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最後の戦士達

 夜が明けた。
「食糧を探すのと、この森の位置を調べるのと、どっちが大切だ?」
 ナティが皆に言う。
 食糧は残り一食分。シュラインからの連絡がない限り、じっとしているとこの森から出るだけ無駄という結果を招くことになる。
「とりあえずは食糧だな。まだシュラインが連絡をくれないと決まった訳じゃない」
 ユメが言う。
 トライもそれに頷いた。
 巨大な獣が居ることが分かったので、別々に行動するのは止めになった。何個かずつ小石を腰に下げた袋に入れる。化け物に応戦する為であり、食糧となる鳥を捕る為であった。
 森の西側はそんなに距離が無く、昨日見た限り食糧となりそうなものは無かった。北には化け物が居る。東に行く事になった。
「あ、鳥」
 そう言ってトライが指差す。派手な色の鳥が近くの木にとまっていた。トライは腰の石が入った袋に手を入れる。
「やめて。可哀想よ」
 それを、セイが大声で止めた。
 その声に驚いたのか、鳥はどこかへ飛び立ってしまった。
「どうしたのさ、セイ」
 トライが尋ねる。
「え、だって」
「お前なぁ、俺たちは食糧が無くて、今探してんだぞ。一匹予定外のも増えたしな。可哀想とか言ってる場合じゃないだろ? ……ん、もしや、こいつが食糧?」
 カムがプラスパーを見て言う。そのカムに、言葉の意味なんて全く分かってないらしいプラスパーが擦り寄る。
「それは無い」
 ユメが言った。
「それにしても、この子が他の動物より少し頭が良いなんて、絶対嘘よね」
 セイが屈み込んで、プラスパーの頭を撫でる。人間の言葉を多少理解できると聞いているが、プラスパーを見る限り、それに同意はできない。
「そうか? まあ良い。先に進もう」
 ユメが言う。
 例のごとく、ユメが一番後ろを歩いていたので、先頭のカムが進まないことにはどうしようもないのだ。先頭がカムで最後がユメ。いつの間にか習慣になっていたことだった。

 日が沈む少し前にテントに戻った。しかし、大した収穫はなく、捕ってきた物と持っていた食糧とで、少ないが二食分にし、明日の朝の分は無いという状況だった。
「もうすぐ日は沈むっていうのに、結局シュラインからの連絡は無し、か」
 ナティが言う。ランプの油もいつまで持つか分からないので、テントの外で焚き火をしている。
「やっぱり、俺のせいかな」
 カムが言う。
 女三人は、泉で水浴びをすると言ってここには居なかった。だから、ナティは聞くことにしたのだ。
「一体何をシュラインに聞かれたと言うんだ?」
 カムは言おうかどうするか迷っていたようだったが、結局言うことにしたらしい。隠しても意味のないことなのだ。
「セイに、好きだって言ったことだ」
 それは、確かにまずいな。シュラインが怒って連絡を寄越さなくなるのも分かる気はする。
 ナティは思った。しかし別な所では、好きな相手に自分の気持ちを伝えられるカムを羨ましいと思ったりもするのだ。
「それで、セイはどう言ったんだ?」
「もっと前に言ってくれれば良かった、って。俺が振られたってことになるんだろうな」
 カムはそう言って、前髪を掻き揚げた。
 セイに言わなければ良かったんだ。
 そう思う。
 こんなややこしいことになったのは俺のせいだ。シュラインが連絡をくれなくなったのも、セイを動揺させたのも。
「食糧ももう無いしな」
 カムが呟く。
 採ってきた木の実の皮を剥いていたナティが顔を上げる。
「まあな。しかし全く無い訳じゃないんだ。明日また探しに行けば良い」
「……なら、ここの位置はいつまで経っても調べられないじゃないか」
「そこまで考えなくても、少ししたらシュラインの怒りも解けるさ」
 こちらからは連絡できないのだから、いつかは心配になって、結果、向こうから連絡を寄越すことになるのだ。ただ、それが何日先のことになるかまでは分からなかった。
「お前は呑気過ぎるんだよ。そんなに余裕を持てる訳ないだろ!」
 カムが立ち上がってナティに言う。
 いつも落ち着き払って、何が起きても取り乱すことがない。からかっても反応が薄くて面白くない。
 全てを知っているような顔をして、俺より年下のくせに、すでに隠者気取りかよ。
 カムが、ナティに対してそんな気持ちを抱くのはシュラインのことも重なっているからだ。ナティは、自分を婚約と称して束縛しようとするシュラインと瓜二つだった。
「どこに行くんだ?」
 自分に背を向けて歩き始めたカムに、ナティが聞く。
「食い物を探してくる」
「もう夜になる。諦めろ」
 まさか、今頃から食糧を探しに行くとは思えなかった。他に理由があるのだろうが、それも考えて、ナティはそれとなく注意したつもりだった。だがカムには、そんなナティの忠告に耳を貸そうともしなかった。
「気に喰わねぇんだよ。お前のその偉そうな態度が一番な」
 ナティを見据えて、カムがきつく言う。
 そしてそのまま、木々の中に姿を消した。
 それと入れ違いになって、ユメ達が戻ってくる。
「カム、どうしたの?」
 セイがナティに言う。
「食糧探しに行くって」
「今頃からか?」
 ユメが言う。
「シュラインから連絡が来ない事を自分のせいだと思ってるんだ。だから」
 だから何なのか。その先はどう言えば良いのか、ナティにも検討は付かなかった。だが皆なんとなく分かったようだ。
「……わたし、探してくる」
 セイが言う。
 しかしそれをユメは止めた。
「どこに行ったかも分からないんだそ? 大丈夫。戻ってくる。だから、もう少し、カムが自分から戻ってくるのを待っていよう」
 ユメはそう言うと、焚き火の側に腰を下ろした。

 食べ物か。ナティにあんなこと言ったから、何とか取って帰らないと。大体、あんな巨大な生き物が住んでるんだ。食べ物が無い訳じゃない。だから、俺たちが今日行かなかった所に食べ物はあるんじゃないか。
 カムは歩きながら考えた。
 今日行かなかった場所。一番に思いついたのは、石畳の道の向こうだった。化け物が居るからと、近寄らなかったのだ。
 辺りは、ナティと口論した時よりも一層暗くなっていた。石畳の道が見える。昨日、誰が火を点けるかでセイと口論しているうちに、ユメ達が迎えに来た所だ。火を点ける為にカムが作った棒切れは、そのままその場にあった。
「ヂネトク」
 小さな火を点ける為に呪文を唱える。魔法で起こした火は油がなくても長い間消えないのだ。
 火が点いて、カムはまた歩き始める。
 突然、風が吹いた訳でもないのに、火が消えた。いや、魔法の火は風くらいで消えたりはしない。火が消えたのは、魔力を消す何らかの結界に入った証拠だった。
 やはり、この辺りにだけ結界が張られているのか。
 カムは思った。
 しかし、あの生物に結界を張る力があるとは思えない。
 おそらく、誰かが張っていた結界の中に、そうとは知らずあの生き物が住み始めたんだ。道があることを考えても、この森はずっと昔は人が住んでいたに違いない。今ここに人が居ないのは、あの化け物のせいか、それとも単純に食糧不足だったのかもしれない。
 森は大きいが、木々がしっかりと根を張っているせいで、農耕地には向かないように思えた。
「!」
 気配を感じて、カムは身構えた。魔法が使えないことは分かっている。逃げるか、とにかく向こうが何か仕掛けてくるようなら、結界から出なくてはならない。
 気配は巨大すぎて、どこに相手が居るかも分からない。四方に気配があるようだった。

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