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最後の戦士達

第七章

キフリの宮

 朝はすぐに来た。皆でテントを片付ける。
「あと何日くらいでキフリの宮に着けるの?」
 セイが言う。
「そうだな。あと一カ月足らずってとこだな」
 カムが言った。
「まだ一カ月も歩くの? なんだか飽きてきちゃった」
「まあな。最初の頃は巨大蟻地獄とかでてきておもしろかったけど」
 カムがそう言うのを聞いて、セイは顔をしかめる。
「冗談じゃないわ。あんなのにもう二度と会いたくない。もしかしたらあの時皆死んでいたかもしれないのよ?」
「悪かったよ。でも次にあれと同じ奴が来たときには俺に任せろ。セイのちゃちい魔法よりいいやつ使えるようになったからな」
 カムが笑って言う。
「うそぉ! ……でも、結界張られてたらどうするのよ? 魔法なんて役立たずじゃない」
 テントを片付け終わったので、自分の荷を整理しながらセイが言う。
 カムは視線を宙に漂わせた。が、すぐにセイに向き直る。
「セイ一人ぐらいなら守れる。それだけの力は付けてきたつもりだが?」
 カムにそう言われて、セイは顔を赤くした。そう言った時のカムが、とても頼もしく見えたのだ。もし、シュラインの『力』が使える場所なら、カムはこんなことは言わなかっただろう。
 シュラインが会話する時に使うプラスパーは、まだ眠っている。プラスパーが眠っている間に、勝手にシュラインが操るということはできないのだそうだ。
「でも、もし『魔』が巣食ったのがわたしだったら、どうするの?」
 セイがカムを見つめる。
「もしわたしが、『魔』に操られていたら」
 みんなは、わたしを殺すしかない。だから、
「その時は躊躇わずに、わたしを殺して」
「まさか。そんなことは起こらない」
 カムが言う。荷物を背負うと、セイに背を向けた。
「セイ、早く荷物片付けなよ。いつまで二人で話すつもり?」
 トライが少し離れた所からセイに声を掛ける。
 見ると、セイ以外の他の皆は既にいつでも出発できる状態にいた。

 歩き始めて少しした時だ。
「おい、カム。カムスティンだろ。久しぶりじゃないか」
 後ろから来る、馬に乗った隊商の男の内一人が、五人の前に回ってカムに声を掛けた。
 男は体をすっぽりと広い布でくるんで、顔も目の辺りしか見えないので誰か分からなかった。
 男はカムが何も言わないので不思議そうにしていたが、やっと、自分の顔が隠れていることを思い出したらしく、頭に掛けた頭巾を下ろした。
「これでいいか?」
「あっ、ディナイ。ディナイじゃないか。久しぶりだな」
 カムも、やっと分かってそう言った。
「誰?」
 セイがカムに尋ねる。
「俺の昔の友人で、スワヤ=ディナイフィンだ」
 カムに紹介されて、ディナイは頭を下げた。細面で、髪の黒い人種にしては肌が白い。
「ところで何やってんだ、こんな所で。旅の途中か?」
 黒い長い髪が一房、肩の前に流れる。
「あ、まあそんなところだ。で、お前は? こんなでかい隊商引き連れて来やがって」
 カムが、ディナイの後に続く荷を乗せた馬や、馬に乗った男たちを見渡す。
 その者たちが、ディナイを置いて先に進まないことから考えても、ディナイがこの隊商の統率者らしかった。
「たいしたもんだろ? 子供の頃からこういうことするのが夢だったが、まさか統率者にまでなれるとは、自分でも思わなかったぜ。ま、それはいいとして、俺たちはこれからトルースに行くんだが、お前たちは?」
「え、ああ……」
「トルースって、キフリの宮がある町でしょう?」
 答えかけたカムを遮ってセイが言う。
「わたしたちもそこに行くところなんです」
「そういうこと」
 自分がいうはずだった台詞をセイにとられて、カムは後にそう言った。
「そうだろうと思ったぜ。空いている馬が何頭か居るんだ。一緒に行かないか?」
 ユメたちはディナイのその親切を受け入れた。
「馬で進む分、あまり休めないからな。これ、着といた方がいいぞ」
 ディナイがそう言って、皆に布を渡す。しかし、一つ足りなかった。
「足りない、か」
 ディナイは馬の背から荷を一つ下ろすと、そこから様々な模様が刺繍された肩掛けを取り出した。形は肩掛けだが、普通の物より数段大きい。
「いいのか? 商品だろ」
 カムがいう。
 が、ディナイはそんな心配はいらない、というように言った。
「後で俺がこの分の金を払えばいいんだからな。売ったのと同じことだ」
 その肩掛けをセイに渡す。
「君に一番似合いそうだから」
 そう言って、ディナイはセイに笑い掛けた。

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