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愛の淵

Illustration: 麻生朋希

愛の淵 1

 風が舞う。
 生まれたばかりの草木から、新たな葉が出て、枝が伸び、花を咲かせ、種を付け、そして落ちた種からは新しい命が生まれる。
 ここは清浄な地。
 地上でならば、長い長い年月をかけねば起こらぬことが、その日の内に、何度も繰り返される。
 単に一日が長いだけかもしれないが、ここでそれを気にするものはいない。
 同じ毎日が繰り返されていても、気にするものはいない。

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 シーラはシロツメクサを摘んで、花輪を作っていた。幼い彼女の手では、シロツメクサはうまく摘めない上に、編もうとして茎をポキリと折ってしまったりして、なかなか作業は進まなかった。
 シーラが摘んで、失敗して、花輪になれなかった落ちた花の穂は、地面へ沈み消えていく。
 そしてまた新たな花が咲く。
 シーラはもう随分長い時間、花輪を編み続けていたが、まだ腕輪にもならないくらいの長さにしかなっていない。
 それでも飽きることなく、編み続ける。
 この地の時の流れが緩やかだからか。
 それとも、この緩やかな流れに、『飽きる』ことを忘れたのか。
 柔らかな風が吹き、シーラの前に金髪の少年が降り立った。

シーラの前に、金髪の少年が降り立った 『柔らかな風が吹き、シーラの前に金髪の少年が降り立った。』

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Illustration: 麻生朋希

「こんにちは」
 言われて、シーラは声のした方に視線を向け、
「こんにちは、セピア」
 笑顔で答える。
「シーラのお姉さんは、まだ来ていないの?」
 少年は言った。
「お姉さまなら、今日はまだ来ていないわ。でももうすぐ来るんじゃないかしら」
 シーラの姉は、優しくて、綺麗で、シーラは姉のことが大好きだったし、その姉を好きなセピアも大好きだった。
 二人が幸せになれればいいと思っていた。
 まだ、この時シーラは知らなかったのだ。
 これから起こる出来事を。

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 この地は二つに分かれている。
 二つの土地は、真中の白い結界(壁)で繋がっている。
 ひとつは静の国。もうひとつは動の国。
 もう随分前から、この二つの国は小さな戦争を繰り返していた。
 この地はもともと一つだったという。
 しかし大昔、双子の神が、どちらが国を治めるかで喧嘩になり、いつまでも喧嘩をやめぬ二人に父神である大神は大層お怒りになられた。
 怒りの雷を地に落とし、離れる事のなかった二人を分けた。その時、大地も二つに割れたのだという。
 二つの地を結ぶ白い壁は、地に落ちた雷が残ったもの。今もなお残った大神の怒りである。
 その後二人の神は、それぞれの地を治めたが、大神はどこかへ姿を消し、見えなくなってしまった。
 白い壁が残るのは、まだ大神が、双子の神を許していない証拠である。
 この白い壁がなくなる時、大神の怒りは解け、地上へ降りてくる。世界は一つに戻り、また平和な時が来ると信じられていた。

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 ここは、神々の住まう地。

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