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最後の戦士達

「どうした、セイ?」
 部屋に来たセイにユメが言う。
 セイがユメの部屋に来たのは初めてだった。トライもセイに付いて来ている。ユメに用があるのはセイだけのようだった。自分一人では心細いからと、トライにも来て貰ったのだろう。
 セイが廊下を見渡してから言う。
「ナティも、やっぱり一緒に行くの?」
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
 逆にユメに聞かれる。
 トライがセイを助けるように言った。
「先に質問したのはセイだよ」
 セイもそれに頷く。
「ナティも一緒に行く。それが、どうした?」
「わたし、怖いわ。あの人。何にもしていないローリーを殺してしまったわ」
 『あの人』、なんと突き放した言い方だろう。セイにとって、行動を共にした五カ月余りの時間は、まだ短すぎたのだ。
「ローリーが何もしていないかどうかはわからないだろう? ローリーがナティを挑発したのかもしれないじゃないか」
「『しれない』? 分からないの? どうして?」
 質問されるばかりだ。
「聞いたが、教えてくれなかった。知らない方がいい、と言って」
「……そんなの、逃げに決まってるじゃない! そんなこと言う方がずっと怪しいわ。……どうしてユメはナティの肩を持つの? あの人はローリーを殺したのよ? わたし怖いもの、あの人と一緒に居るなんて」
「セイ、ちょっと……」
 言い過ぎだよ?
 トライは言いかけたが、言うことはできなかった。そんなことを言っても仕方ないことが、分かっていたから。
「ナティが自分からローリーを殺すような理由は無いはずた。それに挑発されたとしても、すぐにそれに乗るような性質ではない。多分、ナティがローリーを殺しても構わないと思えるような状況に立たされたのだろう」
 ユメが言う。
「そんな……! どんな理由があろうと、人を殺すなんて、罪よ!」
 セイが叫んだ。
 叫んで、口をつぐむ。今自分が言ったことは、ユメにも当てはまる事だ。
「そうか」
 ユメが唇の端を上げる。
「それならお前は、俺も恐ろしいと思うか。賢明な考えかもしれないな。ナティを仲間から外すのなら、俺も外れなくてはならない」
 違うわ。別にユメのことを言った訳じゃない。
 セイは思うが、それは虚しいことだった。いくら否定しても、取り消しはできないのだ。
 言葉を失ったように黙ってしまったセイに、ユメはさっきとは違うように微笑み掛けた。
「セイ、まだ覚えているよな。そんなに前の事じゃない。カムが、エクシビシュンの王に人質を取られて、俺を殺そうとして失敗した後だ。お前はずっと泣いていたし、俺は随分腹を立てていた。あの時俺は、カムを殺しかねない状況に居たんだ。本心を言えば、殺すつもりだった。あの中で、俺たちが皆、普通でない心を持っていた中で、ナティだけが、その場で的確な処置をしてくれたんだ。トライ、比較的お前は落ち着いていたが、したことは、ナティに指示されてのことだろう?」
 トライが頷く。
「俺は驚いたんだ。あいつの精神の強さにな。あいつがしっかりしていたお陰で、俺も少しは落ち着くことができたんだ。……俺の言いたいことが、分かるか?」
 そう言ってユメはセイを見た。
 セイが首を横に振る。
「あいつは、少しぐらいの理由で人を殺すほど、弱くないってことだ」
 小さな理由や原因が元で他の生き物を殺すのは、その人間が弱い証拠だと、ユメとセイの父親は、そんな悲しむべき事件が起きるたびに言っていた。
「分かったわ。そうね。確かに、ユメの言うことも分かるわ」
 セイは納得させられた気分になった。本当に納得したのかは分からない。まだ引っ掛かることが、セイの心には残っていた。
「トライは何か言いたい事はないのか?」
 ユメがセイの傍らに立つトライに言う。
「わたしは別に。セイ、もういいよね」
 トライがセイを引っ張るように、部屋から連れ出した。

「やっぱりわたし、納得いかない」
 ユメの部屋からかなり離れた廊下で、セイはトライにきっぱりとこう言った。
 トライが歩みを止める。
「どうしたのさ?」
「さっきはユメに上手く言いくるめられたけど、でも、考えれば考えるほど、ナティは連れて行かない方がいいんじゃないか、って思えるの」
 セイは、ナティも一緒に行くというのがまるでユメの我が儘であるかのように言う。
「それから、関係ないことかもしれないけど、トライ、ユメって変わったと思わない?」
「さあ……?」
 セイがなぜそんなことを思うのか分からなくて、トライは曖昧に答える。
「大体、ナティなんて、戦力にならないじゃない。何でそんな人を仲間にしたのかさえ、不思議だわ」
「頭がいいからだって、確かカムが最初に言ったよね」
 セイの話の途切れにトライが言う。
「そうよ。でも、こんなことになってまで、彼を仲間だと認められる? さっきユメも言ったけど、カムの時はユメ、あんなに怒ってたのよ。それなのにどうして今回は……」
「それは、あの時は殺されそうになったのがユメ本人だったからじゃないの? それにあの時だって、カムを仲間から外すなんて言わなかったよ?」
 トライがセイを諭すように言う。
「カムは戦力になるから! だからよ。でもナティは――」
「いい加減にしてよ!」
 セイの言葉を遮って、トライがきつく言い放った。
「セイがそんなに言うと、わたしまでナティが嫌になりそうだ。それに、ローリーが死んで一番悲しいのは、セイじゃなくてユメのはずでしょ?」
「それは、そうだけど。でも、わたしが言いたいのはそんな事じゃなくて、わたしはユメに幸せになって欲しいって、思ってただけよ。それをナティが台なしにしたの」
「ローリーと?」
 トライが尋ねる。
 セイは頷く。
「そう。よくは分からないけど、多分、ユメはローリーを好きだったと思うの」
「多分、でしょ? ……ねぇ、もうこんなこと考えるのよそうよ。ユメの考えは、わたしたちには分からないんだから」
 推測はできても、本当のユメの気持ちまでは分かる訳がないのだ。
 いつもユメの行動には無駄がなく、周りは全て敵であるかのように、その神経は研ぎ澄まされていた。闘いの時にみせる余裕。対戦相手を簡単に倒せる力。
 傍から見ればただ恐ろしいユメも、同じように闘うために育てられた二人にとっては、魅力的な人物だったのだ。
 そのユメがもし、恋をしたとしたら。自分たちに近付く代わりに、理想から遠のく。どちらも捨て難いものだ。
「ユメには変わらないでいて欲しいわ」
 セイはそう言った。自分の言うことの矛盾を知った上で。

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