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最後の戦士達

 その生き物は一歩人間の三分の一程の歩幅で必死に廊下を駆け回って、丁度目の前で開いた扉へ向かって全力で走り込んだ。が、扉が勝手に開く訳がなく、勿論[もちろん]扉の向こう側には人間が立っていた。
「何だ、お前?」
 ユメは足元で立ち往生している生き物を拾い上げた。爬虫[ハチュウ]類のような、鳥類のような、変な生き物である。
 ユメは稽古に行こうとしていたところだったので、その生き物を連れてそのまま行くことにした。なぜかと言うと、その生き物はなぜかユメに懐いてしまったのだ。
 もう先に居たらしいローリーがユメを見て立ち上がった。
「ローリー、こんな奴が付いて来てしまったんだ」
 ユメは言い訳のように、ローリーにその生き物を渡した。
「付いて来たんじゃなくて、連れて来たんでしょう?」
 ローリーはそう言って生き物を眺めた。
「これはハビコルという種類の動物ですよ。どこから来たんでしょうね。確かスウィートが飼っていた……。……?」
「どうした?」
「昨日、わたしが来るのが遅れたでしょう? あれはプラスパーが居なくなったと言って、スウィートがライトを疑ったからなんです」
「プラスパー?」
「スウィートの飼っているハビコルの名前です。こいつがプラスパーかもしれません」
 ローリーはそう言うと、ユメにハビコルを返した。
「ユメ、スウィートに渡して下さい」
「どうしてお前がしないんだ」
「わたしが盗ったと思われるのは御免ですから。ユメならそう思われはしません」
 そんな話をしていると、カムが来た。カムはハビコルを見ると、後ろへ向かって大声で言った。
「ライト、来いよ。居たぞ!」
 ライトが一時して走って来る。
「プラスパー、お前のせいで俺はお前の主人に嫌程疑われたんだぞ」
 ライトがそう言ってプラスパーをユメから受け取ろうとすると、プラスパーはライトの指を噛んだ。歯がないから大して痛くないだろうが、ライトは痛そうに顔をしかめる。
「全く、お前は御主人様にそっくりだ」
「わたしがいつあなたに噛み付いたって言うの。ライト?」
 その声に、ユメの腕の中に居たプラスパーが飛び出す。そしてスウィートの足元まで走った。
「スウィート。どうしてここに?」
 ローリーが尋ねる。
「近くを歩いていたら、ライトが騒いでいるのが聞こえたのよ。やっぱりライトがプラスパーを隠していたのね!」
「違う。俺は知らない。なぁ、カム。説明しろよ」
 カムに責任をなすり付けるように言う。
 カムは、プラスパーが部屋にあった壷から出て来たことを話した。召喚魔法なんてものが実在しないことを思い知って。
「つまり、俺が移動させた壷の中にプラスパーが予め入ってたんだ」
「ほら、結局あなたの仕業じゃない!」
 スウィートがライトを叱る。
「悪かったよ。でも偶然だろ? プラスパーが入ってたのは……」
 まだ何か言おうとしたが、先にスウィートとプラスパーは歩き始めた。
「どこ行くんだ?」
「どこって、セイの練習よ。当たり前じゃない。ライトもカムの練習しなきゃ」
 スウィートはそう言って、振り切るようにライトから離れた。
 ライトが悔しそうに、カムの方を向き、そして言う。
「行こうぜ、カム」

「わぁ、可愛い。スウィート、これは何なの?」
 セイがプラスパーを見て言う。
「ハビコルといって、百数十年前に品種改良でできた動物です。見たことがないのですか?」
「ええ」
「品種改良と言っても、特別良くなった訳じゃないし、それにこの動物、雌の割合が低いの。だからあまり出回らなかったのね。……でも他の動物より、少しだけ頭がいいの。それに、わたしたちの環境に適応できるし」
 スウィートが遠くを、エクシビシュンのある方を見ながら言う。
 人間が造っていった環境に、他の動物たちは付いていけずに種を絶やして行った。そして人間は、今度は自分たちの環境に合うように、生き物を変え始めたわ。他の生き物が生きて行けない世界に、どうしてわたしたちは生きられるのかしら。いつか自分自身を品種改良しなければならなくなるんじゃないかしら。それともずっと昔に、品種改良されたのかしら。
「スウィート、」
 呼ばれて、声の方を向く。セイはプラスパーが気に入ったようだ。
「このハビコル、何ていう名前なの?」
「プラスパーよ」
 セイはプラスパーを可愛いと言ったが、果たして可愛いとは、どんなものを言うのか、
スウィートには分からない。毛むくじゃらで、目が大きくて、肌が鱗のようになっているものを可愛いというのか。ただ、可愛いというのが褒め言葉であることは分かった。
 気に入って貰えて良かった。
 スウィートには、プラスパーを可愛いと言える自信はなかった。しかし、セイが言うから可愛いのだろう。
 そこにシュラインが通りかかった。シュラインは、セイの腕に抱かれたプラスパーを見て、スウィートに話しかけた。
「見つかったのね。それで一体誰が……?」
「やっぱりライトでした。花瓶の中にこの子が入っていて、それごとライトの部屋に飛ばされたらしいんです。騒がせてすいませんでした」
「いいのよ」
 シュラインはそう言うと、セイの方を見た。
「それよりスウィート、セイを少し借りたいのだけれど」
 スウィートが頷く。
 シュラインはセイを連れて泉まで行った。
「あなたと話してみたいって思ってたの。友達に、なりたいって」
 シュラインが言う。
「そうですか」
 セイは、なぜシュラインがそんなことを言うのか分からなかった。
「いいわよ、別に敬語でなくたって」
 シュラインが微笑む。
 そんなシュラインはずるいくらいに奇麗だった。自分と違って、大人っぽい余裕を持っている。セイは昨日のことを思い出した。カムはシュラインを薔薇の花に例えていた。
「ナティには言わないでね」
「え?」
 突然現実に戻される。
「聞こえなかった? ならいいんだけど」
 何を言ったんだろう。ナティにいって欲しくないこと。カムのこと? それは違うわ。
 分からなかった。けれど、それだけは違うと信じたかった。

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