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最後の戦士達

 

 カムとライトは一時話していたが、ライトが思い出したように言った。
「神子がカムを呼んでいたぞ」
 この言葉はカムの予想していたものだった。自分はシュラインから呼ばれるか、逆にシュラインがこっちに来るか。
「そうか、分かった。で、どこに行けばいいんだ?」
「説明しても分かりにくいだろうから、俺が案内するよ」
 ライトは先に部屋を出て、カムをせかした。
 部屋に行く前に通った庭園の前を最初は通っていたが、途中で別の道へ入り、宮の裏側を山の方へと進んだ。一時行くと山は開け、海が見えて来た。そして、山の木々の代わりに庭園の花々に囲まれる。
「ここに居るとおっしゃったんだけどな」
 ライトが辺りを見回す。
「ライト、カム、こっちです」
 声がする。二人は声の方へ向かった。
 二人の姿を見つけたシュラインは、薔薇[ばら]の門の下で二人が来るのを待っている。豊かに波打った金髪が風になびく。濃い赤と緑の中で、シュラインの白い肌は良く映える。
 カムは、妖精を見たような気分になった。いや、天使を見た、と言っても過言ではないだろう。本当に、翼を持って、天へと飛んで行きそうだ。神子として相応しい容姿を、シュラインは持っていた。
「ライト、お前は宮に戻りなさい」
 シュラインが言うと、ライトは軽く会釈して従った。ライトが見えなくなるまで、シュラインはその後ろ姿を見送った。
「カム、」
 シュラインはカムを見ると言った。
「私、あなたが来るのを待っていたのよ。一年も。もう来ないのかと思ったわ。約束も忘れてしまってるんじゃないかって、心配してたの」
 シュラインが、カムの手を取って自分の頬に触らせる。
「約束……」
 カムは呟いた。
 確かに、一年前、そんな約束をした。だが俺はナティが双子の妹の話をするまで、忘れていたのだ。
「え? 今何て言ったの? まさか本当に約束のことを忘れてしまったんじゃないでしょうね」
 シュラインがカムの呟きに気づいて尋ねる。
 カムは答えずに、代わりにシュラインを強く抱き締めた。シュラインはそれを『違う。忘れてなんかいない』という返事だと考えた。

 夜、ユメたちは宮の一角に集まった。朝と夜の食事は皆で取るべきだ、とシュラインが決めたのだ。別にそれによって支障が出る訳でもなかったし、反対する者はなかった。ただし、ローリーやスウィートといった教える側の者は別だ。
「シュライン、母さんの具合はどうだ?」
 シュラインが席に着くと、ナティが聞いた。
「看病して下さっている人が言うには、そんなに悪くないそうです」
「そうか」
 そんなに悪くない、ということは良い訳ではなさそうだ。
 ナティは思った。
 食事は既に用意されている。スープと焼いた魚だ。決して豪華とは言えないその食事は、いかにも、神に仕える者の住む宮、という感じだった。
 六人は丸い大きな机を囲んで座っている。シュラインの両隣はユメとセイだ。丁度、シュラインの正面にカムが居る。
「ここは静かでいい所ね」
 セイがシュラインに話掛ける。
「そうですか?」
 そんなにいい所じゃないわよ。
 シュラインは微笑みの中でそう思った。ここはシュラインにとって、いい所ではなかった。神子としてこの島に縛られ、島から出ることさえできない。
 カムは気が気ではなかった。セイとシュラインが話していると、いつかは自分のことが分かるかもしれない。つまり、悪く言えば、二股を掛けていることが二人に知れてしまうかもしれないことを、カムは心配していた。
「カム?」
 席を立つカムにシュラインが言う。
「気分が良くない。部屋で休む」
 食事もろくにせずに、カムは早々と自分の部屋に戻った。
「どうしたのかしら。今朝はそんなに悪そうでもなかったのに……」
 セイが心配そうに呟く。
 ナティには、なぜカムが早めに食事を切り上げたのか、何となくだが分かっていた。以前、宿でナティがシュラインのことをカムに話した時の事が思い出される。あの時カムは、ナティを見て驚いたような顔をし、それから暫く考え事をしていた。
 ナティは決して、人の弱みを握ってそれで脅しをかけたり、喜んだりするたちではない。だが自分の妹と友人に二股を掛けているのだ。このままでは、カムが二人ともに嫌われる可能性が高いだろう。
 カムの奴、自分を追い込まなきゃいいんだが。
 ナティは一人、思った。

 食事が終わると、セイとトライはカムの見舞いだと言って、カムの部屋に行った。もしかしたら寝ているかもしれないと思ったが、部屋の明かりは点いていた。
 扉を叩くとカムは出て来た。
「トライ、セイ、どうしたんだ今頃」
「お見舞い、って嘘だけど。みんなにはそう言って来たんだ」
 トライが言う。
 セイがそんなこと言わなくても良かったのに、とトライの腕を引いて言った。
「頼みがあるの」
「何? どんな頼み?」
 内心、何を言われるのか心配しているが、表には出さないようにしている。
「魔法を教えて欲しいの。気術はこれから教えて貰って、もっと使えるようになると思うけど、魔法は誰も教えてくれないもの」
 カムはセイの頼みを聞いて安心した。
「いいさ。そうだな、明日、セイの訓練が終わってからここに来いよ」
「有り難う!」
 セイはそう言うと、トライと一緒に廊下を歩いて行った。
 カムは二人の姿が見えなくなると、扉を閉じて寝台に横になった。

「ユメ」
 ユメの部屋に、扉も叩かずに入って来た者がある。特に何もすることがなくて外の風景を眺めていたユメは、扉が開けられた事にも気づかず、声を掛けられてからやっとその者を見た。
「ああ、何だ、ローリーか。入るときには扉を開ける前に声を掛けて欲しいものだな」
 今ユメは床に腰を下ろしているから、ローリーを見上げている。
「あなたこそ、鍵は一応掛けておいて下さい。盗難の心配はまずありませんが、」
 ローリーはそれから先を言おうか、迷った。
「何だ?」
 ユメが口を閉じてしまったローリーに尋ねる。
「いや、それはいいとして、居ないのかと思ったんですよ。ですから……」
 扉を叩いたりしなかったんです。用事を何かに書いておこうと思って。
「ああ、そうか。今度からは鍵を掛けるようにしておく」
 普通なら、『居ないと思っているなら入らないべきだ』と反論されそうなものである。しかしユメはそういった、常識みたいなものに関心がなかった。
「何の用だ」
 続けて、ユメがローリーに尋ねる。
 ローリーは思い出したように言った。
「明日からの稽古の時間を知らせに来たんです。具体的にどんなことをするかはその時に言います。ですから、明日、朝食が終わったら今日案内した所に行って下さい。わたしも朝食が終わり次第行きますから」
 ローリーはユメに軽く礼をして、部屋から出て行った。
 剣技を習うのは、ユメにとって初めてということになる。剣など一度も使ったことがないのだから、一から習わなければならないだろう。だがそれ自体は悪い事ではない。ユメの心配は、それをすることによって今まで自分が身につけた技が無駄になるのではないか、という事だった。
 翌日から皆は、朝食が終わると、夕食までの間それぞれに稽古をするようになった。

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