index>総合目次>最後の戦士達TOP>8-5

最後の戦士達

第八章

最後の闘い

 扉を開けると、予想はしていたが、祝たちが五人を待ち構えていた。男も女も居る。皆が皆、ユメたちを先へ行かせまいと殺気立っていた。
「今度は操られている訳でもなさそうだな」
 カムが言う。
「操られる? そんな訳ないでしょう。我々は皆、自分の意志で神子にお仕えし、神子に仇をなすお前たちのような輩を抹消するためにここに居るのです」
 前列に居た男が、カムと対峙するように言った。
「あなた方は、キフリの神子が何をしているのか知らないのですか?」
 セイが言った。
「あなたがたの神子は、この世を滅ぼそうとしているのですよ?」
「誰か、そうだと立証できるのですか? 間違いなく、我らの神子がこの世を滅ぼす、と。誰がそう言い切れるのです? 第一、この世を滅ぼすなんてたいそれたこと、神にだってできませんよ」
 男が言った。この男は、聞き手がうんざりするような話し方をする。
「悪魔にならできるかもな。八つの足を持った、地面を這う悪魔になら」
 カムが言った。
 何人かが、何か思い当たることでもあるのか、近くの人に耳打ちしたりした。その事にさっきから話している男が気づき、そちらの方を見た。仲間が口を閉じたことを確認して、また五人の方へ顔を向けた。
「あなた方の神子は、一体何をあなた方に教えたのでしょう。余計なことを我らに吹き込んで、恐怖を煽るつもりですか」
「なるほど。カムたちが捕まった時点で気づくべきだった。もうこんな邪魔な布は要らないって訳だ」
 ナティが言って、コヒの紋章を見せないようにする事も兼ねて纏っていた黒い布を投げた。投げた先は、祝たちだ。
「今の内だ」
 突然真っ黒な布を被せられて慌てる祝たちの間を、ユメたちは擦り抜けた。だが、最後を走っていたセイが、布の中から出て来た手に足を掴まれて転んだ。
「セイ!」
 セイのすぐ前を走っていたカムが、立ち止まって叫ぶ。
「カム――!」
 布の下から出て来たさっきの男が、セイの口を押さえる。
「それ以上先へは進むな。進めばどうなるか――分かっているだろうな」
「みんな、ここは俺だけで十分だ。みんなは先に進め」
 カムが、戻ってきかけた三人に向かって言う。
「でも、カム一人じゃ……」
 多勢に無勢だ。トライはそう思って言おうとする。
 だが、その前にカムが言った。
「二人だ。セイと俺のな。だから大丈夫だ。早く行け!」
 その声に追われるようにして、三人は先に走った。
「レイルウフキ」
 小声で、カムは自分に魔法をかけた。防御力を高める魔法だ。セイが敵の中に居る以上、迂闊[うかつ]に手出しはできないのだ。
「何をしているのです。奴らを追うのです」
 セイを捕まえた男が、やっと布から這い出たばかりの仲間に向かって言う。
「ヘルユハプ」
 カムの横を抜けようとした数人に向かって、水が大きな塊となって押し寄せる。水に押されるようにして、何人かは倒れた。そうでない者も、もうカムに向かって行こうとはしなかった。
 それを見て、男がセイに向かって何かをささやきかける。途端、セイはさっきまで足掻いていた手を止め、静かな眠りに入った。
 男はセイを近くに居る仲間に持たせると、自分はカムと対峙した。
「わたしはワビシ=ブルームレイズ。わたしはお前などに負けはしない。もしお前が生きていたなら、その時はわたしを笑い者にするがいい。無理だろうがな」
「いい度胸してるじゃねえか。俺の名はモカウ=カムスティン。帰ったらお前を笑い者にしてやるからな」
 カムは言った。
 セイが別の者の手に渡った事で、カム自身は戦い易くなった。だが、内心は穏やかでなかった。
 防具を着けているセイになぜ魔法が効いたんだ? あいつの力が大きいってことなのか?
そう思って、カムはセイを見た。セイに目を覚ます様子はない。
 そんなことを考えている内に、ブルームレイズは呪文を唱え始めていた。
 呪文が完成すると、カムの周りが炎に包まれた。
「チッ、こんな魔法で俺が倒せるかよ。キゼ!」
 カムが放った吹雪が、周りの炎を消してゆく。
 炎がすべて消えた頃には、ブルームレイズは次の魔法を完成させていた。だが、カムの方も同時に長い呪文を唱え終わった。
 二つの魔法が、ぶつかる。ぶつかった瞬間、両方の魔法は光を発した。魔法はすでに、元々何の形をしていたのか分からなかった。ただ、光がゆっくりと相手の光を包んでいく。
 セイはその様子を見ていた。セイは眠らされてなどいなかったのだ。
 あっけにとられて二人の魔法を見ている、セイを支えている男の腹に向かって、セイは突然に気砲を撃った。男は不意をつかれて無防備だったこともあって、低く呻いただけで床に倒れ込んだ。
 続けて、セイはブルームレイズには手を出さずに、その後ろに居る残りの祝たちを攻撃した。さすがに、一人で相手をするには大人数で、すぐにブルームレイズに気づかれてしまった。
「いつの間に! 何て女だ」
 ブルームレイズは言って、セイに近づこうとした。
「あんな魔法でわたしが眠ってしまえる訳ないじゃない」
 セイは『気』を右手に集中させながら言った。
 ブルームレイズの後ろに、彼の魔法をも吸収したカムの魔法が迫っているのが見えた。
 ブルームレイズはそのことにも気づかぬようで、セイの左手首にある魔具に目を付けると、セイの腕を掴んだ。
「これか! この腕輪ごときでわたしの魔法が破れると言うのか」
 ブルームレイズは、セイの手から二つの腕輪を抜き取った。
「……わたしの心配より、あなたは自分の心配をしなさいよ」
 セイはブルームレイズの背後に目を遣り、言った。
「ほら、そこまでカムの魔法が来てるわ」
 セイに言われて、ブルームレイズはそちらを振り向いた。だがその時は既に遅かったのだ。
 セイはブルームレイズの手を振り切ると、急いで彼から離れた。腕輪は取られたままだったが、取り返そうとしたら、セイまでカムの魔法の巻き添えをくうことは分かり切っていた。
 ブルームレイズに背を向けて駆け出した瞬間、セイは爆風で吹き飛ばされた。
「カムってば、後ろにわたしが居ること忘れてるんじゃないの?」
 独りごちながらセイは体を起こした。
 ちょっと先の床に、ブルームレイズが倒れていたが、こちらの方はもう起き上がりそうもなかった。
 だが、さすがに生きてはいるようで、言葉にもならぬ声で、呪詛のようなものを吐いている。
「やめろ、ブルームレイズ。お前は負けたんだ。とどめをされたくなければ、お前が今言っている汚い言葉ごとどっかへ消えてしまえ」
 カムが言ったが、それでもブルームレイズはまだぶつぶつと何か呟いていた。
 カムもセイも、そんなブルームレイズを無視してユメたちの後を追うことにした。
「みんなどこに居るのかしら。何の物音も聞こえないわ」
 セイが小声でカムに言う。
「ああ。変だな。シュラインはウィリエスフィは一階に居る、って言ったんだが」
 カムも辺りに耳を澄ましたが、何も聞こえなかった。
 さっきまではしていた人の気配も、今では全く感じないのだ。
 何かの結界に入ったか、それとももうこの棟には居ないのか。
 カムは考えた。
 廊下は真っすぐで、端から端まで見られる。二人はその廊下を東へ向かって一通り走ったのだが、その限りではどの部屋にも人の居る様子は無かった。
「セイ、どう思う?」
「多分、ここにウィリエスフィは居なかったのよ。だからみんなもここには居ないと思うわ」
 セイが耳を澄ますように、目を閉じて言う。
 『気』を探しているのだ。
「行きましょう、カム。トライの気を見つけたわ」
 セイは言って、走りだした。

next

作品目次へ 作品紹介へ 表紙へ戻る

index>総合目次>最後の戦士達TOP>8-5