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一方、ユメたちはカムが祝たちの相手をしている間、一階の部屋という部屋を見て廻っていた。
ある部屋は寝室だった。時刻は夜中なのだから、当然居るべきはずの寝台の主が、ユメたちが見た時にはすでに居なかった。
「ユメ、こっち」
トライが寝台の下に穴が開いているのを見つけて言った。
「逃げたか」
「これが外に続いているのだったらね。でも多分、この通路は外に出る為のものじゃないよ。外壁の周りを歩いた限りだと、出口になるような場所は見当たらなかったし」
寝台をトライが押してみると、簡単に横に動いて、人が一人通れるくらいの縦穴が姿を現した。
「とにかく行ってみよう」
ナティが言って、先頭に立った。
降りようとすると、三方は壁で、一方だけ通路になっている事が分かった。下を見ても床は見えない。暗さの為だ。もしウィリエスフィがここから逃げたとすれば、この穴はもうすぐで足が床に着く、ぐらいの深さであろう。
仕方ない。いくら深くても、死ぬ程のことはないだろう。
ナティはそう心に決めて、縁に掴まっていた手を離した。
穴はナティが思っていたよりも浅かった。トライなら難無く昇り降りができるくらいの深さだったのだ。それゆえに、トライはそこから続く横穴を腰を屈めて行くはめになったのだが。
ナティは両側の壁に手を当てたまま進んだ。もしかすると、別の道と繋がっているかもしれないからだ。
道は床も壁もセメントのような物で塗り込めてある。三人は一言も話さずに、その暗い道を進んだ。
少し行くと、西へ向かって進んでいた通路は、北へ向いて曲がっていた。そしてそこからは今までと違って天井が高く、トライが手を伸ばしても届かないくらいになっていた。
前方には足音も気配も感じぬまま、三人は進んだ。しかし、逆に後方に物音を聞いて立ち止まった。
音が反響し過ぎて、距離もその物の大きさも分からなかった。
「見てくるよ」
一番後ろを歩いていたトライが言って、暗闇に姿を消した。
「逃げて、ユメ、ナティ!」
次にトライから聞こえてきたのはこの声だった。声は壁にこだまし、物音はより一層二人に近付いていた。
何が起こっているのか、二人には分からなかったが、トライの言った通り、とにかく前へと走った。
やがてトライの足音が聞こえた。
振り向いた二人を驚かせたのは、トライの後ろを大岩が転がって来る事だった。
「止まっちゃ駄目だ。早く!」
振り向いた二人に向かってトライが言う。トライの真後ろにまで大岩は迫っていた。
突然、トライと二人との間に、鉄格子が音を立てて下りて来た。
「トライ!」
ユメが言って、格子をもう一度上へ上げようとする。だが地面に元々固定されていたかのように、それは動こうとしなかった。
「諦めて、ユメ。もし助かれば追いかける。だから、二人は先へ進んでよ!」
トライは格子の向こうに居る、ユメとその後ろに立つナティに言ってから、岩と向かい合った。
ユメとナティはその後、トライがどうなったかを見る間もなく、通路を走った。
トライは、と言えば、大岩の一角を破壊して、なんとかそれの下敷きになることだけは止められた。が、大岩と格子の間で身動きが取れなくなっていた。
後でセイとカムが、プラスパーと一緒に来たから助かったものの、一人ではどうしようも無かっただろう。
セイとカムが魔法で岩を砕く。敵を倒すのであれば色々方法もあるのだが、岩を砕くというのは地道な作業だった。
半分程まで削った辺りで、岩は全部崩れて落ちた。
狭い場所から抜けたトライが、格子を押し広げて通れるようにする。
「こういう仕掛けは、コヒにもあるの?」
格子を広げるトライの後ろで、セイが言う。
誰に聞いているのか、とトライが思ったら、もっと低い位置から別の声がした。
「脱出用の通路があるのは確かですが、コヒでは使用することもないので、物で塞いでしまっています」
プラスパーの体を借りたシュラインだ。
「それにしても、こんな危険な仕掛けは元からあるものではないでしょう」
人が通れるくらいに格子が広がったので、喋るプラスパーをセイが抱き上げて、走り出す。
随分と時間が掛かってしまった。
「気を付けてください。トライが言ったような大岩が転がってくるような仕掛けは知りませんが、さっきの通路を塞ぐ格子のように、進入を阻むような仕掛けはコヒにもありますから、まだ何かあるかもしれません」
シュラインが言う。
「仕掛けってことは、誰かがそれを操作しないと発動しないんだろ。セイ、気は感じるか?」
「いいえ。近くには誰も居ないわ」
カムの問いに、セイが答えた。
カムが頷く。
「だったら大丈夫だ。それが罠じゃなければな」
三人と一匹は、通路を進んだ。
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