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最後の戦士達

 暫く歩いて、フライディーの町を出ようとした頃だった。セイがカムに言う。
「ねぇ、カム、ご両親に会わなくて良いの?」
「なんで」
 会わなくちゃならないんだ?
 心の中でカムは続けた。セイも同じように、その言葉の後に適当に続けただろう。
「わたし達はデイに戻ったら、おじ様とおば様に会うつもりなんだ。あ、おじ様とおば様っていうのは、セイとユメの両親だよ」
 トライが言う。
「だから、わたし達は寄り道して寄って行くんだし、カムも寄れば良いのにって思って」
 続けてセイが言った。
「良いよ。セイ達のご両親なら、会ったら何か為になることでも聞けそうだけど、俺の親は何の役にも立たないからな」
 カムが明るくそう言う。
 だが、両親に会わない本当の理由は、実の息子の面倒を見るのも嫌になって自分を呪術師の元へ預けた親への抵抗だった。カムは今年で十八歳だ。親元を離れるのには丁度良い年齢だったが、過去の事を思うと、親はなぜもっと親らしい事をしてくれなかったのかと思い、親が嫌いになる。
「ナティは良いのか? お袋さんに会わなくても。どこに住んでるんだ?」
 自分の事は棚に上げて、ナティに言う。
「行く道で通りかかるような所じゃないから、寄らなくて良いよ」
 ナティはそう答えた。

 それから何日間か歩いて、デイへ渡った。南の町シェアーを通る。人々は八ヶ月余り前とは違って、ユメ達を見ても隠れたりはしなかった。もう既に、人々の記憶から大会の事は消えかけているのだ。
 アブソンスとウォーアが居た宿の前を通り掛った時、セイが言った。
「ここでアブソンスに初めて会ったのよね。あの時蜘蛛に取り付かれたのはウォーアだったのに、姉弟揃って同じ死に方するなんて」
 独り言のように言ったその言葉に、誰も、何も言わなかった。そのまま静かな時間が過ぎ、町外れまで来た時だった。
「砂を調べれば何か分かるかもしれないなんて言ったけど、結局、役に立つような事は何も分からなかったからな。宮には沢山の本や機材があったんだ。もう少し詳しく調べていたら、体内に入った蜘蛛を何とかする方法を見つけられたかもしれないのにな」
 先を歩いていたナティが歩調を緩め、セイの側に立って言った。セイの肩に手を掛ける。
 セイは思わぬ人に肩を叩かれた事で、一瞬体を強張らせた。
「これから、何人もアブソンス達のような人が出てくると思う。それは分かっていても、対処できないんだ。すまない、セイ。本当に、俺は邪魔してるだけだよな。でもきっと、魔を倒す決定的な方法を調べるから」
 ナティはセイの耳元で囁くように言った。
 慰めてくれてるの?
 セイは思う。ユメが言った精神の強さとは。こんな状況の中でも他人を思いやる事ができる、そんなナティは確かに強いのかもしれない。
 歩くのが皆よりも速い為に、一番最後を皆について歩いていたユメは、変な気分でその二人の会話を聞いていた。

「ねぇ、こんな事言うのも何だけどさ、」
 トライが歩きながら言う。
 今五人は砂漠のど真ん中に居た。デイの砂漠を歩き始めて二日目の午後だった。
「……」
 皆が無言でトライを見る。皆疲れているのだ。体力がない訳ではない。疲れているのは気力の方だった。
「わたし達って、やっぱり道に迷ったんじゃない?」
 それは、皆が無言の内にも思っていた事だった。ただ初めに口に出したのがトライだったいうだけだ。砂漠だから道はない。頼りになるのは太陽や星の位置、それに宮から持って来た磁石だけだった。それがこの日は、曇っていたのだ。頼れるのは磁石だけという事になるのだが、常に見ている訳にも行かないのでいつの間にか迷ったらしい。本当なら、今頃はユメ達の生まれた町に着いているはずなのに、未だに砂漠に居るのだ。
「否定はしないけど、肯定はしたくないわ」
 溜息混じりにセイが言う。
『皆さん』
 皆に、シュラインの声が届く。一日に一度は必ず連絡が来る事になっているのだ。
『今どこにいますか? 予定ではそろそろ次の町に着く頃だと思いますが』
「砂漠の真ん中だ」
 ナティが言う。
『まだ、そんな所に居るんですか?』
「ああ。あまり言いたくはないが、迷ったらしい。シュラインには俺達がどこに居るのかまでは分からないのか?」
『分かるのなら、どこに居るのかなんて聞きません。……でも困ったわね』
「本当、困るわ。磁石を持ってるのはカムよ」
 セイがわざと声に出して言う。
 カムが言い分けしようと言い出した言葉は、トライによって掻き消された。
「ねえ、見て! なんだろう。分からないけど、黒い何かがあるよ」
 トライが指差す方を皆が見る。なるほど、黒い塊がある。いや、本当は黒くはないのだろうが、遠すぎて黒にしか見えないのだ。
「行ってみるか」
 カムが言う。あの塊は動かないから、動物ではない。もしかしたら、今の自分達の居場所を知る手がかりになるかもしれない。
 黒い塊に向かって一時歩くと、それが何であるかは次第に分かってきた。
「森、みたいね」
 セイが言う。
 黒く見えていたのは木々の重なり。それが近付くにつれ、緑へと変わって見えたのだ。
 森から涼しい風が吹いてくる。森の入り口近くで地図を広げて見たが、誰も知らない所だ。地図に載っていたら誰かは知っているだろう。
 近くまで来て分かったが、この森の木々はほとんどが、非常に大きく成長していて、かなり前からここに根付いていたことを示していた。
「こんな大きな森がデイに残っていたなんて……」
 ユメが呟く。
「森へ入る?」
 トライが、そのユメに尋ねた。
「ああ。あまり入らない方が良いとは思うが、明日の分で尽きるはずの食料をこの森で探せるかもしれない」
 ユメが答えると、先頭に居たカムは森の中へ入った。

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