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最後の戦士達

「ナティ、」
 ユメがナティに話しかける。
「ローリーは少し、俺が初めて殺した人に似ていたんだ。もし生きていたら、丁度ローリーくらいの歳のはずだ」
「え?」
 なぜそれを自分に言ったのか、ナティは分からなかった。しかし、それ以上聞き出すことはできなかった。
 ユメが話題を変えたのだ。
「さっき聞いたんだが、カムとシュラインは婚約、したのか?」
「ああ。多分この旅が終われば、と言うより『魔』を倒せば、結婚するつもりだろう」
「そうか。無事に終わればいいんだがな」
 ユメが言う。不安があるのだ。
「大丈夫だ。ユメは負けたことがないんだろう? これからも大丈夫さ」
 ナティが元気付けるようにそう言って微笑んだ。
 ユメはそのナティを少し見たが、すぐに視線をそらした。別にどこを見る訳でもない。そんなに遠くない未来が見えた気がして、視線を漂わせた。
「ナティ、じゃあ、俺は荷造りしなきゃならないから」
 不意に、ユメは我に返ったようにそう言った。いつもの自信に溢れた目で、しっかりとナティを見る。
「ああ。また、明日」
 ナティはそう言って、ユメを見送った。

「セイ、そういえば、知っていますか?」
 偶然廊下でスウィートと会ったセイは、スウィートと話していた。
「神子とカムスティンが婚約したのよ」
 スウィートは確かにそう言った。
 それでも、セイは信じられなかった。
「え? シュラインとカムが?」
 つい、聞き直す。
「そうです。やはり、祝福はできませんか?」
 スウィートが言う。
「そんなこと、ないわ」
 セイの答えにスウィートは微笑む。嘘をつけば『気』が乱れてすぐ分かるのだ。
「セイ、あなたはもっとはっきり、自分の気持ちをカムスティンに伝えるべきだったのよ? でも、もう遅くなってしまったわ」
 セイは笑った。スウィートの言うとおりではあるが、そんなこと、言うことはできても、実行はできた訳がないのだ。
「そうね。そうしたら良かったかもしれない。でも、もう過ぎてしまった事よ。わたし、もうどうだっていいの」
 セイはできるだけ元気そうに言った。
 そうよ。スウィートの言う通りだわ。もう遅いわ、今更……。
「じゃあね。スウィート」
 涙がこぼれる。セイは軽くスウィートの肩を叩くと、走って部屋に戻った。
 カムがシュラインと婚約したった事は、カムもシュラインのことが好きだったっていう事だわ。わたしの入り込む隙間は初めからなかったんだわ。
 カムが幸せなら、自分も幸せ?
 別の自分が話しかけてきた。
 幸せ? カムが幸せだったら、わたしも幸せ? それは、少し違うわ。でも、カムが望むことなら……。わたしがカムを諦めれば、それでいいのよ。それで。
 セイはきっぱりと心の中で言った。
 その結論でセイも満足した。これで明日、二人が一緒に居ても嫌な気持ちを持たずにいられるのだ。

 翌朝の朝食はいつも通り、シュラインとユメたちの六人で行われた。が、途中で早めに朝食を済ませたライトたち四人が来て、いつもより騒がしくなった。
 魔を倒すまで、もうコヒの宮には戻って来ないだろうという考えが、皆にあった。
「あ、そうそう。またプラスパーが居なくなったのよ。皆さん見ませんでした?」
 スウィートがそう言って皆を見回した後、ライトを見た。
「この期に及んで俺を疑う気か?」
 ライトが困ったように言う。
「わたしたち、見なかったわ」
 セイが言って、それに他の五人も頷く。
「プラスパーって、なまじ頭がいいものだから、すぐ逃げ出すのよね」
 スウィートが溜め息を吐いてそう言った。
 隣に居るライトが笑い出す。
「何よ?」
 スウィートがライトに向かって言う。
「逃げ出すって、それは飼い主が嫌いなんだなぁ、と思って……」
「ライトは一言多いんだよな」
 カムが言うのと、スウィートがライトの手の甲をつねるのと、同時だった。
「いてっ、お前らひどいな」
 ライトはカムとスウィートに、そしてそのことで笑っているその場に居る全員に向かって言った。
「二人とも仲が良くて結構」
 笑いの中でベナフィトが、珍しくその場を湧かせるような事を言う。
「これは仲いいって言わないんです!」
 ベナフィトにライトはそう言った。
「いや、おぬしら二人はほんに仲が良い」
 サプライがそう言って、彼特有のおかしな笑い声を上げたので、その場はまた湧いた。

「ナティ、これを」
 シュラインが石を渡す。思念伝達を使う為の物だ。
「私の力も強くはありません。しかし、一度に複数と話すより、一人と話す方が強い力を発揮できるのです。この前のように結界を張られても、相手が一人なら話せるかもしれません」
「分かった」
 ナティは石を、腰に下げた袋に入れた。
「気を付けてね」
 スウィートが言う。他の皆も声を掛けてくれた。
 ユメたちはエクシビシュン行きの船に乗った。ナティ以外の四人にとっては、久々の里帰りということにもなる。それもまた嬉しい事だった。

第四章 終 (第五章に続く)  

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