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最後の戦士達

第八章

最後の闘い

 夜の街道を二つの影が走り抜ける。路地を通り、ある時は他人の家の庭先を通ってまで、二つの影は、後ろを追ってくる数人から逃れようとしていた。
「撒いたか?」
 先を走っていた影が立ち止まり、後ろの影に向かって言う。
「ああ、そのようだ」
 息を整えながら、もう一つの影が答えた。
「どうする、ナティ。もう戻れないだろう」
 先に声を出した方、つまりユメが言う。
「どこに?」
「宮にも、宿にも……。時を待って出直すしか無いようだが」
「そうだな。とにかく今は、身を隠せる場所を探そう」
 ナティがそう言って、辺りを見回す。
「どの辺だ、ここは? まあ、どこでも同じか。行こう、ユメ。まだ奴らは俺たちを探しているかもしれない」
 ユメが頷く。
 暫く歩いて、二人は廃墟になった宿らしき建物を見つけた。
「セイに感謝しないとな。あのまま全員捕まる所だった」
 ナティが言う。
 明かりを点けることができないから、月明かりが頼りだった。
「まあな。だが、結局俺たちの目指す所というのは、どこなんだ? もし宮であるというのなら、あのまま捕まってさえいれば、今頃俺たちは敵の本拠地のど真ん中に居たはずだ。むしろその方が良かったんじゃないか?」
 ユメが荷物を下ろして言う。中にはプラスパーが入っている。
「そういう訳にもいかない。ユメの言うことももっともだと思うけど、でも、事態は俺たちが行ってそれで解決するような簡単な事じゃないと思うんだ」
「だが、俺たちの敵はウィリエスフィ、……奴なんだろ。だったら、奴を倒せばそれで済むだろう。違うか?」
 ユメが言ってナティを見る。
 月明かりの下で、ナティの白い肌が、余計に白く見えた。
「彼が敵なら、ね。だが、彼が敵でなかったらどうする? 他の奴らは巧く薬を隠すだろう、そうなれば、俺たちは罪人になる。何の理由も無く、キフリの神子を殺した罪人にな。そして、本当の敵は倒せないまま、罪人として俺たちは処刑される」
 ナティには考えがあるのだ。だがそれは、ユメには分からない。
 困った顔を見せるユメに、ナティは言った。
「だから、この薬をまずウィケッドの王宮に送り付けるんだ。そのためには一度、宮を出る必要があった。宮には結界が張られていたから。……分かるだろ? だから、セイには感謝しないと」
 言い終わると、ナティは早速小瓶を箱に入れて荷造りを始めた。手紙を書き、小包と一緒にもう一度紙で包む。
「これをどうやってウィケッドまで届ける気だ?」
 ユメが尋ねる。
 ナティは見ていろとだけ言って、何かの呪文を唱え始めた。
 やがて、小包は淡い光りに包まれて、ユメの目の前から姿を消した。
「どうなったんだ?」
 聞くユメに、ナティは微笑みかけた。包みが消えたことを不思議がるより、もっと大変な状況に自分たちは居るのに、それを忘れているようなユメが小さな子どものようで、かわいらしかったのだ。
「簡単に言えば魔法だ」
「そうか。便利なものだな」
「本当は俺が直接行きたいところだが、こっちでやらなきゃならないこともあるし」
「何をだ?」
 ナティの含みのある言い方に、ユメが尋ねる。
 ナティは軽く座り直した。
「一度宮の外に出られて、本当に良かったと思ってるんだ。ユメには、本当のことを教えようと、ずっと思ってた。でも、なかなか機会が無くて。でも今なら、もう、最後だし」
 ナティは言ってから、ペンダントを首から外した。
「話の前に、ユメに返すよ」
「これは……」
 自分の持ち物であった物を返されることで、ユメは驚いているようだった。ユメには、なぜそのペンダントを、ナティが持っているのか分からなかったのだ。
「ユメの、両親の物だったんだろ?」
 良く分からないまま、ユメは差し出されたペンダントを受け取った。

「この世を救い、キフリを滅ぼすとされる人間は、色々な伝説によると、正しき血を引き継ぎし、純粋なる心と体を持ちし者。……どうやら、みんなはそれが、生命の星の住人の子孫だと考えているらしい。だが、本当はそれではおかしいんだ。正しい血を引き継ぐ者が、何故他星の人とこの星の人との混血を指すのか、ということになる。普通、正しいと言うと純血を指すものではないのか? つまり、今この惑星に多く居る『生命の星』の人類の混血では無く、純粋な、この惑星だけの血を引く人類が、伝説に謳われている人物なんだ」
 ナティが言った。
「『この惑星に多く居る』だと? 生命の星の人類の子孫が、か? 少ないと聞いているぞ」
「つまらない噂にすぎない」
 ユメの問いに、ナティは簡単に答えた。
「ユメが『赤い月の昇る日』に生まれていたとはな。すまない、ユメ」
「なぜお前が謝る」
 ナティはユメに謝らなければならなかった。ナティが早くから、自分こそ伝説の勇者だと名乗っていれば、ユメが戦う必要は無かったのだから。
「本当の、伝説に謳われた者とは、この惑星の純血。今では随分少なくなった。……ウィケッドの王家が、数少ないこの惑星の純粋な住人の血を受けている」
「ちょっと待ってくれ。『正しき血を引き継ぎし者』は、生命の星の人間の子孫ではなく、ウィケッドの王家の者だった、と言うんだな?」
 ユメが確認するように言った。
 ナティが頷く。
「そうか。分かった。続けてくれ」
「ユメ、赤い月が昇るのは、そんなに珍しいことじゃないんだ。……俺も、俺が生まれたのも、赤い月が昇った日だったそうだ。それに、俺はウィケッドの王子として生まれた」
 ナティはそこで言葉を切った。
「その上、コヒの神子には、本来ならば俺がなるはずだったんだ。だが、俺は第一子であることもあって、何も言わずにシュラインが神子になった」
「ナティが、本物のコヒの神子? ウィケッドの王子……いや、女王が死んだ今、ナティが王なのか? そして、正しき血を引き継ぎし者というのは、……ナティのことだったのか?」
 ユメが上体を乗り出して、ナティに言った。その拍子に、さっきナティから返して貰って帯に挟んでおいたペンダントが、地面へ安っぽい音を立てて落ちる。
 ユメはそれを荒っぽく拾って、ナティの方へ突き出した。
「これは何のつもりだ。形見のつもりか」
 ユメの声が震える。
「ふざけるな! 俺はこんなもの返して欲しくもない。こんな物より……俺は……」
 ユメはそう言ってから、黙ってしまった。
 お前が死ぬのは嫌だ。
 言葉にならなくて、他に代わる台詞もなくて、何を言えばいいのか、分からなくなった。
 ユメはうつむいて、力無く手を両側に下ろした。
「ユメ、もう他に方法は無いんだ。俺が自分の運命を受け入れることでこの世界が救われるのなら、俺は喜んで運命を受け入れるべきだと思う」
 ナティが静かに言う。
 一時の沈黙が辺りを包んだ。
「本当に、方法はそれしか無いのだろうか」
 ややあって、ユメが口を開いた。
「え?」
「伝説の通りにしか、事は進まないのだろうか。俺たちの力で、神子や正しき血を引き継ぎし者の不思議な力を借りることなく、敵を倒すことはできないのだろうか」
 ユメが崩れかけた天井を眺めながら言った。
「全くできないとは言わない。そういうこともできるかもしれない。勿論、俺もそう簡単に自分の身を運命に委ねるつもりはない。……本心を言えば、まだ死にたくない」
 ナティが悲しそうに、空を見つめるユメを見た。
 ユメがそれに気づいて、視線をナティに戻す。
「まだ、寿命の半分も生きてないもんな。でもまさか、ナティの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。おとなしく運命を受け入れるものとばかり、思っていたから」
 ユメが微笑みを顔に浮かべて言った。
「……さっき、運命って言ったけれど、運命を決めるのは神だろう? 俺は神がいるとは思わないんだ。神子ではあるけれど、神は信じない。人間の一生は、運命とかいう一言で済ませられることじゃないと思う。神だなんだと言う前に、自分で何かしらの努力をしてみる必要があると思うんだ」
 ユメがナティの言葉に相槌を打つ。その相槌に、ナティは満足そうに微笑んだ。
 ユメと再会しなければ良かったのか。
 ナティは思った。ユメと会わなければ、自分は確実に運命を受け入れていただろう。この惑星が滅びようと救われようと、そんなことはナティにとってはどうでも良いことだ。だが、この世に何の未練もないなら、すぐにでも死ねる。
 今は、未練がある。どちらにしろ死ぬのなら、目の前の少女も道連れに、という気にすらなる。
「ナティ?」
 一時何も喋らないでいると、ユメがそう聞いた。
 闇がいけないのだ。闇の中に二人で居ると、何か変な気分になる。
 ユメも同じ気持ちなのだろうか、と思いかけて、すぐに否定した。多分、ユメはセイたちを救出することで頭が一杯だろう。
 ああ、そうか。カムたちを助けなくては……。
 今思い出したように、ナティは思った。
「ユメ、キフリの宮に戻るか?」
 ナティは言った。
「そうだな」
 ユメは答えると、それまで遊んでいたプラスパーを袋に詰め込んだ。

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