index>総合目次>最後の戦士達TOP>5-7

最後の戦士達

 もういつもならば寝始めている時刻になっていたが、帰って来ないカムを待って、まだ皆起きていた。
「遅すぎる、な」
 ナティが言う。
「探しに行った方が良いよ」
 言ったのはトライだ。セイではないところに、なんとなく説得力があった。何しろセイは、さっきから数分おきに、探しに行こうと言っていたからだ。
「そうだな。これ以上は待てない」
 ユメが言う。
 セイはホッとした。四人の中で決定権があるのはユメなのだ。いつもユメは最後まで喋らないから、いつの間にか、ユメの承認が出れば行けるという妙な習慣が身についていた。
「食べ物を探しに行ったんだから、今日行った所じゃないよね」
 トライが言う。
 ナティもそれに頷いた。
「そうだ。もし自分ならどうする? 自分なら、どこに食糧があると思う?」
「魔物は避けたいが、だが巨大な動物が生きているのなら、そこには食糧があるだろうな」
 ユメが言う。
「俺も同じ考えだ」
 ナティが同意して、皆は装備を整えると、灯りを持って森の奥へ向かった。

「『気』を感じるわ。前方から二つ。わたし達が会った魔物と同じような『気』よ」
 セイが言う。
「一匹じゃなかったのか。一匹でも苦戦したと言ってたくらいだ。カム一人じゃ絶対勝てないな」
 ナティが冗談混じりに言う。
「あまり戦いたくはないな。俺達でも危ないかもしれない。何とか隠れてやり過ごそう」
 ユメがそう言って、繁みの中に入った。
 他の三人も別々に隠れる。
 が、それは無駄だったようだ。魔物は四人を見つけて攻撃してきた。ユメが剣を抜く。とにかく相手は巨大だ。ユメが両手を広げたよりも短い剣では、深く刺しても致命傷にはならないだろう。それでも、何もしないよりはましだ。
「カムの『気』だわ!」
 魔物が振り下ろした手を避けながら、セイが叫ぶ。
「俺達でこいつらの相手をする。セイはカムの所に行け!」
 ユメが一匹を切りつけておいて言う。
 セイは頷くとすぐ走り出した。
「剣じゃあまり効いてないようだ。ナティ、何かまとめて倒せるような魔法は使えないか?」
「使えないことはないが、結界があるんじゃないのか?」
 ユメの問いに、ナティは答える。
「大丈夫だ」
 ユメの答えは自信に満ちていた。
 ナティは呪文を叫んだ。
 大地を揺るがす魔法。それは、ナティにとって負担の大きい魔法だった。
「ズズメッレジプォユズ・ギ!」

「きゃっ」
 地面の揺れに、セイはバランスを崩して地に手を付く。
「地震?」
 すぐ立ち上がると、カムの『気』を感じる方へと走った。
 石畳の上に、カムが倒れているのが見える。
「カム!」
 セイは駆け寄った。
 近付くにつれ、カムの容体がはっきりと見えてくる。酷い怪我をしているが、意識はあるようだ。
 セイを見て、カムは何かを言おうと口を開く。が、声が出なかった。
「何? どうしたの」
 カムを抱き起こしながら、セイが聞く。
「逃げろ」
 カムが消えそうな声で言った。
「どうして?」
 そう聞くセイの背後に、カムを襲った魔物が忍び寄る。普段なら、セイはそれの『気』を感じ取っただろう。しかし、今はカムの傷の方に集中しているのだ。
 カムは何とかセイに生物の存在を気付かせようとしたが、何もできなかった。セイの後ろに居る生物に、視線を投げる。
 できるのはこれだけか? 他に何もできないのか?
 カムは出血が酷く、意識が朦朧としていた。
 魔物が、その手をセイに振り下ろす。
 カムは残った力でセイを自分から突き放した。魔物の爪はセイの髪を掠めた。
「まだ居たの?」
 魔物を見て、そして横目でカムを見る。まだ死んでこそいないが、目は閉じていた。
 セイが気を撃とうとする。
 それはセイの目の前で、魔物が払った手に直撃した。その反動でセイは飛ばされる。後ろにあった木に背を打ち付けて、セイは咳込んだ。
 駄目だわ。全然歯が立たないもの。ユメ、トライ、早く来て。わたし一人じゃ無理。
 頼りになるのはユメ達だったが、来る様子はなかった。
 魔物がセイへと近付く。
「二つの月が――」
 セイは子守唄を口ずさんだ。視界に二つの月が見えたからだ。いくら巨大といっても、動物には変わりない。きっと縄張りに入られて、気が立っているだけなのだ。こちらが攻撃を仕掛ける気がないと分かれば、向こうも攻撃はしてこないだろう。
「夜を優しく照らし出す
 銀色の町 あざやかに
 こども達よ 今夜は一体どこに行くのか
 灰色の土地に種を撒きに
 灰色の土地に雨を降らせに
 こども達よ 今夜はどこにも行かないで――」

「セイの声だ」
 ユメがその歌を聞いて言う。まだ魔物と戦っている最中だった。ナティの魔法は効いたが、まだ他にも魔物が居たのだ。
 ナティを庇いながらの戦いは大変だった。

 突然抵抗を止めたセイを不思議そうに、魔物は見ていた。そして最初の曲が終わる頃、魔物はセイの前から去って行った。
「……」
 何なの、一体。本当に魔物がどこかに行ってしまったわ。
 セイは何なのか良く分からずに、その場に立ち尽くした。

 魔物が抵抗する力がないナティを標的として見る。
「やめろ!」
 ユメが叫んで、ナティの前に立つ。
 自分の身を挺してナティを助けようというのだ。もし相手が人間なら、このユメのやり方に動揺したかもしれない。しかし相手はそんな感情とは無縁の化け物である。迷わずにユメを殴りつける。
「ユメ!」
 トライが叫んで、後ろから魔物の背を蹴る。魔物は振り返ると、今度はトライに噛み付こうとした。
 それをすんでの所でかわして、トライはセイの歌の意味を考えた。
 何で歌を歌ったのかな。……そう言えば、抵抗していないことを相手に示すには、子守唄が一番良いと前におば様から聞いたことがあったような。
 さっき蹴られたお返しとでも言うように、魔物はトライの腹を蹴る。
「ぐっ……」
 声を発することもできない程、強く蹴られたのだ。
 ユメは立ち上がっては居るが、剣が魔物の足元まで滑ってしまって、太刀打ちできない。
 これで終わってしまうかのように見えた。
 が、魔物はユメ達に抵抗する力がもう無いと知ると、道の方へと去って行った。

next

作品目次へ 作品紹介へ 表紙へ戻る

index>総合目次>最後の戦士達TOP>5-7