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最後の戦士達

「フライディに戻って王に会う」
 朝、朝食を食べているとユメがそう言った。
 皆の食事する手が止まる。どうして? とでも言いたげだ。
「俺もカムの言う通りだと思う。この先命を狙われながら行くより、安心して行く方がいいだろう?」
「まぁ、それは……。でもユメ、王に会ってどうするの?」
 セイが尋ねる。王一人が相手ならば闘っても勝つだろうが、城に居る大勢を敵にまわす訳にはいかないだろう。
「まずカムの先生を放して貰う」
 また食事を始めようとグラスを持ったカムだったが、それをテーブルの上に置いた。
「無理だな。師匠は城で働いていたんだが、その仕事での書類が違っていたからという理由で今は城の牢に入れられている。一応罪を犯したことになっているのだから、簡単には釈放されないだろう」
「それなら城に潜り込んで救出する」
「わたしはそれでいいと思うわ」
 セイがユメの意見に賛成した。
「ナティ、トライはどうだ」
「この件に関しては別に何の意見もない。カムの先生を助けるというのはいいことだと思うが」
「わたしは、あまり賛成とは言えない。もし戦いになってしまった場合、ユメはまだ肩の傷が全然治ってないのに、城に居る大勢に勝てる訳がない」
「戦いにはならないようにする。それでいいんだろ?」
 ユメが言うと、トライは頷いた。
「カムは?」
「そうして貰えると有り難い。――だか……」
 これは本当なら自分で処理しなければならない問題だ。ユメたちに迷惑が掛かる。大体俺たちは別の敵と戦うためにここまで来たんだ。わざわざ師匠を助けるためにフライディまで戻る必要はない。
 カムは思ったが、口には出さなかった。セイにはいつかは釈放して貰えるだろうと言ったが、そのまま殺されるかもしれないし、かといってカム一人では助けに行くだけ無駄だろう。
 ユメたちは朝食を食べ終わるとすぐに、フライディに向けて出発した。
「どうやって城に潜り込むの?」
 森を歩いているとき、セイがユメに聞いた。
「まだはっきりとは決めていない。俺には城の様子がサッパリだからな。カム、話してくれ」
「ああ……」
 ユメに言われて、カムは知っているだけの城の様子を話した。
「まず表の門だ。それをくぐると広い庭に道が城に向けて突っ切っている。城の中は、最初に広間がある。入って正面に階段があって、階段の向こう側は硝子の壁になっていて、その向こうは中庭だと思う。
 俺は行ったことがないんだか、広間の右側の通路を行くと調理場で、左の通路を行くと南の塔へ行けるらしい。さっき言った正面の階段を昇って右に行くと、……その道は曲がっているから多分中庭を囲む形になっているんだと思う。右に行くと見張りが居る、その扉をくぐって、それをあと二回程、一つの通路に扉が三つもあるんだ。俺と王が話したのは最後の四つ目の扉の向こうさ。そこは会議なんかに使われるそうだ。
 左に行くと、西の塔と北の塔への通路があるらしい。俺が知っているのはこれだけだ」
「そうか。では人を幽閉できそうな場所は三つの塔と、もしあれば地下だな」
 ユメが言う。
「カム、お前さっき表の門だとか言ったよな。裏門もあるのか?」
 ナティが尋ねた。
「ああ。だが裏は門にも扉にもしっかりと錠が掛かっている」
「城に外から侵入するのは無理だろう。例えばセイが料理手伝いとかいって城に入り、カムの先生の居場所を探す」
「ちょっと待ってよ、ユメ。私嫌よ。一人で行くなんて」
「俺も、セイが一人で行くのは止めた方がいいと思うぜ?」
 カムが言った。
「どうして」
「あの城、妙な噂があってな。何でも、城で働いていた若い女が何人も行方不明になっているとか、しかも行方不明になった女たちは全員、その前の日に王に呼ばれていた、とか言われてたり……」
「冗談じゃないわ。そんなとこ!」
 セイが言った。
「じゃあもうやめる? カムの先生助けるのは」
 トライが言った言葉に、セイは心を動かされた。カムのためにその人を是非、助け出さなければならないのだ。
「分かったわ。お城に行く。でもわたし一人で行くのはやっぱり嫌よ」
「だがカムでは駄目だ。俺も。トライでは怪しまれるだろうし……」
「ナティは?」
 セイがナティを見て言う。
「王の警護に、か? 王にくっついていたって何もならない。自由に動ける仕事でないと」
「違うわ。料理手伝いによ」
「前もって言っておくけど、」
 カムが口を挟んだ。
「あの王は料理人や召し使いには女しか雇わないぜ」
「俺に女装しろ、と?」
 ナティが言う。
「別に特別にしなくても十分女として通じるだろう。だがどうせ行くなら、二人とも髪形変えた方がいいぞ」
「ハーリーのしていたの?」
 セイが尋ねる。
「ハーリー?」
 カムはハーリーに会っていないのだ。
「アブソンスの従妹よ。こうやって、丸めてくぐってあるの」
 セイは自分の髪をハーリーがしていたようにまとめて見せた。
「それだよ。二人ともそうした方がいい。外国の者だと警戒される可能性もあるからな」
 ナティは何も言わなかった。諦めた様子である。
「フライディに入ったら最初の店でナティの服を買わないと」
 トライが言う。

 何日間かかけて、ユメたちはフライディに着いた。セイとナティは服を買いに行き、ユメとカムとトライは宿を探した。途中、スパアロウに会って、彼女の家に泊めて貰えることになった。
 スパアロウたちには、なぜフライディに戻って来たのか詳しいことは言わなかった。ナティの女装に付いては持って来ていたお金が少なくなったので城で働きたい、という風に説明した。
 ナティは部屋で、今買ったばかりの服に着替えた。部屋の外には皆が待っている。部屋を出たら笑われる、そう思った。が、意外にも皆の反応は、笑いではなく『感心』だった。
 ナティが着ている服は黒い厚手の物だ。それに白いレースの肩掛けを羽織っている。スカートは足のつま先まで見えなくなるような物だった。
「全然違和感がないわね」
 まず、セイが言った。
「今まで着てた服よりも似合ってる」
 トライも言う。
「誰もお前が男だなんて思わねえよ、これなら」
 カムも感心している。ただ、カムの場合は感心よりも、ナティのシュラインを思わせる風貌に驚いたのだった。
「ナティ、セイ、スパアロウが髪をまとめてくれるそうだ。早く行け」
 ユメが二人に言った。

 しばらくして、二人がスパアロウと一緒に来た。
「いいか、カムの先生の居場所が分かったらできるだけ二人で助け出す方法を考えるんだ。どうしても無理ならどちらか一人が俺に知らせに来い」
「分かったわ。行こう、ナティ」
 セイがナティをせかす。
 角を曲がったところで、二人の姿は見えなくなった。
「ちゃんと城に入れるかな」
 トライが言う。
「大丈夫さ。雇って貰える。言ったろ? 王は女しか雇わない。二人とも美人だがら、大丈夫」
 カムが言う。
「さっき言った噂、本当なの?」
「噂だからな、分からん。だがナティも一緒だから」
 カムが外を見て言う。二人が出掛けた方角だ。師匠を助けるためには今のところ、これが一番良い方法だろう。だが二人を送り出してから考えると、たとえ噂といえど、心配になる。
 ナティが男だとばれるのも大変だが、セイは……。

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