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最後の戦士達

「いいか、シェアーには一週間以内に着きたい。食料もそんなに持って行かないからな」
 ユメが言う。日の出だった。
 デイの人口は都市に集中していた。理由は簡単だ。都市の他は砂漠だからだ。そういう都市は二か所ある。その内の一つがユメたちの居るグループスだ。だがここもあと数百年で駄目になるだろうという話だった。もう一つがエクシビシュンに近い、もっと南にある街、シェアーだった。
 北へ行くほど砂漠は多くなる。最も北にある国はアージェントだ。広い国土の割りに、人が住める土地の面積はあまりにも狭い。キフリの宮はそのアージェントにあった。
 逆にコヒの宮は一番南の国ウィケッドとエクシビシュンの間程にある。エクシビシュンは砂漠より緑の面積が多く、人もデイの数倍居た。ウィケッドはそれよりも南にあるのだ。しかし、ウィケッドは数百年前の文化の衰退とともに、他国との交流を減らしていった。
 砂漠は熱かった。普段日に当たらないセイは、お昼を過ぎた頃には火傷のように肌が赤くなっていた。
「日陰に入って休もう」
 トライはセイを気遣って何度もそう言ったが、ユメたちはただ進んだ。
 ユメもセイの肌のことは分かっていた。もし日陰があるのならもうとっくに休んでいる。ここには枯れ木さえなかった。
 トライはセイの後を陰ができるように歩いた。
 どれだけの距離を進んだか、何しろ砂漠で何の目印もないので分からない。が、もう日は沈みかけていた。星も少しずつ瞬き始めている。
 夜は昼と違って涼しくなる。いや、寒くなる。場合によっては摂氏零度よりも低くなる。
 夜の方が昼よりも動きやすくなるのは事実だ。ユメたちはできるだけ進むことにした。
「休もう」
 ユメが言ったとき、セイはホッとした。砂の上は歩きにくく、足はもうふらふらしていたからだ。
 トライが荷物を下ろす。テントを広げた。皆疲れていたのでテントの準備ができるとすぐ眠りに就いた。

 朝トライが目を覚ますと、隣で寝ていたユメが居なかった。テントから出るとユメが居た。
「おはよう、ユメ。早いね」
「……トライ、セイは連れてこない方が良かったのかな」
 ユメがこんなことを言うのは、セイが邪魔だからではない。セイの体を気遣っているのだ。自分たちは全く平気だ。一人、ナティが弱そうに見えるが、ああ見えても一応男だ。セイよりは体力がある。
「そうかもしれなくても、もう遅いよ。引き返すことはできないんだ」
 空が白んできた。
「ユメ……、」
 言ったトライをユメが制する。
 ユメが地平線の辺りを見る。トライも見るが、あるのは砂漠だけだ。
「トライ、聞こえないか? 砂の流れる音だ」
 耳をすませば、確かにそのような音が聞こえる。だんだん音が大きくなっているような気もした。
「流砂じゃないのか?」
 ユメはそれには答えず、代わりに皆を起こすように言った。
 テントからナティたちが出て来る。ユメに言われて皆耳をすました。
「本当だ。砂の音だな。随分近くで流れている」
 ナティが言う。
「ユメ、最初に聞いたときよりも近くに聞こえない?」
 トライが尋ねる。
「ああ。どんどん俺たちに近付いて来る」
「聞いたことがある。砂漠には旅人を襲う化け物がいると」
 カムが叫ぶ。音の正体はもう、ユメたちの目に見える位置にまで来ていた。
 すり鉢形の穴だ。穴の縁はユメたちの足元に迫っていた。
 穴の底に居たのは巨大な蟻地獄だ。流れる砂に、ユメが足を取られる。続いてトライが、ナティが、カムが、セイが。
「カサテ・ニザ!」
 カムの魔法に一瞬、巨大蟻地獄は怯んだ。だがさほど効いた様子はない。穴の底でユメたちが来るのを口を開けて待っている。
「駄目か」
 カムが言う。
「違うわ。こんな暑いところに住んでるんだもの、炎系の魔法ではいけない。せめて、氷系の魔法でないと」
「そんなに言うなら、セイ、お前がやれよ」
「……!」
 何を言うの、カム。わたしのことを怒ったの? 魔法もろくに使えないのにあんなこと言ったから?
 セイがうつむいたのを見て、カムは言った。
「……俺は氷系の呪文を知らないんだ」
 皆がカムを見る。こんなときに冗談じゃない。そんな顔だ。それを横に感じながらカムは続けた。
「だからセイ、今はお前しかいない」
 セイは頷いた。が、普段魔法を使っているわけではないので、すぐには呪文を思い出せない。
 カサテ・ニザは炎、ヘルユハプは水、チヌ・ペハチも火だわ。氷は、……何だったかしら。
 一瞬、だがユメたちにとってはとても長い沈黙の時間が過ぎる。
「レケゾ!」
 セイが叫んだ。ユメが足を伸ばせば蟻地獄の顎に当たる、そんな時だった。
 蟻地獄の動きが止まる。
「早くここから上がらなきゃ。氷なんてすぐに溶けるわ」
 砂の上に立ち上がる。だが二、三歩も行かないうちに砂に流されて元の場所に戻ってしまう。
「これじゃ先へ進めない」
ユメが言った。突然のことだったので、役に立つような物は、それどころか道具と名の付くものは何も持っていなかった。
「わたしがみんなを上まで投げる」
 トライが言った。
「できるか?」
 ユメが尋ねる。
 トライが頷いた。
 日が、もう高い。トライはまずセイを、そして一人ずつ、三人を上に投げた。
「セイ、ロープだ」
 ユメがセイに指示をする。セイは言われる前からロープを持って穴の上に居た。
 ロープを下ろして、トライがそれに掴まろうとした。そのとき、蟻地獄の足が動いた。
 トライが後ろを振り返る。
 蟻地獄がトライに飛びかかろうとしたとき、ユメが手元にあったナイフを投げた。
 ナイフが蟻地獄の頭部に突き刺さる。蟻地獄が悲鳴のような鳴き声を上げた。ナイフの刺さった所から黄色い、ちょうど、この砂漠の砂と同じ色の粉が噴き出す。
 しばらくすると、蟻地獄は元の体を欠片も残さず、すべて砂になった。
 トライを引き上げるとテントを片付け、砂漠を歩き始めた。

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