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最後の戦士達

第七章

キフリの宮


「おい、シュライン。どうしたんだ!」
 突然途切れたシュラインの送信に、ナティが声を上げる。
 丁度、赤道の真下を通過した所だった。
「少し戻って見るか?」
 ユメが言う。もし、以前シュラインが言っていた結界があるとすれば、この辺りだった。
『皆さん、聞こえますか?』
 数歩も戻らない内にシュラインの声が聞こえた。
「ああ、聞こえる」
 カムが答える。
『ナティだけ結界の中に入ってくれませんか?」
 ナティは少しだけ先に進んだ。
『ナティ、聞こえますか?』
「何か聞こえたか?」
 結界の外に居るカムが、シュラインの言葉をナティに伝える。
 ナティは首を横に振ってそれに答えた。
「聞こえなかったそうだ」
 カムが言う。
『それではこれでどうでしょう』
 シュラインが言うと、ユメが背中に背負っている荷物から、プラスパーが顔を出した。
 そのまま、ナティの足元まで走っていく。
「聞こえますか?」
 シュラインの声が、プラスパーから聞こえた。
「ああ、聞こえてるよ」
 ナティが答えた。
 地図を見ると、アージェントの大陸がもう少し、という所だった。
「あと少しだな」
「キフリの宮のあるトルースまで、もう町はないけどね」
 カムの言葉に対して、トライが言った。
 アージェントに着いても、トルースまではまだ遠いのだ。
「この辺で休むか?」
 カムが言う。が、その言葉はプラスパーがユメのリュックから逃げたことで無駄になる。
「あっ、プラスパー!」
 逃げ出したプラスパーをユメが追う。シュラインが操っている間は大丈夫だが、プラスパー自身で行動する時は、何をしでかすか分かったものではない。
 ずっとシュラインが操っていてくれれば楽になるのだろうが、そうすると、シュラインも大変だし、プラスパーも体と精神がもたないのだそうだ。
 カムの休もうかという思いは空しく、プラスパーを追いかけるために、全員で走るはめになった。

「この辺で休もうよ」
 今度はトライが言った。やっとプラスパーを捕まえたのだ。
「そうしましょう。……でも、テント張る気力が残ってないわ」
 セイがわざとらしく、疲れた声で言う。
「分かった、分かった。俺たちで張るから、女共は休んでろよ」
 カムがそう言って、荷物を地面に置いた。
「女共は休めって、俺はやらなきやならないのか?」
 ナティが言う。
「当たり前だろ。自分を女だと思ってんなら休めよ」
 カムにそう言われて、ナティはカムを手伝い始めた。
 二人がテントを張っている間、女三人はプラスパーと……いや、プラスパーで遊んでいた。
「やだ、毛が服に一杯付いちゃった」
 セイが言う。
「冬になるからね」
 トライがそう言って、プラスパーをセイから離し、服に付いた毛を取るのを手伝った。
「わたちたちの町ではね。でもここは今からが夏よ」
「本当だ。プラスパーはどうするのかな」
 プラスパーは今度はユメにじゃれ付いていた。
「未来を見る力、か」
 ユメが呟く。
「え?」
 トライがそれを耳聡く聞き付けて言った。
「それって、ピンシャファンのこと?」
「いや、別に彼女の事を言った訳でもないんだが。……俺は未来を変える事ができたんだな、と……」
 ユメはそう言うと、夕焼けに染まった空を見上げた。
 トライはセイと顔を見合わせた。二人はピンが予言したことを知らないのだ。
「よし、もう疲れも取れたし、テント張りを手伝うぞ」
 ユメが立ち上がって言う。
「えーっ、もう? ユメってば疲れ取れるの早過ぎるのよ」
 セイは愚痴を言いながらも立ち上がった。
 トライも砂をはたいて立ち上がったところだった。
 テントが出来上がると、もう日は沈んでしまっていた。風が強くて、一、二度吹き飛ばされてしまったからだ。
「さっさと荷物入れろよ。また飛ばされない内にな」
 カムが冗談混じりに言う。
 風が強かったので、狭かったがテントの中で食事をした。食事が砂まみれになるよりはまし、ということだ。
 明かりを点けるともったいないので、早くから明かりは切ってしまった。皆が静かに眠る。
 月が傾いて、月明かりがユメの顔にかかった。風の音も手伝ってユメは目を覚ました。
 ユメは静かに起き上がるとテントから外に出た。思ったより風は吹いていなかった。
 熟睡に近く眠っていたナティの顔の上に何物かの足が乗った。鳥のような足、プラスパーだった。
「うわっ」
 突然の事に驚いて、ナティは上半身を起こした。
「何だ、プラスパーか」
 小声で呟いて、周りを見る。今ので起こしてしまったかもしれないのだ。
 しかし、誰ひとりとして起き上がりはしなかった。多分、さっきの叫びも自分で思った程大声ではなかったのだろう。
 ユメは?
 ナティはユメが居ないのに気が付いた。そして、テントを出る。
 テントから少し離れた所にユメは座っていた。ナティに気づいて、クスクス笑う。
「どうしたんだ、ナティ。プラスパーに何かされたのか?」
 ユメがナティに聞く。寝ている者には聞こえなくても、ユメには聞こえていたのだ。
「たいしたことじゃない」
 ナティは答えた。
「眠れないのか?」
「別に眠たいとも思わないからな。ナティは?」
「いや、特別に……」
 ナティはユメが普段よりも優しそうなのに驚いていた。さっきは笑われたが、今でもユメは笑顔だ。
「なあ、ナティ、もし俺に未来予知ができたとしたら、どうだ?」
 ユメが言う。
 未来予知だと? 力が戻ったのか?
 ナティは思った。
「そうだな。考えたことも、なかった」
 適当な答えを返した。
 それを聞いて、ユメは目を細めて微笑んだ。不思議な感じのする微笑みだった。
「ナティ、お前は頭が良いから既に知っているかもしれない。ルーティーンの予言のことを」
 そう言って、ユメはナティへと近づいた。
 ユメが立ったので、ナティもつられて立ち上がる。
「ルーティーンの予言は、彼の言葉ではなかった。『魔』の降臨も、世界の破滅も、全て俺が幼い頃に予知夢として見たものだった。未来を見るのは怖い。死まで見ることになるからだ。でも、今の俺には力を押さえることができないんだ。昼間プラスパーに触れたとき、あいつが死ぬのが見えた。少し先のことが分かるんじゃないんだ。最期まで分かってしまう」
「だが未来は変わる。今見たことが全てじゃないんだ。それを証明したのはユメだろ?」
 ナティが言う。
「見えたんだろう? あの時、こうやって……ユメを放さなかった時」
 ナティはあの時を再現するように、ユメを抱き寄せた。しかし、今度はすぐに放した。
「予言は変わらないか?」
「ああ。同じだ。すまない、ナティ」
「ユメが謝ることはない」
 ナティはそう言って、もう一度砂の上に座った。そして、ユメに向かって言う。
「もう一度、ユメのその力を封印する。四年前にユメの記憶を消そうとしたのは、俺だからな」
「何だって……?」
 ユメが驚愕の目をナティに向ける。
「ユメが、俺の髪が短い頃を知っていると言ったとき、俺は内心焦った。四年前の記憶が戻ったんじゃないか、とね。まあ、今思い出してしまったんだから同じだが、それでも俺のことは思い出さなかったようだな」
 ナティが言う。
「四年前の大会のとき、俺はユメの父親、いや、義理の父親ルーティーンに頼まれたたんだ。ユメの未来予知に関する記憶を消してくれと。その時ルーティーンは名を名乗らなかった。そして、ユメの名前も教えてくれなかった。ルーティーンは俺に、ユメがその時つけていた首飾り[ペンダント]をくれると言った。それで、俺はユメの記憶を消すことを引き受けた」
「ペンダント? 俺がいつも持っていたやつか? あれは俺の――」
 言いかけたところで、ナティが自分の首の後ろに手をやった。
 そして、自分の首から外したペンダントをユメに見せる。
「これだろ? お前が唯一、両親から貰ったものだ」
「いつの間にかなくなっていたんだ」
 そう言って、ペンダントを取ろうとする。
 しかし、ナティはペンダントを握ってユメには渡さなかった。
「貰ったんだ。まだ返せない」
 ナティはペンダントを首にもう一度かけた。
 ユメははっきりと覚えている訳ではない。しかし、ナティにそれをあげると言ったような気もした。
「ユメ、ユメにとってその力、未来予知の力は要らない力だろ?」
 ナティの問いに、ユメは頷く。
「ああ、そうだ。死まで見る必要はない。四年前にも、俺から父に言ったんだ」
「四年前の俺は、まだ記憶を消すことしかできなかった。だが今なら、記憶は消さずに力だけ封印することができる」
 ナティは言った。
「できるのか? 今」
「ああ。だから、座って、目を閉じて」
 ユメはナティの言うとおり座った。
「ひとつ、聞いていいか?」
 ナティが尋ねる。
「何だ」
「この世界の未来は、昔と変わらなかったか」
 目を閉じたままのユメの表情が、少し歪む。
「わからない。何も見えなかった」
「そうか」
 ナティの手が、ユメの顔を包み込むようにかぶさる。
「今からお前の力を封印する。お前は力をなくすことだけを強く考えるんだ。目は開けるなよ。意識が飛ばされるかもしれないからな」
 ナティはそう言うと、自分も目を閉じて呪文のようなものを唱え始めた。
 ナティの指が触れている部分が、まるで皮膚を破って通したかのように痛んだ。しかし、それは一時で、すぐに苦痛はなくなった。それから後は、何が起こったのか、ユメには分からなかった。

 ナティはユメをテントの中に運んだ。ユメはナティの睡眠の魔法で眠っていた。眠らせたのは、その方が痛みを感じずに済むからだった。
「おやすみ、ユメ」
 ナティはユメにそう囁くと、自分も横になった。

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