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最後の戦士達

第六章 (II)

流転

「フレイクに行くには、このまま東に行けばいいのか?」
 カムが隣を歩くナティに尋ねる。
「真東という訳じゃないが、太陽の昇る方へ歩いて行けばいいだろう」
「北東か?」
 磁石を持ったユメが言う。
 今まではカムが磁石を持っていたのだが、ヴェリアスの一件があるので、他の者が持つことになったのは当然だろう。
「いや、それより少し東だ」
 ナティが太陽を見上げて言う。
「フレイクってどんな所なの?」
 セイが言う。
「俺も行ったことがあるわけじゃないから、よく知らないんだ。カムはどうだ?」
 ナティに聞かれて、カムは首を横に振る。
 その時、プラスパーから声が聞こえてきた。
「丁度いいところですね」
「シュラインか。脅かすなよ」
「そんなこと言わないで下さいね、カム。どうしようもないのですから」
 シュラインが笑いを含んだ声で言う。
 プラスパーから人間の声がすることには、まだ慣れない。
「それで、頼んでおいたことは分かったか?」
 ナティが聞く。
「ええ。フレイクは民主主義の国で、現在は国民投票で選ばれた方が政治の実権を握っています。環境はデイとほとんど同じで、国土の大部分が砂漠。所々にある緑地に人々は住んでいます。一つ一つの町はデイやシェアーに比べて小さいけれど、緑地は十数カ所にあるそうです。デイから一番近い町はゼンという町です」
 シュラインはナティから頼まれて調べたことを報告した。
「ところで皆さん。私がキフリの神子とテレパスを使って話をすることができなくなったのは、どこかに結界が張られているからだと思うのです」
 シュラインが言う。
「ああ。キフリの神子がわざと送信を受けていないのでなければ、そんなとこだろうな」
 カムがシュラインの言葉に頷いた。
「ただ、今のようにプラスパーを通した通信なら可能かもしれません。そこで、これからは小まめに、以前のような皆さんの防具に付いている石を使った通信を行います。皆さんも、何か無いか気をつけていてください」
 シュラインからの通信はそれで終わりだった。はっきりと終わったかどうかは分からないのだが。それ以上何も言ってこないのだから、終わったのだろう。
「前から思ってたけど、もう少し通信の始まりと終わりをはっきりさせられないのかしら」
 セイが言う。
「そうだよね。シュラインって、わたしたちを驚かして楽しんでるみたい。ってそう言えば、前にシュラインが連絡くれなかったのって、どうしてだったのかな。なんだかセイたちが関係しているように思えたんだけど」
 トライがセイに言った。
 セイ自身、シュラインが一時連絡をくれなくなっていたことなど、忘れかけていた。
 そう言えば、そんなこともあったわね。よく考えればわたし、あれでシュラインと仲直りしたつもりだったけど、……本当はなにも変わってないんだわ。やっぱりカムはシュラインと婚約しているし、わたしはカムに自分の気持ちを伝えていない。
 セイは前を行くカムの後ろ姿を見た。
 ヴェリアスで自分の事を好きだと言ってくれた時、嬉しかった。が、そこでセイがどうできたと言うのだ。ああして、自分の気持ちを隠してでも、シュラインとカムが婚約している事実を認めた方が、カムを悪者にせずにすむ。
「セイ? どうしたの」
 トライがセイの肩を叩く。
「え? あ、ごめん。何の話してたっけ?」
 セイがそう言ったのでトライはセイに聞くのを諦めた。
「そういえば、エクシビシュンの王って、何て名前だったっけ?」
 話を変えてトライが言う。トライはカムに聞いたのだ。カムはエクシビシュン出身だから、知っているに違いない。
 だが、カムは知らなかった。
「さあ? 何だったっけか」
「自分の国の王の名前を忘れるなよ」
 ナティが言う。
「ナティは知ってんのか?」
「俺は全部の国王の名前を言える。エクシビシュンは、シュアル王だ。デイはカラルマギィ王。フレイクはさっきシュラインが言ったように王はいない。アージェントも同じだ。ウィケッドはレザーヴェイシュン女王だ」
「へぇ、ウィケッドって、女王なんだ。珍しいわね」
 セイが言う。
「歴史で習ったのは全部男だったけど」
「基本的には男子が王になるが、王が死んだ後、その子どもがまだ幼い場合は、王妃が女王になる。まあ子どもが大人になるまでの間だから、そんなに長い期間ではないんだろうな」
「子供は居るのか? その女王には」
 カムが聞く。ウィケッドの事はあまり知られてないので、皆興味があるようだ。
「居る。皇太子の名は『セト』」
「母親と違ってやけに短い名前ね。本当なの?」
「ああ」
 セイの問にナティは答えた。
 まだ話は続いた。

 砂漠を何日間か歩いて、フレイクの一番西の町、ゼンに着いた。
 シュラインが言っていた通り、それほど大きい町でないことが、周りの建物を見ても分かる。小さな家々、せいぜい三階建ての、が道の両側とその向こうの平野を埋めている。
 道を歩く人に、次の町までどのくらいあるか聞いて、マァスタピースに行くことにした。

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