2001/10/03 公開
担当:カルネアデス

ADAM THE SPIRAL FACTOR

#51 Ver.α


佐久間裕一「あいつらは、人を玩具(もの)にしか見ていないんだ!!」

氷室恭子「‥‥そうね」

佐久間裕一「挙句にこれだ!」

 『バン!』と勢いよく佐久間の手ごと、机に叩きつけられる書類。

氷室恭子「なに‥‥それ?」

佐久間裕一「こんなものを創りやがったんだ!」

氷室恭子「‥‥‥‥」

佐久間裕一「人類の永遠の夢であって欲しかった事だが、
初めての実例(もくてき)がこんな事に使われた事が‥‥
許される故(わけ)が無いんだ!!」

氷室恭子「‥‥熱くならないでよ、私は置いてきぼりなんだから。
結局それは何なの?」

 医療に心得が無いものにはその書類は難しすぎた。
その書類を読めるのはこの中で佐久間ただ独りであって
氷室には解読できなかった。

佐久間裕一「‥‥すまん。そうだな‥‥所謂(いわゆる)若返り薬だ。
新陳代謝機能を異常なまでに高めるものだ。」

氷室恭子「新陳代謝‥‥つまり老化が遠退(とおの)くと?」

佐久間裕一「そうだ、老化とは細胞が死んでいく事を指す。

 古くなった細胞は新しい細胞に新陳代謝機能によって
差し替えられる訳だが、歳を重ねるとこの機能が著しく低下して
その差し替えが出来なくなり、古い細胞に己が肉体を蝕んでいく
‥‥これが老化だ。

 新陳代謝機能が歳を重ねるごとに衰えていくからだ
‥‥これは避けられない事だ。

 ならば逆に再生能力の高い若い頃の細胞を
維持出来るとしたらどうなる?

 そういう作用をするモノだと予想できる‥‥と言うより、
そういう作用をすると現に此処(ここ)に書いてある!」

氷室恭子「そんな‥‥」

佐久間裕一「確かに‥‥人類にとっては喜ばしい事かもしれない、
生きたくても‥‥生き抜きたくても生きられない人にとっては
喉から手が出るほどの‥‥ましてや、他を排除してまでも
手中に収めたい代物だろう‥‥だが」

氷室恭子「‥‥‥‥」

 おもむろにタバコを探す佐久間、その手には震えが‥‥。
作業が思うようにはかどらない。

佐久間裕一「地球の温暖化、資源の先行きの不透明感、
人口増加に伴(ともな)食糧不足は避けれない事実だ。
それらが解消されない限り、この薬は‥‥表に出てはいけないんだ!
少なくとも後者の‥‥食糧問題が解決するまでは‥‥」

氷室恭子「‥‥‥‥」

 ついにタバコの火を入れる佐久間。
そして大きく一服の煙を天井向けて吐き出す。

佐久間裕一「尤(もっと)もどんな副作用があるかは解らん事だが‥‥」

氷室恭子「‥‥ねぇ」

佐久間裕一「‥‥ん?」

氷室恭子「それ、小次郎の治療に使えないの?」

佐久間裕一「‥‥さぁ――――」

 先ほどまでは煙一つさえ、浮かんでいなかった室内は、
佐久間の煙草による白い靄が包み込んでいた。









































第二部 了




















































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