'99/06/09 書き手:伊佐坂
12
「ふむ、よく調べたものだな。」
パトカーのハンドルを繰(く)りながら、ヘイマーはそう言って鼻を鳴らした。それはどうも、と言いながら助手席で探偵は、ラジオから流れるロックン・ロールに拍子を取っている。
ベンジャミンの手による報告書は、後部座席のカサハラによって読み上げられていた。
「で,探偵氏はこれらの資料から何を導き出したのかな?」
カサハラは、そう興味無いかのような口調で言って、報告書を畳むと、座席にゆっくりと腰を沈めて目を閉じる。ベンジャミンはバックミラー越しにカサハラの顔をちらり、と見て言った。
「そうですね、幾つかの注目すべき事実が浮かび上がってきますね。」
探偵は、茶色がかった金髪を掻き上げた。物憂げな色をした瞳が、一瞬姿を現し、すぐに前髪の後ろに隠れた。
「事件当時、現場に何人の人物がいたのか?これを考えてみませんか?」
「ん、家主のルー・シーマと監禁されていた女性達。・・・それに、警察に通報した女性、か。」
「あと、車に乗っていた男もだよね、ヘイマー。」
後部座席のカサハラが、目を瞑ったままそう付け足した。探偵は、大袈裟に頷いて見せた。
「そうですね。目撃証言と照らし合わせてみても、最低限それだけの人物があの晩、ルー・シーマ氏の家にいたことは間違いないでしょう。」
「だが、それはこの報告書を読めば誰でも辿り着ける答えにすぎんと思うぞ。」
ヘイマーの言葉を受けて、探偵は素直にそうですね、と言った。
「貴方達が駆けつけたとき、あの家には、監禁されている女性の姿しかなかった。と、言う事は、発見された血痕が、シーマ氏の物であれ、通報者の女性の物であれ、この二人のどちらか、あるいは両方を連れ去った人物がいると言うことですよね。多分ローバーに乗っていたという男なのでしょうが。では、どうして男はその様なことをしたのでしょう?あ、そこの道を右です。」
「さあ、どうしてだ。」
ヘイマーはハンドルを切ると、そう投げやりに言葉を返す。
「昔の類似事件と比較するなら・・・」
探偵はそう言って、ハンチングを意味もなく弄る。
「シーマ氏の家には、シーマ氏の自殺したと思われる死体が残り、通報者の女性は、強盗事件だ、と警察に通報した後に姿を消す、それで良かったんじゃないんですか?でも、この事件の場合はそうじゃない。」
「通報者は何も言わず、シ−マ氏も姿を消した、か。」
後部座席のカサハラが、そう言ってゆっくりと目を開く。
「ローバーの男は、一体どちらの味方なのでしょうね?」
さあな、とヘイマーは呟いた。そして忌々しげに探偵に向かって言う。
「さあ、それよりそろそろ何処に向かっているのかを教えてはくれないか?」
次へ
リレー小説「35分署」入り口へ
伊佐坂部屋ラウンジへ