1999/08/04 公開
担当:カルネアデス


機動戦艦ナデシコ

これから (仮称)


#07 『記憶』


マキビ・ハリ「アオイさん、先程はありがとうございました。」

アオイ・ジュン「え? なにが?」

マキビ・ハリ「目配せしてくれたじゃないですか。
                  その僕、こういうのはじめてでして
                  その…………気が回らなかったというか」

僕はそういう気で目配せしたんじゃないんだけど、そういう風にみえたのか?

アオイ・ジュン「くすくす……ハーリー君、君って。」

笑いを押し殺している為か、肩が震えているジュン。

マキビ・ハリ「え? え? え?」



店員「ご注文はお決まりでしょうか?」

遊園地にしては整った顔立ちの女性がたずねてくる。
おまけに某ハンバーガー屋バリのスマイルにドギマギするハーリー。

マキビ・ハリ「な、何にしましょうか、アオイさん。」

骨抜きにされそうなスマイルから逃げる為に、ジュンにたずねる。

アオイ・ジュン「ハーリー君、ルリちゃんの事……好きかい?」

マキビ・ハリ「そう言うアオイさんはユキナさんの事好きなんですか?」

アオイ・ジュン「………………。」

マキビ・ハリ「………………。」

『何かと似た者同士なのかもしれない。』 とお互いに心の中でつぶやいた。

店員「あ、あのぉ〜、ご注文の方は(汗)?」

スマイルのまま対応に困る店員。





店員「ありがとうございました。」

店員はやっとこの2人から開放された。

店員「……はぁ=3」

これでしわが増えたことだろう、まだ恋もしていないのに。
ナデシコの関係者には関わらない方が良いのかもしれない……。





アオイ・ジュン「……今はそうなのかもしれない。」

マキビ・ハリ「え?」

アオイ・ジュン「小さい頃からユリカしか見えてなかったから。」

マキビ・ハリ「ユリカさんってあの火星の……。」

アオイ・ジュン「そうだよ、彼女のことさ。」 マキビ・ハリ「確か……結婚を。」

アオイ・ジュン「うん。だけど彼女を好きだった僕はまだいるんだ。」

マキビ・ハリ「…………難しいですね。」

アオイ・ジュン「でもねハーリー君。僕では彼女を幸せにはできないと思った。」

マキビ・ハリ「な?」

ハーリーが立ち止まる。

アオイ・ジュン「彼女は僕たちに見せたことのない笑顔を彼の前だけで見せてくれるんだ。
                     その時、僕が幸せだとしても彼女は永遠に幸せには……
                     あの笑顔をさせてあげることが出来ないと思ったから。
                     だから……だから身を引いた。」

うな垂れてジュンが立ち止まる。

マキビ・ハリ「アオイさん……。」

と声をかけようとした刹那(せつな)、ジュンが振り返った。

アオイ・ジュン「なぁんて言ったらかっこいいけど、僕が彼女しか見えてなかったように、
                    彼女は彼しか見えてなかった、そういう事だと思ったんだ。」

照れ隠しのように頭を掻くジュン。



記憶喪失「さっきのって、ミナトさんとユキナちゃんじゃ……。」

ホシノ・ルリ「そですよ。記憶喪失さん……あっ………すいません。」

記憶喪失「ははは……気にしなくていいよ、ルリちゃん。」

ホシノ・ルリ「…………記憶は戻りましたか?」

記憶喪失「まだなんだ……実はね……。」

ルリがうつむく。
その行動を知ってか知らずか記憶喪失は話しを続ける。

記憶喪失「だけどね…………。」

ベンチから腰を上げてルリを見つめる。
ルリはまだ地面を見つめている。

記憶喪失「彼女は僕の昔……あたりまえだけど知ってるんだ。
               それで僕の昔を聞くんだけど、正直言うと 『ピン』 とこないんだ……。」

ホシノ・ルリ「…………。」

記憶喪失「だけど…………だけど彼女が好きだという気持ちは、
               たとえ昔を忘れ去っていても変わらないって言ったら、
               やっぱり変なんだけどさ、彼女のことは好きだ。
               あの時、ナデシコに僕が現れたからこそ、彼女に会うことが出来た。」

顔をあげて記憶喪失を見つめるルリ。
記憶喪失にあの人の面影が重なり合う。

記憶喪失「だから……さ、もし 『彼』 を探しに決意をしたら。その時は、遠慮なく言ってよ!
              僕も短い間だけどナデシコクルーだったんだから、
               『変な仲間意識』 だ!……って笑ってくれてもいいけどね。……ん?」

ふと、空を見上げる記憶喪失。



アカツキ・ナガレ「さてとっと、どうしたものか。」

エリナ・キンジョウ・ウォン「ユーチャリスですか?」

アカツキ・ナガレ「まっそれもあるけど……なんか盛り上がってるよ、あちらさん……。」

エリナ・キンジョウ・ウォン「……やっぱりナデシコクルーは、見てて退屈しないわね。」

アカツキ・ナガレ「あっはははは……。」

エリナ・キンジョウ・ウォン「ふふふ……。」

アカツキの顔が真面目になる。
その視線を受けてエリナの顔も引き締まる。

アカツキ・ナガレ「それはそうと、エリナ君。」

エリナ・キンジョウ・ウォン「何でしょう? 会長。」

アカツキ・ナガレ「『あれ』の開発はどう?」

エリナ・キンジョウ・ウォン「被験者の健康状態、至(いた)って良好。今の所はね……。」

アカツキ・ナガレ「……それにしてもよくあんなの思いついたねぇ。流石だねぇ、やり手の会長秘書さん。」

エリナ・キンジョウ・ウォン「もう会長ったら……それは私のアイデアじゃないわ。」

アカツキ・ナガレ「ん? それじゃ、誰の?」

エリナ・キンジョウ・ウォン「彼のアイデアよ。」

エリナが見た先のモニターには遊園地が映し出されている。
その中のベンチに座る2つの人影――――ルリと記憶喪失。
ふと記憶喪失が空を見上げ、微笑みながら手を振っている。

アカツキ・ナガレ「…………おやおや。」



ホシノ・ルリ「どうしたんですか?」

記憶喪失「え? あ、いや別に……。」

手を振るのをやめる記憶喪失。

記憶喪失「……ルリちゃんにとって、アキトはどういう存在だったの?」

ホシノ・ルリ「…………。」

記憶喪失「……僕にとってはナデシコが、ナデシコクルー全員が『家族』みたいなものだったけど、
               アキトが一番親しみやすかった。 ただのヒヤカシだったとしても、
               みんな僕の事を 『アキトに似ている。』 って言われてたからかもしれない。
               僕だっていますぐに 『彼』 を追いかけたいんだ。だけど…………。」

記憶喪失を見つめるルリ。

ホシノ・ルリ「だけど?」

サングラスに手をかける記憶喪失。

to be continued ...


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