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偏愛選書【MY BEST】

いままで読んできた小説の中で何が一番面白かったかなあ、というこれ以上ないくらい趣味的なページ。好きなものをああでもないこうでもないとピックアップしているときはまさしく至福の時間である。食べ物しかり持ち物しかり。

あくまで現時点でのランキングなのでこれからもっと面白い本を読めば、当然このページも更新される。更新されないようでは困るのである。

各書名・作家名の右の出版社名は私が読んだり所有している本の版元とは限らない。できるだけ現在手に入れられるところを心がけた。それでも絶版で手に入らないものもあるかもしれない。

(2002/09/22) 

総合長編ベスト10

一作家一作。
 世間的評判、文学的評価とは無関係。私の思い入れ以外の評価基準はない。
 SFは別建てにしたので含まれていない。

1.「罪と罰」  ドストエフスキー (岩波文庫)

いままで四度読み、これからも何度も読み返すだろう永遠の一冊。

「ロジオン・ロマーノヴィッチ・ラスコリニコフは私だ」と思う若者は21世紀にもたくさんいることだろう。

レビュー1 →レビュー2

2.「ながい坂」  山本周五郎 (新潮文庫)

ほとんど再読はしないのだが、『罪と罰』と本書は別。人生の切れ目切れ目で読み返してきた。

いい本のつねとして色んな読み方ができる小説。

波瀾万丈のお家騒動時代劇であり、下級武士の少年の成長を描く教養小説であり、ときに甘くときに苦い夫婦の再生を書いた恋愛小説でもある。

3.「千日の瑠璃」  丸山健二 (文春文庫)

千章千頁の見事な文章で織り上げられた架空の町の物語。

「まほろ町」の一千日を、できれば一千日書けてゆっくりゆっくり読みたいものだ。

レビュー

4.「夢幻会社」  J・G・バラード (創元SF文庫)

最高のSF作家の最高の幻想SF。

特別扱いで総合に入れてしまう。

主人公が鳥に変身するシーンは、私の読んだ小説の中で最も美しい場面といってもいい。

5.「三つの小さな王国」  スティーヴン・ミルハウザー (白水社)

これもちょっとずる。長編ではなく中編集なのだけど特別扱いでいれてしまう。

その中でも「J・フランクリン・ペインの小さな王国」が最高。いい歳をしたおっさん(私だ)が泣いてしまいました。

レビュー

6.「百年の孤独」  ガルシア・マルケス (新潮社)

南米の架空の土地マコンドにおけるブエンディア家一族の七代の物語。神話的イメージの洪水のようなこの小説を紹介するのにすごいという以外の言葉が見つからない。

ノーベル文学賞作家でも難解だったりは全然しない。「孤独」だってしんきくさい「孤独」ではない。エネルギッシュなラテン系の「孤独」だ。

7.「狂風記」  石川淳 (集英社文庫)

時代はたしかに戦後の日本なのだが、これまた神話的イメージにあふれかえるエネルギッシュな小説。

旋風のようにうねる見事な言葉の奔流に、身をまかせて読み進んでいくときの快感ったらない。

石川淳の文体を経験しないのは童貞のまま死んじゃうくらい人生無駄だぜ、とつくづく思う。

8.「高丘親王航海記」  澁澤龍彦 (文春文庫)

一個の巨大な博物館のような澁澤龍彦コレクションから滲み出し結晶化した小説群−『うつろ舟』、『犬狼都市』、いずれも短編集なので、唯一の長編である本書を選ぶ。

著者はこの精巧な宝石細工のような幻想譚を残して世を去った。

夢幻の中を彷徨するような稀有な一冊。

9.「室町お伽草紙」  山田風太郎 (新潮文庫)

やはり戦後最大のエンターテインメント作家を外すわけにはいかない。悩みに悩んだすえ、山風、闊達自在の境地にいたった時期の、室町ものの傑作を選んだ。

若き信長・信玄・謙信が一人の美女をめぐっての争い、その破天荒な面白さは、山田風太郎以外のだれが書けようか。

例によってヒロイン以上に魅力的な悪女が登場する。

10.「海鳴り」  藤沢周平 (文春文庫)

老いを感じはじめた紙問屋の中年の主人が人生初めての不倫の恋を知る。

江戸時代を舞台にしながら、平成の私にも人生の、なんというか寂寥を教えてくれた小説。

でも、華もロマンもちゃんとあるから人生捨てたもんじゃない、という気持ちにもさせてくれる、ちょっぴり元気の出る小説。

松本清張とか谷崎潤一郎も入れたかったし、外国の作家ならカルヴィーノとかモラヴィアとか好きな人はたくさんいるのだけど、まあそのうち。

SF長編ベスト10

SFはいっときかなりいれこんだのでランキングで多数派になってしまう。他の分野とバランスをとるために別建てにしてみた。総合とはダブらないようにしたが、総合に食い込めるのは上位3冊ぐらいか。

1.「神鯨」  ジョン・パス (ハヤカワSF文庫)

シロナガス鯨のサイボーグ、海棲蝶人間、おしゃべりな三葉虫ロボット、馬のような義足マシーンに乗った上半身だけの主人公。

次々登場する濃すぎるほどのキャラクタ、変幻自在なストーリー、豊かなイメージ。

これぞSFというのに躊躇しない大傑作。

2.「虚航船団」  筒井康隆 (新潮文庫)

かつてのドタバタSFの巨匠。近年は空想と小説の構造にとことんこだわり、これぞ前衛という実験的な手法を駆使しながらエンターテインメント性を失わない天才作家の、一つの到達点に違いない一冊。

乗務員全員が文房具で、しかも狂っているというとんでもない宇宙船の執拗な描写から、物語ははじまる。

3.「終りなき戦い」  ジョー・ホールドマン (ハヤカワSF文庫)

未来の戦争テーマ。ガンダムのような戦闘服をまとった兵士が主人公だが、ハインラインの『宇宙の戦士』のような「悪い宇宙人をバリバリやっつける」能天気な小説ではない。もっと知性的でシニカルだ。

でも、十分にエンターテインメントしているし、ラストは感動的などんでん返しで泣かせてくれます。

4.「星を継ぐもの」  J・P・ホーガン (ハヤカワSF文庫)

「月面で見つかった死体」という謎の解明だけで成立している、ハードSFの神髄のような小説。

心地よき科学的精神への信頼感。

解き明かされる謎が人類の起源にまで及ぶラストは感動的でさえある。

5.「妖星伝」  半村良 (講談社文庫)

江戸時代を舞台に謎の超能力集団「鬼道衆」の暗躍を描く、元祖時代伝奇SF。

時代伝奇小説としては唯一山田風太郎に匹敵する作品だと私は思う。

エロティックな描写のみずみずしさでは山風をしのぐ。

6.「ノーストリリア」  コードウェイナー・スミス (ハヤカワSF文庫)

本書というより、コードウェイナー・スミスという謎の作家の未来史シリーズのまるごとランクインだ。「人類補完機構」という言葉は本書のシリーズ名が元祖なのだ。お間違いなきよう。

地球をまるごと買ったロッド少年とともに、魅惑の猫娘ク・メルとの出会いをぜひ経験してもらいたい。

7.「夜の翼」  ロバート・シルヴァーバーグ (ハヤカワSF文庫)

はるか数万年後の未来。気象改造計画で激変した地球を旅する三人組。繊細な翼を持つ美少女。異形の変形人間。超感覚増幅装置を手押車に乗せた老人。

滅びの予感を持ってさすらう異人たちの旅は波瀾万丈かつ幻想的だ。

SFはイマジネーションの勝負だとあらためて思う。

8.「家畜人ヤプー」  沼正三 (幻冬舎アウトロー文庫)

マニアックな「マゾ小説」として有名だけど、奇想天外な未来の描写の緻密さと発想の飛躍の大きさは超一級のSFだ。

それにしても本書の日本人男性の未来は・・やれやれである。

9.「エンダーのゲーム」  オースン・スコット・カード (創元SF文庫)

軍隊訓練所での天才少年の過酷なサバイバル。

これだけでも十分に面白いし感動できるけど、本当は続編の『死者の代弁者』とあわせて読むとより面白い。

ただ、本書の「異星人観」にはちょっと納得できないところもあるのだけどね。

10.「ジュラシック・パーク」  マイケル・クライトン (ハヤカワNV文庫)

やはり一級のエンターテインメントだ。

細部までゆきとどいた架空世界の緻密な描写は、映画の見事な映像とも十分に勝負できるだろう。

映画を観た人にも迷わずすすめられる一冊。

SF古典ベスト10

科学的に旧びるというSFの宿命だが、だから分けたというわけではない。読むものすべてが新鮮だった若き日の思い出のためのランキング。(一部の例外をのぞいて)私が十代で読んだ懐かしき10冊。

1.「未来のイヴ」  ヴィリエド・リラダン (創元ライブラリ)

元祖「現実の女性より女性らしい」女性ロボット。

その名はハダリー。

生みの親は、あのトーマス・エジソンだ。

2.「火星のプリンセス」  E・R・バローズ (創元SF文庫)

元祖ヒロイックファンタジーSF。

剣と超科学と美女と怪物。

巻置くをあたわずというのは本書のような小説をいうのだね。

3.「裸の太陽」  アイザック・アシモフ (ハヤカワSF文庫)

ロボット小説の巨匠のロボットものの代表作と言えば『鋼鉄都市』だ。

本書は続編だけど、評価は一段落ちる。

だけど、最初に読んでしまった関係上本書に思い入れが深い。普通は「鋼鉄」から読みましょう。

4.「火星人ゴーホーム」  フレドリック・ブラウン (ハヤカワSF文庫)

元祖ドタバタ爆笑SF。

究極の「こんな宇宙人はいやだ」SF。

5.「地球幼年期の終わり」  アーサー・C・クラーク (創元SF文庫)

常にオールタイムベストに顔を出す定番中の定番。

優しき宇宙人「上主」族が姿を現すシーンはやはりSF史に残る名シーンだろう。

6.「宇宙船ビーグル号の冒険」  ヴァン・ヴォークト (創元SF文庫)

映画『エイリアン』の元ネタとして有名だけど、映画はもちろん同時代の他のSF小説と比べても、独特のSF的雰囲気の「濃さ」は抜群だ。

宇宙船内の権力闘争に主人公が知性だけで勝ち進んでいくストーリー展開もわくわくする。怪物ホラーなだけではないよ。

7.「夢みる宝石」  シアドア・スタージョン (ハヤカワSF文庫)

SF全集で読んだのだけど、これはファンタジーだなあ。

主人公は地中の宝石生物の夢から生まれた少年。継父の虐待から逃れた先が異形のサーカス団。超能力にめざめた少年の恋と復讐。

読んでくださいとしか言えない種類の名作。

8.「虎よ、虎よ、」  アルフレッド・ベスター (ハヤカワSF文庫)

顔に虎の刺青をされた超能力者ガリバー・フォイルの復讐譚は、かっこよさに満ちあふれた旧さを感じさせない快作。

主人公が結構悪党なのも当時のSFとしては掟やぶりだった。

9.「モロー博士の島」  H・G・ウェルズ (創元SF文庫)

元祖マッドサイエンティスト。だけでなく、宇宙戦争も透明人間も時間旅行もほとんどのSFテーマはウェルズが生みの親だ(SFの祖父はヴェルヌで曽祖父はポーかな)。

イギリス的ユーモアと人間悲劇の傑作『透明人間』とどちらにしようか迷ったが、今回は怪奇性と文学的香気が両立した本書に軍配を挙げよう。

10.「地底旅行」  ジュール・ヴェルヌ (創元SF文庫)

まさに旧きよき時代の雰囲気に満ちあふれているSF。空想科学冒険物語とでも呼んだ方がよく似合う。

これまた『海底二万哩』と迷ったのだが、こわもての学者ヒーローリンデンブロッグ教授に敬意を表して本書を。

恐竜もでてくるしね。

SF短編ベスト10

SFのアイデアストーリーとしての醍醐味は短編にこそあると思わせられた珠玉の10編。

著者名の次は収録短編集書名。

1.「安全金庫」  グレッグ・イーガン 「祈りの海」 (ハヤカワSF文庫)

なにをどう紹介してもネタばれになってしまう。だけどミステリーではない。

謎が解けたとき私がおそわれた感動は(タイムマシンも宇宙船もバトルスーツも出てこないけど)SF以外では味わえないものだ。

2.「夢の積荷」  J・G・バラード 「第三次世界大戦秘史」 (福武文庫)

作者が長編『結晶世界』や『沈んだ世界』で描いた「腐蝕する世界」の美しさは、この短編でも健在だ。

そして『夢幻会社』で描かれた虐げられた男の変身シーンの開放感も、この短編で味わうことができる。

3.「シェイヨルという名の星」  コードウェイナー・スミス 「シェイヨルという名の星」 (ハヤカワSF文庫)

これほどに異様でグロティスクでファンタスティックでかつ美しい小説を他に知らない。

4.「ジャクリーン・エス」  クライブ・バーカー 「レベッカ・ポールソンのお告げ」 (文春文庫)

これほどに血みどろでグロティスクでエロティックでかつ美しい小説を他に知らない。

5.「おーい出てこい」  星新一 「ボッコちゃん」 (新潮文庫)

千ものショートショートを書いた作者のごく初期の作品だけど、最高傑作。

短い短い話の向こうにめまいがするような無限の空間を感じさせられる。

それも「無限」とか「永遠」とか、ご大層な言葉は一切でてこないのに。

6.「心にかけられたる者」  アイザック・アシモフ 「聖者の行進」 (創元SF文庫)

ロボット物語を書き続けた巨匠の「究極の」ロボット小説は、映画化された「二百年の男」ではなくこちらだと思う(「最高の」ロボット小説かどうかはわからないが)。

静かで静かで少しだけ無気味なラストが最後のロボットにふさわしい。

7.「トラブル」  筒井康隆 「ベトナム観光公社」 (中公文庫)

三十年も前にこれを読んだときはびっくりしたなあ。まさに肉体のパイ投げ。シュールレアリストの絵画を文章でやってしまうとは。

この作者は当時からずうっと前衛にいる。

敬服。

8.「影が行く」  ジョン・W・キャンベル 「影が行く」 (創元SF文庫)

映画『宇宙からの物体X』の原作だけど、映画の三十倍は面白い。

怪物のよみがえるシーンの怖さだけで元はとれます。

レビュー

9.「ジャンク」  小林泰三 「肉食屋敷」 (角川ホラー文庫)

最近読んだ日本SF(あまり読んでいないが)では出色。

さわやかなウエスタン調とダークファンタジー調のグロティスクさの按配がなんともいえずいい感じだ。

10.「ミミズ天使」  フレドリック・ブラウン 「天使と宇宙船」 (創元SF文庫)

最後は、この奇想天外で心あたたまるファンタジーを。

SFかどうか微妙なところだが、タイトルに仕掛けられた人をくった真相はこの作者ならではだ。

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