっとなぁ」
「先にサビアに声掛けてから考えろよ」
 いい加減、苛々する。ある意味、絶対に通さないという姿勢は門番としては優秀なのかもしれないが。
「ルカ」
 呼ばれて振り返ると、セイロンだった。
 セイロンは雑談をしている二人の門番の前に立った。
「失礼します。人族の出入りの管理をしております、セイロンと申します。妹が人買いに攫われたらしく、昨日の昼から消息が不明です。捜索の為、十数名の人手を借して頂きたい」
「は?」
 門番が最初に言ったのは、セイロンを馬鹿にするかのような一言だった。
 セイロンが緊張した面持ちのまま、次の言葉を待つ。
「なんだ、お前の妹か。そんなガキ居なくなってもいいじゃねえか。大体、さっきそっちの人にも言ったけどな、こっちは奴隷のひとりやふたり居なくなったって困りはしないんだ」
「話では、他にも被害が出ているようです。まだ遠くへは行っていないでしょう。早めに捜索を!」
 必死なのだろう。
 サラが居なくなったばかりだ。マギーまで居なくなったら、セイロンは本当に壊れてしまう。
 セイロンが取り合おうとしない門番の服に縋り付く。
 さすがに相手をするのが面倒になったのか、門番はセイロンを蹴り飛ばした。
「汚いガキが、俺様の服によだれ付けるんじゃねえよ」
 ルカに対して話しているときよりも、輪をかけて態度が悪い。相手が子どもで、自分達に手を出せないと思っているからだ。
「おい、どいてろセイロン」
 言って、ルカはセイロンと門番との間に入った。
「こっちは頼んでる側だからな、相当頭低くしたつもりだ。でもこれ以上、黙って見てるわけにはいかない」
 セイロンを蹴り飛ばした門番を睨み付ける。
 これだけで逃げてくれれば楽なものだが、妖精族はこっちが人族だからと態度を改めようとしないのが常だ。
「はっはっは。そんな顔しても無駄だよ。俺はこの城の門を預かる大変な任を受けているわけだ。奴隷を通すわけにはいかな――」
 言いかけていた男の腹を殴る。
 倒れこんだ男の兜を取った。
「阿呆面がよく見える」
 兜を堀に投げ捨て、ルカは男の顔を殴った。
 腹を殴られた時点で男の表情は、ルカを莫迦にするものから怯えるものに変わっていたが、構わずに何発か殴った。
 もうひとりの門番が、放置できないと思ったのか、城内に駆け込むのが見える。
 その後姿に視線を移した一瞬、門番の男が力を使った。
 ルカの体が少し浮き、地面に叩き付けられる。
「なんて乱暴な男だ」
 自分がセイロンを蹴ったことは棚に上げ、門番は居住まいを正すとルカに手のひらを向けた。
「妙な真似をしたら、今度は手加減しない」
 それは余裕がある時に言う台詞だ。殴られて腫れた顔で言われても迫力もなにもない。
 ルカは素早く立ち上がると、低い位置から門番の両脚を抱え、自分の側に引っ張った。勢いで、門番は城の壁に後頭部を打ち付け、気絶した。
「大丈夫か、セイロン」
 振り返ってセイロンに駆け寄る。
 蹴られてからそこそこ時間が経っているのに、まだ倒れこんだままだったということは、あまり良い状況とは言えない。
 顔が青褪めて、息が細い。声を掛けても返事も無かった。
 服を捲りあげて蹴られた腹を見ると、門番の靴の形に青黒くなっていた。
 蹴られたくらいで死ぬことはないと思う。思いたい。
 城に入った門番が、別の妖精族を連れて出てきた。
 オーヴィアだ。
「オーヴィア。セイロンが」
 だがオーヴィアが駆け寄ったのは、ルカが殴って今は気絶している門番の方だった。
「そいつは気を失ってるだけだ。それよりもセイロンを」
 ルカは言ったが、オーヴィアは暫くその門番から離れず、本当に気絶しているだけとわかってからやっと、セイロンの元に来た。
「どうしたんだ」
「門番に蹴られて、暫く経つのにまだ意識が戻らない」
 腹の痣を見せる。
「おい、この少年も医務室へ運べ」
 オーヴィアが声を掛けると、城の中に待機していたのか、二人の妖精族が出て来てセイロンを運び入れた。
「門番に蹴られたと言ったな。あそこで気絶していた役立たずか」
 オーヴィアがルカに言ったので、ルカは頷いた。
「ああ」
「では、あの門番を伸したのはお前か?」
 ルカを睨み付ける。
 言い訳したいことは山ほどあったが、それを言っても無駄のようだった。
「ああ、そうだ」
 この話がどう転んでも構わない。それよりも、セイロンの回復と、マギーの捜索が重要だから。
「セイロンの妹の捜索の為、人手を借りたいという話だと聞いたが? 何がどうなって、お前が門番を倒す羽目になったんだ」
「あいつが、セイロンを蹴り飛ばしたんだ。だから俺が間に入った」
「莫迦なことを。お前がやったことは話をややこしくしただけだ。お前達は国の奴隷だ。主人は国で、別の言い方をすれば、この国の妖精族全てがお前達の主人とも言える。主人の言うことを聞かず制裁を受けたとしても、それは甘んじて受けるべきではないか?」
「は? じゃあ、セイロンはあのまま殺されてても仕方ないって言うのか?」
「そうだ」
 オーヴィアの言葉が突き刺さる。
 こんなことを言う男だとは思わなかった。
 だが、セイロンを医務室へ運ぶよう指示してくれたのも事実だ。
「セイロンは何も悪いことはしていない。言うこと聞かなかったのも、実際に殴ったのも俺だし。セイロンをちゃんと介抱してやってくれ」
 考え方や感じ方が違うのは仕方が無い。同じ人族であっても違うのだ。
「それから、マギー……セイロンの妹の捜索はしてくれるのか?」
「その予定はない」
 オーヴィアはそう言うと、城の中に戻っていった。
 なんで……。
 サラが死んで、マギーも居ない。セイロンも、処置が悪ければ死ぬかもしれない。
 人族の問題は人族で解決しろって言うなら、解決してやる。
 ルカは顔が分かっている仲間の元へ向かった。

 仕事は既に始まっている時間で、馬屋に入るとサルムが「遅刻とは珍しいな」と声を掛けてきた。
 のんびりと挨拶している場合ではなかった。
 事情を説明し、今から捜索に出られる仲間が居ないかサルムに尋ねる。
 サルムにルカが王を倒そうとしていることを教えたのは、人族の老人だったそうだ。その老人の名前と住む場所を聞き、ルカはそちらに向かった。
「俺も掃除と餌やりが終わったら向かうから!」
 サルムがルカに向かって大声で言う。
「わかった。ありがとう」
 ルカは教えてもらった老人の家に向かった。
 老人はおそらく、カザートの人族の中で最高齢なのではないだろうか。耳もあまり聞こえないようで、ルカが何度も呼んでやっと出てきた。
「わしも行こう。この通り年を取ってしまって、目も悪いし、耳も遠くて仕事はできなくなったが、まだまだ動ける」
 老人は顔が広く、多くの仲間と会うことができた。
 マギーの捜索に出られるのは、仲間以外の事情を聞いて集まった人族も合わせて三十名程となった。
 十名ずつ分けて、アリルが指差した山を捜索した。
 程なく真新しい轍が刻まれているのが見つかって、分かれて探していた全員が集まった。
 単にイリアンルゥルへ行けるというだけの、この山中の道は険しく、普通は使わない。これが人買いが使っている荷馬車の轍と考えて間違いないだろう。
 轍に沿ってルカたちは足早に進んだ。
 相手は幾人か攫ったようだし、大人数になっているはずだ。この山道では、馬車と言えどそう速度は出せないだろうし、大人が単独で動いている自分達の方が早いはずだ。
 夜になって、ルカ達は山中で焚き火をしていた人買いを見つけた。
 こちらの方が断然人数が多く、人買いはこちらの姿を見て逃げてしまったが、攫われた子ども達を助け出すことができた。
 捜索を手伝ってくれた人族の中には、自分の子どもが居なくなった親も居る。そういった人たちは、子どもを抱きしめて涙を流していた。
 ルカは馬車の中で眠っているマギーを見つけた。
 泣いている子どもが多い中で、よく眠れたものだ。
「マギー」
 呼びかける。
「ん……?」
 目を覚ましたマギーは、目の前にルカが居るのに驚いたのか、はじけるように飛び起きて、馬車の天井に頭をぶつけていた。
「大丈夫か?」
「ったい……」
 頭を抱えて、マギーが呟く。やがて痛みが引いたのか、頭に置いていた手をルカに向かって伸ばした。
「おじさんだ……」
 確かめるように、ルカの顔に触れる。
「夢じゃないよね」
「痛かったんだろ?」
「うん」
 勢い良く頷いてから、マギーが泣き出した。
「帰ろう、マギー」
「うん」
 正面から抱きかかえて、馬車から降りる。
 さすがに、子どもを抱く母親のようには行かないから、一度マギーに馬車の中で降りてもらった。
「ほら」
 自分だけ馬車から降りて、おぶさるように言う。
 マギーは周りをみて、自分より小さな子ども達が親に抱っこされたりおんぶして貰っているので、恥ずかしくなったようだ。
「子どもじゃないもん」
 ルカの背に頼らず、馬車から降りた。
「じゃあ、歩くか。でも結構遠いぞ」
「がんばる」
 言いながら、マギーがおずおずと、ルカの手を握った。
 逸れられては困るから、ルカとしてもその方が都合が良い。
「行こう。疲れたら言えよ」
 マギーの手を強く握り返して、ルカは言った。

 山を下りた頃には、翌日の仕事の時間も近かった。
 見知らぬ子どもを背負って山を下りた若者も居る。
 途中で疲れてしまった老人を助けるために、一緒に山を下りている人も居る。
 休むことなく進んだから相当疲れているはずなのに、それを微塵も見せずに、町に着くなり知り合いの子どもを家まで送り届けると言って、意気揚々と出かけた者も居る。
 仕事が心配だからと、親が礼を言っている途中でそのままどこかへ行ってしまった人も居た。
 ルカは、マギーを背負ってマギーの家に行った。
 おばさんがマギーを見て涙を流す。
「良かった。本当に良かった」
 マギーのきょうだいとも言える、同じ建物に暮らすほかの子どもも、マギーを見てはしゃいでいた。ただ、マギーは寝ていたから、お互いに向かい合って、唇の前に人差し指を立てて、「しーっ」と言っている。
「後は頼みます」
 おばさんにマギーを託すと、ルカは家に向かった。
 セイロンはどうなっただろう。
 家に帰ると、扉に書置きがあった。セイロンはソルバーユの研究所に居るそうだ。セイロンの字ではないが、誰が書いたのだろう。
 ルカはソルバーユの研究所に行った。
 ルカを出迎えたのはトキメだった。ソルバーユは東へ出ており、王都カザートには居ない。
 奥の部屋で、セイロンに会った。
 包帯を大げさに見えるほど胴に巻きつけて、セイロンは巻物と睨めっこをしていた。
「セイロン、生きてたか」
 声に気付いて、セイロンがルカを見た。
「ルカ! ありがとう。マギー戻ったんでしょう? さっきここに来た人が教えてくれたんだ」
「俺だけじゃないよ。多分その教えてくれたって人も、一緒に探してくれた人だと思うし」
 ひとりでは、あの山の中を探し切ることは出来なかったかもしれない。仮に探せたとしても、人買いと戦闘になるし、子どもを全員連れて山を下りることもできないし、うまくいかない可能性が高すぎる。
「そっか。皆で探してくれたんだ」
 ルカが状況を説明すると、セイロンがそう言った。
「言っとくけど、捜索に参加しなかった人たちが悪い人たちって意味じゃないからな。俺らが抜ける分、その人たちが倍仕事してくれたんだし」
「そんなこと、ルカに言われなくても分かってるよ」
 セイロンが笑い出す。ルカも笑った。
 セイロンは腹が痛いようで、笑った後顔を顰めた。
「ねえルカ、やっぱり僕も仲間に入れてよ。今のままじゃ駄目だって、僕も分かったから」
 驚いて、ルカは言葉が出なかった。
 つい数日前は、反対されたのだ。それが、ルカが説得したわけでもなく、仲間になってくれるとは。
「もちろんだ。でも、危ないことは俺らに任せるんだぞ」
 実際に反乱に参加しなくても構わない。同じ志があれば、仲間なのだ。

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