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最後の戦士達

第十章

行方

 ユメはナティを探して、城を歩いていた。
 ナティの部屋の場所だとか、会議室の場所だとかは聞いて知っていたが、外出していたり、城に居ても部屋に戻ることが少ないらしく、ナティが王になってからは会った例がない。それでも、どうしても会いたかった。
 帰りたいようなことをセイ達に言ったことを、後悔していた。後に引けなくなったら困るのは自分なのだ。
 ナティの部屋の近くで、セラとガルイグに会った。この二人と会うのも久しぶりだ。
「あら、ユメ。お久しぶりね。どうしたんですの?」
 セラが言う。
 セラとガルイグが手を繋いでいるのに違和感を感じて、ユメの視線は自然と二人の手に向かった。
 それに気付いて、急いでセラがガルイグから手を離す。
「まずいところを見られましたわね」
 言葉とは違って、自然な笑顔のままセラが言った。ガルイグはセラの隣で困ったような顔をしている。
「セラ姫は、ナティの婚約者でしょう? なんでこんな」
 腹立たしかった。セラは王妃になる為に生まれてきたかのような人間だ。ナティに相応しいと、ユメは思う。それなのに、従者と会っているというのは、どういうつもりなのだろう。
「あら。形だけの婚約者ですわ。ナティはとても素敵な方ですから、わたしも大好きです。けれど、それとこれとはまた別の話で」
 セラが言う。
 形だけの婚約者、ユメもそう思いたかった。けれど、そうでないことは二人の様子を見れば明らかだったから、今の今まで、信じられなかった。
「あなたが、ナティの想い人なんでしょう。紹介を受けた時、すぐに分かりましたわ。ナティがあなたを見つめる目は、とても輝いていましたもの」
「セラ姫、ナティの許可を得ずに勝手なことを言うと、また叱られますよ」
 ガルイグがセラに言う。
 セラは慌てて、持っていた扇で口元を隠した。
「まだナティに会っていないのですか?」
 口を閉ざしたセラに代わって、ガルイグが言った。
 ユメは頷いた。別にナティに会いに来たと言ったわけではないが、この辺りをうろついていたから分かったのだろう。
「では急いで部屋にお戻り下さい。ナティが、ユメに用があると言っていましたから、入れ違いになったかもしれません。もしわたしがナティに会ったら、ユメは部屋で待っていると伝えることにします」
「そうなのか? わかった。すぐに戻ることにする」
 ガルイグの言葉に、ユメは驚いた。ナティから自分に会いに来るのは何日ぶりだろう。ガルイグの言い方からして、別に悪い知らせを持ってくるわけではないだろう。そう思って、自然口元が緩くなる。ただナティに会えるというだけで、これほど嬉しいことだとは思わなかった。
 自分の部屋の扉を開けると、中にナティが居た。
 まさか待っていたとは思っておらず、ユメは扉を閉じるのも忘れて、その場に立ち竦んだ。
「ユメ、よかった。どこへ行ったか分からないから、人を呼んで探させようかと思っていたところだったんだ」
 ナティの声を聞いて、ユメは我に返った。
 扉を閉じてから振り返ると、ナティが近くまで来ていた。王冠も、赤いマントも身に付けていない。公務の間は大体その格好だから、今ここに居るのは公務では無いということだった。
「一度しか言わないから、聞いて欲しい」
 なんだろう?
 ユメは思う。ナティの表情からは、それが良い知らせなのか悪い知らせなのか分からなかった。悪い知らせではないと思って来たのだが、不安になる。笑顔でもなく、怒っている顔でもない。例えば剣を習う時のような、何かに真剣に取り組んでいる時の表情だ。
「わかった。言ってくれ」
 良い知らせでも悪い知らせでも、今からナティが言うことは、大切なことだということは分かる。
「愛している。結婚して欲しい」
 ナティの声は細く、震えていた。
 ユメの返事を待って、ナティは静かに佇んでいる。
 ユメは、満面の笑みでそれに答えた。気持ちが、そのまま表情に表れて、それを隠すこともできない。ただ嬉しかった。言葉にしなければ、と思っても、その言葉が浮かんでこなかった。
 それで、ナティは逆に不安そうな顔になった。
「あの」
 慌てて、ユメは言葉を発する。
「何て言えばいいのか、分からないんだ。でも嬉しくて」
 顔に血が昇って来たのが自分でも分かって、余計に恥ずかしくなる。
「じゃあ、嬉しいって言えば良いんだ」
 答えを待っている間に口の中が乾き、ナティは掠れた声で言った。
 その口調が怒っているようにも聞こえて、ユメは急いで言いなおした。
「嬉しいよ」
 言葉を言い終わらないうちに、ナティに抱き締められる。
「愛してる」
 ナティが言って、ユメの唇に口付ける。
「ずっと言いたかった。でも言えなかった。何も約束できないから。必要なのは約束ではなくて気持ちだと分かっていても、不安を抱えたままでは何も言えなかった」
 短い口付けを何度も繰り返しながら、ユメの髪を撫でる。
「もう不安はないのか?」
 ユメは口付けの合間に聞いた。
 ナティは微笑んだ。
「あるけど。でもそれは、嬉しい不安だ」
「なんだ、それは」
 ナティが言っていることが分からず、ユメは眉を顰めた。
 何かを期待すれば、必ず不安が付きまとう。今は、期待が大きすぎてその分不安も膨んでいる。けれどそれは嬉しいことだった。
「嬉しいんだ」
 ナティが言う。
 嬉しい不安がどんな物なのか、ユメには分からない。けれど、ナティが嬉しいと感じているのなら、それで良いと思った。

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