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最後の戦士達

第十章

行方

 今日もナティの部屋にナティ以外の全員が集まっていた。そもそも王の自室というのは本来こういう会合などに使う物ではない。しかし、実際に集まってみると案外具合が良くて、そのまま習慣になってしまった。
「宇宙船をご覧になったことはありまして?」
 セラが話を振ってきた。
 ユメもセイもカムも、首を横に振る。
「デイにもあるのだそうよ。遠くの星へも行ける船。今では考えられませんけど、昔は宇宙へ旅するのが当たり前の時代があったそうよ」
 セラが瞳を輝かせながら説明している。
 それは銀色の船なのだそうだ。
 デイでは宇宙船を貴重な遺跡として扱っていて、一般人が見ることはできなかった。学校の授業などで、画像で見たことがあるだけだ。
 なぜ宇宙へ出るのを辞めたのか、諸説あって定かではない。宇宙へ長い間出ていた人間が掛かる特殊な病気があって誰も出たがらなくなったとか、単純に費用の問題だとか、戦争が起こって中断されたとか、色々言われている。
「さっき『デイにもある』と言ったが、ここにもあるのか?」
 ユメが聞いた。
 セラが頷く。
「ええ。やっぱり銀色の船で、この部屋よりもずっと大きいのです」
 両手を広げて、セラが言う。
「初耳です」
 ガルイグが言った。元々ガルイグは王都の人間ではないから、知らなくても当然だ。
「貴重な金属でできてるから、今は隠してるのよ。戦争なんかに使われたら困るもの」
 ガルイグを見て、セラが言った。
 部屋の扉が開く音がして、全員がそちらへ目を向けた。入ってきたのは部屋の主であるナティだ。
「この前、ナティが記憶体を持ってきて、それを船に入れたのですけど」
 話を続けるセラの元へ、ナティが焦った顔で走り寄ってきた。
「セラ、その話は駄目だ。あれ程秘密にと言っただろ」
「あら。そうでしたかしら」
 セラが首を傾げながら言う。こういう動作をする時は、大体わざとだ。大事な約束なら、セラは必ず守る。
「そうだわ。そのことで話があったのよ。後で私の部屋に来て頂戴」
 セラがナティに言った。
「ああ、わかった」
 ナティが頷きながら答える。
 その後はいつも通り、現在の状況についてナティが説明し、何でもない会話をして、皆それぞれの部屋に戻った。
 ナティはセラに呼ばれていたので、ユメに軽い口付けをしてから、セラの部屋に向かった。
 宇宙船のことで話があるらしい。
 自然に任せて垂らしていた髪を、首の高さでくぐる。話の内容によっては、船まで行くことになるかもしれない。
「あら、早かったのね」
 セラの部屋に入ったナティに、セラが笑いかける。
「話とは何だ」
「あの記憶体、どこで入手したの?」
 記憶体は、硝子のように透明で薄い物だ。現代の技術では作ることができないとされているが、過去は一般家庭でも情報記録に使われていたものらしい。素材の性質上傷付きやすく、まともに使える状態で保存するのは困難だ。今残っているものは宇宙船のような頑丈なものと一緒に埋没した分だけだった。
「デイの宇宙船に残っていたものを拝借してきたんだ。一応許可は貰ったぞ?」
 デイの宇宙船には同じ記憶体がたくさん残っていて、一枚くらいやると言われたのだ。
「そう言うことではなくて」
 セラが咳払いする。
「中の情報をどこから手に入れたのかと、聞いてるのよ。あれ、生命の星へ飛ぶ為の情報でしょ? そんな情報が綺麗なまま残っているとしたら、すごい発見よ」
 セラは科学にも遺跡にも興味は無かったはずだが、誰かが教えたらしい。
 セラの身の回りに居る者を思い浮かべる。ガルイグも精霊魔法にばかり傾倒していて、科学的な知識はほとんど無い。セラの後援者に、一人元科学者が居たはずだ。その男が噛んでいるのだろう。後援者の為に手を尽くすのは悪いことではない。
「残っているわけ無いだろう」
 ナティは当たり前のことを答えた。
 セラが不思議そうな顔をする。
「え、どういうこと?」
「俺が書いたんだよ。計算上は問題ないし、断片的に残っていた情報をかき集めて照らし合わせても問題なかった」
 自慢するでもなく、ナティは答えた。
 セラは暫く呆然としていたが、ゆっくりと言った。
「その技術は凄いと思うわ。けれど、それを使ってあなたはどこへ行くつもりなの?」
 その質問に、ナティは眉間に皺を寄せた。
「俺が行くつもりだったんじゃない。元々、ここに帰ってこられるとは思っていなかったくらいだ」
「じゃあ、一体誰を……まさかユメを? 祖先の生まれた星へ連れて行こうと?」
「その通りだ。約束してたんだ。戦いが終わったら生命の星に行くと」
 セラが立ち上がる。
「少し考えさせてください。あなたは、今この国にとってどうしても必要なのです。何か方法を考えます」
「いや、急がなくても良い。ユメも分かっているはずだ」
 ナティが急いで言う。
 セラは手に持った扇を強く握り締めた。
「あなたは、ユメのことしか考えられないのね」
 セラの言葉に、ナティは冷や水を浴びせられたような気分になった。
 そんなこと分かっている。それが悪いことだとは欠片も思っていない。それでも今まで何も言われなかったからそのままにしていただけで、少しは気にしていた。言われなくても、気に掛けていた。
「セラは俺を何だと思ってるんだ。理想の王か? ちゃんとウィケッドのことも考えてる。戦争も終わらせるように努めてるだろう。これ以上、俺に何を望むんだ」
 静かに言う。怒っているが、心は冷静だ。
 セラの顔が涙を堪えて赤くなる。
「そんなこと誰も言ってないわ。だから、私は何か方法を考えると言ってるんじゃないの。あなたが宇宙へ旅立てるように、あなたなしでもこの国がやっていけるように! ……もう話は終わり。出て行って。早く出て行って!」
 セラが語気を強くして叫ぶ。
 セラの気持ちが分からなかった。ナティが旅に出る前は、確かにナティに好意を持っていた。それは今でも変わらないように思う。ただ、昔のように無邪気で我侭な雰囲気ではなくなっている。
 王が居ない間、セラはひとりで父親に反発し、戦争に反対してきた。自分自身の後援者が複数居るとは言え、最初はそれすらも小さな勢力に過ぎなかったのだろう。それを国を動かせる程まで拡大させるのに、セラがどれほどの時間と労力を費やしたか。まだ成人してもいない少女が。
 セラが本当に泣きそうだったので、ナティは部屋から出た。
 ああ、そうか。
 ナティは気付く。
 不安だったのだろう。ずっと。
 扉を閉じると、中の音は何も聞こえなくなる。けれど、きっとセラは泣いている。
 ナティはどうせ自分が死ぬものだと思って、自分のこと、ユメのことしか考えていなかった。今思えば気楽なものだ。
 セラはナティが旅立った後、いつからかは分からないが、国のことを考えるようになったのだろう。おそらくそれは、王妃になるのだという明確な意思があって。
 王が頼りなくて、すまないな。
 心の中だけで、謝罪する。
 口に出すと頼りなさが増すだけだから、言うつもりはなかった。
 それに、ナティはこれからもユメのことを優先させる。それを変えるつもりも無かった。

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