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ユメルシェルは近くを探し回ってやっとナティセルを見つけることができた。
「何をしているんだ」
十歳前後の子供と何か話しているナティセルに向かって聞いた。
「ちょっと待ってくれ。今難しいとこなんだ」
ナティセルはそう言って、子供の物らしいノートにユメルシェルにはさっぱり分からない数式を幾つか書いた。
一時待っていると、子供がお礼を言ってどこかへ行った。
「さっきのは一体何だ?」
「三角関数を使った応用問題の解き方を教えていたんだ。それで、何」
ユメルシェルにとっては『三角関数』という言葉でさえも初耳だった。が、そんなことは関係ない。
ユメルシェルはナティセルに尋ねようとして、自分たちを取り巻く奇妙な気配に気づいた。
「ユメルシェル、避けろ!」
ユメルシェルが気配を感じたのと同時に、ナティセルが叫んだ。
さっきまで二人が居た位置に、大型の剣が突き刺さる。気配は感じていたが、姿は見えなかった。
「誰だ」
ユメルシェルがナティセルに聞く。
「ユメルシェルを狙ってるんじゃないのか? 俺の知り合いじゃない」
二人の周りを幾つかの影が取り巻いた。
人数は四人、皆男らしい。他にも気配は感じるが姿を現したのはその四人だった。
一斉に攻撃してくる。
ユメルシェルが構えた。四人一度にかかって来たとしても、勝つ自信はあった。
男の一人に、ユメルシェルの蹴りが入る。同時にかかって来たもう一人の男も連続して倒した。
あとの二人はナティセルを攻撃していた。ユメルシェルとは距離がありすぎる。
「ナティセル、こっちに来い」
「ナティでいい。ユメルシェル、人のことはいいから自分の心配をしろ。まだ居るぞ」
ユメルシェルが言うと、ナティセルはそう答えた。
同時に繁みに残っていたと思われる数人がユメルシェルにかかって来る。ユメルシェルは彼らの相手をしながら、離れた所にいるナティを見た。
「ナティ」
「何だ」
「俺のこともユメでいい」
ナティセルがユメルシェルの方を見て笑った。
「人のことは心配するなと言っただろう」
言いながら、ナティセルは同時に二人の首を手刀で打ち付け倒した。今朝の、命乞いをした人と同じ人物だとは思えない、見事な技だ。
気配が消える。二人の前に転がっていた男たちも仲間に助けられてか、かき消すようにいなくなった。
「何者だあいつらは」
ユメルシェルが言う。あれだけ動いても息は乱れていなかった。
「さあな」
言ってナティセルは地面に突き刺さった剣を手に持った。
こんな重大な証拠残しやがって。わざとか、それともただ間抜けなだけか。
ナティセルは剣の柄にある紋章を見て思った。牙を剥いた猛獣の絵は、エクシビシュン王家のものに違いなかった。
「ユメ、それで何の用があるんだ?」
ユメルシェルは後ろからカムスティンの頭を狙った。
「不意打ちとは卑怯だな、ユメルシェル」
カムスティンは、後少しというところでユメルシェルを振り返って言った。
銃口がユメルシェルに向けられている。
「気にするな。試させてもらっただけだ」
ユメルシェルは持っていた短剣を鞘に戻した。
「俺たちとコヒの宮に行く気はないか? 俺の父の言う魔を倒すために」
カムスティンも銃を戻した。
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