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最後の戦士達

 4

 ユメ達と別れて北へ向かっていたセイとカムとトライは、二人と別れてすぐに毒蛇に出くわして、大騒ぎした所だった。幸い逃げたのは蛇の方で、三人共怪我などしていない。
「ねえ、あれって、道?」
 トライが前方を指す。
 今までは森の中で、セイの膝上くらいの草が生い茂っていたのだが、そこはセイが両手を広げたくらいの幅で開けている。そこも全く草が生えていない訳ではないが、蔦が地面を這っているくらいだ。
「本当。道みたい」
 言いながらセイがそこまで出る。
「あら、ここ地面が硬い」
 そう言って、蔦で見えない『地面』を蹴ってみる。
 そこまで来たトライとカムも、その硬さには気付いた。
「土じゃないんだ。ここら辺だけ石畳になってる」
 蔦を捲ったカムが言う。
 三人はそのまま、開けた『石畳』を歩いた。が一時歩くと、その道は二手に分かれていた。どちらも真北に進めるものではない。右は北北東、左は北北西に向かっている。
「どうするの?」
 セイが言う。
「二手にまた分かれる? 一人と二人になるけど」
「そうだね。どうせ日が沈むまでそんなに時間がないし、少しだけ進んで、すぐ戻れば良いよ」
 トライが言う。
「それなら、そうだな。日が沈むまで後一時間もないだろうから、三十分後にはここで会えるくらいにしておいた方が良いな」
 カムがそう言った事で、二手に別れる事は決定した。
「わたし右に行くね。セイはカムと左に行きなよ」
 トライにそう言われたが、セイはなんとなく、カムとは行きたくない気分だった。
 でも、良いわ。わたしがもしトライと行くって言ったら、カム可哀想だもの。
 セイはそう思うようにした。
「じゃあ、行こ、カム。またね、トライ」
「うん。二人とも気を付けて」
 トライがそう言って、右の道へ進んだ。
 セイも、カムの腕を引いて左の道へ入る。少し歩いただけで、トライの姿は木々に隠れて見えなくなった。
 トライと別れたのを見計らったように、一匹の獣が二人の前に立ちふさがった。
 その姿は、巨大な獣か魔物かとしか言い表せない。とにかく巨大で、恐ろしい牙を持っていた。
 その獣が二人に向かって吼える。どう考えても、獣は二人を敵と見なしていた。
「ちっ、こんな長閑な森にも化け物が居るのかよ。セイ、下がってろ」
 カムが言って、炎の魔法を使う為の呪文を唱えようとする。
「カサテ・ニザ!」
 が、カム達の前に炎は現れなかった。
「もしかしてここ、魔法使えないんじゃない?」
 セイが後ろから言う。
「冗談だろ? そんなのありかよ」
 言いながら、カムは後退した。振り向いて、セイに逃げるように目で合図する。
 セイは頷くと、来た道を走った。しかし、五歩も行かない所で、獣に大木を倒されて道が塞がれた。二人を挟んだ向こうの木を倒せる、それくらい相手は巨大なのだ。
「セイ、目潰しだ」
 その言葉に、セイが足元にあった乾いた砂を獣に投げる。
 風の助けもあって、砂は想像以上に、相手の目に入ったようだ。相手が怯んだ隙に、カムは地面に半分ほど埋まっている岩を持ち上げ、投げる。獣は敵に不意を突かれて焦ったのか、無茶苦茶に前足を振った。その丈夫そうな尖った爪が、カムを傷付ける。セイにも当たりそうになったが、カムがセイを自分を盾にして庇った。
「カム、大丈夫?」
「ああ。まだ大丈夫だ」
 服が裂けて、背から血が流れている。それでも大丈夫だなどと言えるのだろうか。
 セイは溜めた『気』を撃った。だが、それも余り効いていない。カムが続けて石を投げつける。
 そんな事を何度も繰り返すうちに、獣は諦めたように道の先に戻って行った。
「セイ、無事か?」
 完全に獣が見えなくなってから、カムはセイに言った。
「わたしは全然平気。それよりもカム」
 セイが言って、カムに駆け寄る。
「魔法ほどは効かないけど、少しくらいは回復するわ」
 そう言って、カムの背に手を翳した。『気』の力で傷を治そうというのだ。
「……これが限界ね。帰ったらナティに薬貰わなきゃ」
「ありがとう、セイ」
「それはこっちの台詞よ。そんなに怪我してるのに、どうしてわたしなんか庇うのよ」
「?」
 セイの質問にどう答えれば良いのか、カムには分からなかった。どうして庇うのか、理由などカムにも分からなかったのだ。助ける事は当然だと考えていた。しかし何故、そう考えていたのか。セイに尋ねられてその事に気付く。
「出発する前にスウィートから聞いたわ。カム、シュラインと婚約したんでしょう? もし、カムが怪我なんかしたら、シュラインが心配するわ」
 セイが横倒しにされた大木の前まで行って言う。
 シュラインとの婚約は事実だから、カムに否定する事はできない。けれど、表面的にだけでも、否定した方が良さそうだった。
「セイ、」
 言おうとしたが、やはり、カムはそんな事で嘘は吐けなかった。
「何? どうしたの、カム。シュラインと本当は婚約してない、なんて言わないわよね」
 本当は、その方が良かった。けれど、セイはそうでない方が良いかのように言った。カムには、自分が言った事を否定しないで欲しかった。
「それは、違うけど……」
「そう。なら、早くここから出る方法を考えなきゃ」
 カムの答えは、セイが願った物とは違った。もうカムに聞く事はないと、セイは思った。
「……? なんで俺がシュラインと婚約していることから、ここから出る方法に結び付くんだ?」
 カムが尋ねる。セイの言葉、動き、一つ一つが気に掛かる。
「だから、無事にシュラインの所まで帰らなきゃね、って事よ。早く魔を倒して、シュラインと幸せになって」
 セイは大木の前に立って、それを越える方法を探しているように、辺りを見回した。
「わたしは、あなた方の結婚を心から祝福するでしょう」
 セイの言葉は、結婚式の時によく言われる台詞の推量の形だった。
 なんで祝福するんだ? 俺はセイからそんな事を祝福されたくない。セイには俺の婚約を……反対して欲しかった。
「セイ、俺は、」
 カムは言葉を飲み込んだ。後ろから、セイが涙を拭う仕種が見えたからだ。
「カム、見て。あっちは通れそうよ」
 そう言って、セイが折れた大木の根元の方を指す。大木を越えるのではなく、回ったらどうかと言うのだ。セイはカムの方を見なかった。
「セイ、セイはさっき、俺とシュラインの結婚を祝福すると言ったよな?」
「ええ、言ったわ。心から、そう思うわ」
 そう言いながら、セイは自分が示した方向へ行こうとする。
「待てよ」
 カムに肩を掴まれて、引き止められる。カムの声は怒っているようだった。
「じゃあ、なんで泣いてんだよ! 祝福してくれるつもりなら、泣く必要はないだろ?」

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